表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第2章 レイフの森 平定編
48/282

第46話 魔獣討伐①

改稿済みです。



 ドン!



 もう何度目かになる振動が洞窟に響き渡る。

 かなり頑丈に組み上げた土壁だが、最早破られるのも時間の問題だろう。



「コルトお兄ちゃん……」



「……大丈夫だ、魔犬は魔獣の中でも賢い部類だ。同じ場所に長時間とどまることは無いハズ。もう少ししたら、いなくなるよ」



 震えながらも、なんとか絞り出した俺の言葉を、幼い妹は信じてくれただろうか?

 ……いや、賢いこの子のことだ、この壁が長くもたないことくらい、既に気づいているかもしれない。



 この洞窟に立て籠もってから、もう二時間近く経過している。

 魔犬が一度の狩りかける時間は、せいぜいが一刻程度……、これだけの時間同じ標的に執着するのは明らかに異常だ。

 それに、もう一つ気になるのは、救援が一切来ないことだ。

 普段、丁度今頃の時間は、近くの集落の大人達が、狩りの帰りに近くを通るはずなのである。

 彼らが通れば、この状況に気づかないハズがない。


 彼らは俺達を受け入れてくれはしなかったが、友好的に接してくれはしていた。

 そんな彼らが、この状況に気づきながら見捨てるとは考え難い。

 もしかしたら、彼らにも何かあったのかもしれない……



 ドン!



 衝撃が走り、土壁にヒビが入る。

 その都度、精霊に呼びかけて補修を行うが、俺の魔力もそろそろ限界に近い。



「アンナ! 向こうの状況は分かるか!?」



「確認する…………」



 アンナは目が見えない代わりに、精霊を介して気流を読むことに長けている。

 その能力を駆使し、壁の向こう側の状況を探ってもらっているのだ。



「嘘よ……、こんなことって……」



 その反応を見ただけで、状況がかなり悪いことはわかった。

 しかし、聞かないわけにはいかないだろう。



「……アンナ、状況は?」



「……魔犬が8匹。これはさっきと変わらない。けど、何故かシシ豚までいるの。今体当たりを仕掛けているのは、そのシシ豚よ」



「なんだって!?」



 確かに、先程から急に衝撃が強まったとは思ったが……、シシ豚だって……?

 シシ豚と魔犬が、協力して狩りをするなど、聞いたことが無い。

 むしろ、お互いが捕食関係にあったはず……

 何故、そんなことが……



「……アンナ、アンネ、済まないけど、空壁も重ね掛けしてくれないか? このままじゃ、いつ突破されてもおかしくない……」



「「わかった!」」



 二人は、俺の指示に従い空壁を展開する。

 しかし、指示は出したものの、空壁は本来であれば炎や矢を防ぐ防御術である。

 物理的防御力も無くは無いが、直接的な攻撃にはあまり意味を成さないだろう。

 ……それでも、少しでも防御力の足しになってくれれば……



「ハロルド! マリク! 奥から土と、何か重石になる物を持ってきてくれ!」



「う、うん……」



 ハロルドが頷き、それに続いてマリクも奥へ駆け出す。

 妹のエステルやハロルド達はまだ幼く、術も満足に扱えないため、外精法での助力は期待できない。

 それでも、全員が協力しなければならない程、状況はひっ迫していた。

 本当は狩りに出ていた四人にも助力を願いたい所だが、この状況では、恐らく既に……



 ドン!!



 悲嘆的なことを考えていると、ひと際大きな衝撃が洞窟内に響く。

 たった一撃で、壁が崩れかけた!?

 先程までとは桁違いの衝撃である。

 一体、何が……?



「アンナ!」



 俺が指示を出すまでも無く、アンナは既に気流操作で外の状況を探っていた。



「……っ!? ダメ! コルト離れて!」



「っ!?」



 ドン!!!



