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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第1章 レイフの森
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第4話 ライとの共同生活(後)



「う~、さぶい…」



 早朝の森は、中々に肌寒い。

 今後はもっと寒くなるそうなので、正直かなり不安だ。


 ちなみに、魔界にも季節は存在するらしい。

 魔界の季節は、日本のような四季ではなく、前中後という3パターンので分けられているらしい。

 前→中→後→中→前…といった流れで移り変わるのだそうだ。


 今は丁度、中季にあたるらしい。

 これから寒くなるという事なので、四季で言うと秋が当てはまるだろう。


 俺は寝床を出て、壁にかかっている上着を着こむ。

 ちなみにこの上着は、ライのお手製だ。

 今着ている服もそうなのだが、結構しっかりとした作りをしており、中々に着心地が良い。

 元着ていた服については、悪目立ちするとの事で、今は収納庫の奥に閉まってある。

 恐らく、もう着ることは無いだろう。


 こういった衣服に関しては、ごく稀に訪れる行商に売りつけるらしく、それなりに量を作り貯めしているようであった。

 しかしいくら、量があるからと言って売り物をタダで貰うのは気が引ける…

 ということで、俺はその対価を体で払う事にしたのである。。

 もちろん、労働力的な意味で。



「おはよう、ライ。今日も稽古か?」



「おはようトーヤ。稽古なんて呼べるものじゃないよ。ただの素振りだね」



 共同生活を始めて5日目となるが、ライはこの素振りを毎日続けている。

 ライは体力作りの一環だと言っていたが、何度も見ているうちに、これがただの素振りでない事くらいは気づいていた。



「ライ、ライはその素振りをただの体力作りだなんて言ってたが、それって何かの型だろ?」



「型…、というか昔、父さんに教わった棍棒の使い方なんだ。もうずっと続けているから、すっかり習慣化しちゃったんだよね」



「上段、中段、下段それぞれの構えからの打ち込み、しかも防御も意識しているだろ? 凄い実戦的じゃないか」



 俺がそう言うと、ライはきょとんとした顔をする。

 あれ、俺、何か変なこと言ったか?



「…驚いた。この素振りをそんな風に見られたのは初めてだよ。トーヤは変わっているね」



 変わっている、のだろうか…

 まあ確かに、普通はただの素振りに対し、わざわざ動きを観察したりはしないか…

 ただの素振りなんて、本来は見ていてもなんの面白みも無いからな。

 しかし、ライの洗練された一連の動作は、中々に目を惹くものがあった。

 だからついつい、その動きの意味を考察してしまったのである。



「なあライ、その杖術だか棍棒術は、何かの流派だったりするのか?」



「いや…、僕も父さんに教わっていただけだから、流派とかはわからないよ。この基本動作以外にも、技みたいなものはあるんだけど、何故かちゃんと教えてくれなかったんだよね…」



「ふむふむ。…なぁライ、俺にもその棍棒術を教えてくれないか?」



「えぇ? 本気で言っているの?」



「本気だよ。俺も身を守るすべくらい欲しいからな」



 まだ見たことは無いが、この周辺には魔獣や盗賊も出現するらしい。

 このまま魔界で生活を続けていれば、それらとの遭遇は避けられないだろう。

 基本的に弱肉強食であるこの魔界において、敵対者より弱いことは、すなわち死を意味する。

 恐らくライは、弱者である俺を守ってくれるだろう。

 しかし、そんな関係がいつまでも続くとは到底思えない。

 最悪、俺が足手まといになった事が原因で、ライが命を落とす事すらも…

 それだけは、絶対にイヤだ…



「うーん、気持ちはわかるけどね…。でも、普通そういう場合、魔法を学んだり、剣術を学ぶものだよ?」



「魔法に関しちゃ、色々研究してみるつもりだよ。剣術は…、興味が無いわけじゃないけど、俺はライの棍棒術の方が興味あるな」



 ライの棍棒術は素人目に見ても洗練されていたし、力強さも感じられた。

 達人だとかは俺が判断できることじゃないが、道場の師範代だと言われてもまるで違和感が無いくらいの雰囲気はあると思う。

 ライは何事も教え上手だし、その教えのもとであれば、俺もそれなりに成長できるのではという淡い期待もあるしな。



「…やっぱり、トーヤは変わっているね。集落で生活していた頃も、わざわざ稽古に付き合う人はほとんどいなかったのに」



「それって少しはいたって事だろ? そいつらもきっと、何かを感じたから付き合ったんじゃないかな?」



「…そう、なのかな。…うん、わかった。いいよ。僕も稽古相手は欲しかったしね」



「おお、ありがとう! 助かるよ!」



「はは、そんな喜ぶような事じゃないよ。僕だってまだ修行中の身だし、人に教えられることなんて、ほとんど無いからね」



「そんな事ないって! 俺が保証する!」



 自分で言ってて、それが何の保証になるんだと思ったが、気にしてはいけない。

 ライも冗談だと思って、軽く受け止めてくれたようである。



「さて、じゃあ早速だけど、まずは素振りを1000回ほどしてみようか」



「え…」




 ――――その日より、ライの意外とスパルタな指導が始まったのであった。





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