 アンナが叫んだ直後、再び凄まじい衝撃が走り、土壁は完全に崩れさってしまった。

 辛うじて後ろに跳んだ俺とアンナ達は、目の前に現れた存在に震え上がる。



「ふ、復讐者……」



 熊のような体格に長い手、鋭い爪、牙、そして醜悪な顔つき。

 復讐者と呼ばれるその魔獣は、手出しをしなきゃ無害な魔獣言われているが、この姿を見る限り、とてもそうは思えなかった。

 しかもこの復讐者は、間違いなく俺達を標的にしている……



「ごめんな……。エステル、みんな……」



 何故狙われたのかという疑問は、それ以上の絶望感により完全に塗りつぶされていた。

 自然と零れたのは、守ると誓ったはずの妹と、仲間たちへの謝罪の言葉である。


 復讐者は、俺達を屠ろうと洞窟の中に入り込もうとする。




 ――しかしその瞬間、復讐者は横から現れた何か(・・)に弾き飛ばされた。



「ハァ、ハァ……、何とか、間に合った、かな?」





 ◇





「酷いな……」



 ゾノの案内で小人達の集落へやってきた俺達は、その惨状に思わず呻いた。

 原型の残った家屋はほとんど無く、辺りには夥しい量の血肉が飛び散っていた。

 だというのに、小人達の死体はほとんど見つからなかった。

 時折、何かの骨の様なものが見つかることから、住人達はほとんど食い荒らされてしまったのだろう。



「……駄目だ。生きている者どころか、死体すら見つからん。逃げたのでなければ、もう……」



 集落の近辺をうろついていた魔獣は一通り始末したが、せいぜい魔犬が数匹程度であった。

 群れと言うには、規模が小さすぎる。

 あの程度の数で、これ程の惨状を引き起こせるとは到底思えない。

 つまり、魔獣達の群れは既に別の場所に移動したと考えていいだろう。



「……北の隠れ家、だったか。ゾノ場所はわかるか?」



「いや、そこまでは俺もわからん……」



 まあ、そうだろうな……

 ここら一帯には小さな集落がいくつかあるが、基本的にあまり交流を持っていないらしい。

 訳ありで流れ着いた者同士、不干渉を決め込むのは当然と言えば当然の話である。

 そんな事情もあってか、集落自体の存在は知っていても、その周囲に何があるか等は知られていないようだ。



「とりあえず、北に向かってみるか……」



「……っ! 待ってくれトーヤ殿!」



「リンカ? どうしたんだ?」



「しっ……」



 口元に人差し指を当て、沈黙を要求される。

 リンカの狐耳が、ピクピクと動く。



「……捕らえた。複数の魔獣の呼吸だ。ここから先、一里程進んだ所に集まっている」



 これは驚いた……

 リンカは一里程進んだ所と言ったが、魔界の一里は現代日本で言う一里とそう変わらない。

 つまり、七キロメートル以上離れた場所の音を聞き取ったということになる。

 狐は聴覚に優れると言うが、やはり獣人はそういった能力も獣に近いのかもしれない。



「ありがとうリンカ、助かったよ。……案内できるか?」



「あ、ああ、もちろんだ! 皆、私に付いて来てくれ!」



 顔を赤らめ、慌てたように駆けだすリンカ。

 何故顔を赤らめたのだろうか……?


 まあそれはともかく、リンカを見失わないよう俺達も駆け出す。

 しかし、徐々にだが俺の足が追い付かなくなり始めていた。



(……内精法で強化しているとはいえ、流石に獣人に足を合わせるのは厳しいな)



 それでもなんとか引き離させぬよう走っていると、リンカが急に停止する。



「ハァ、ハァ、……どうした?」



「小人だ。樹上を逃げ回っている」



 っ!?

 リンカの視線を追うと、数匹の魔犬が木の根元を行ったり来たりしているのが確認できた。



「助けるぞ!」



 俺達は全員、ほぼ同時に駆けだす。

 途中、魔犬がこちらに気づき、牙を剥いて飛び掛かって来たが、そんな単調な攻撃は避けるまでもない。



「ハッ!」



 呼気と共に、レンリで魔犬の喉を突く。

 そしてそのまま地面へ打ち付け、一気に止めを刺した。

 他の皆も、各々の獲物で魔犬をねじ伏せたようだ。



「大丈夫か!」



「あ、あんた達は……?」



「俺達は小人達の集落から助けを求められて来た!」



「た、助け!? 本当に!?」



 慌てたように木から飛び降り、近寄ってくる小人族。

 少し毛深く、一見すると獣人のようにも見えなくはないが……



「……どうやら、怪我は無さそうだな」



「あ、あんた達、本当に助けにきてくれたのか?」



「ああ、小人族の集落の者に、北の子供達を助けてくれと言われてな」



「っ! そ、それじゃあ、頼む! 仲間を助けてくれ! アイツら、洞窟に立て籠もっていて……」



「……! トーヤ殿、マズイぞ。その子供の言うことが本当ならば、魔獣達はその洞窟の前に集まっているようだ」



「なんだって!?」



「音から察するに、攻撃を受けているようだ……。このままだと、走っても間に合わないな……。トーヤ殿、掴まってくれ。跳ぶ(・・)ぞ!」



 跳ぶって……、ああ、アレか!

 俺は慌てて、リンカに背負われるような状態で掴まる。

 瞬間、景色が一気に後退し始める。



(す、すげ……)



 これがあの試合の際、リンカの見せた高速移動術か。

 とてつもないスピードだ……

 この速度で攻撃や方向転換を行っていたというのだから、その身体性能の高さに愕然とする。



「……っ! 見えたぞ!」



 リンカが空壁を蹴り、急速停止する。

 俺はそれだけで三半規管が揺れ、吐きそうになってしまった。



「っぐ……、か、囲まれているな……」



「……トーヤ殿、私を踏み台にして囲いを抜けろ。奥のアレは復讐者だ。普通に突破しては間に合わない」



 そう言って、両手を組んでこちらを向くリンカ。

 魔獣達もこちらに気づいた、迷っている暇はない。



「すまん! ここは任せた!」



「ああ、任された! 行け!」



 リンカの両手に足をかけ、振り上げる力を利用して思い切り跳躍する。

 数十匹はいる魔物の囲いを抜け、着地。

 前方を確認すると、壁を破り、今にも洞窟に突入しようとする復讐者が見える。

 俺はそのまま一気に加速し、全力で復讐者の脇腹に突きを入れた。


 復讐者は派手に吹っ飛んだが、手応えからして大したダメージを与えられていない。

 奴から洞窟を守るように立ち、後方を確認する。

 子供達が、恐怖と驚きが入り混じったような顔で、俺を見ていた。



「ハァ、ハァ……、何とか、間に合った、かな?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