第265話 会談前の打ち合わせ
『荒神』に着いて早々、俺はソウガに攫われるように軍議の間に連行され、缶詰状態になった。
「やはり罠の可能性が……」
「いや、しかしこんな機会は滅多にないことだぞ」
このような事態は『荒神』建国以来初めてのことらしく、文官達はああでもないこうでもないと意見を付き合わせていた。
正直、こんな中に俺を放り込まれても口を挟む余地なんてないと思うのだが、肩書だけはこの国のナンバー2なのでいないワケにもいかない。
「トーヤ殿、改めて魔族側の思惑について確認したいのだが」
そんな俺を気遣って……というワケではないだろうが、タイガが俺に話を振ってくる。
既に一度話した内容ではあるが、改めて文官達を交えた上で説明をということなのだろう。
「まずですが、今回会談を望んでいるのは魔族の一部勢力に過ぎません。魔族全体の意思ではないということを理解して頂きたいです」
「魔族領は統一国家だろう! 別勢力がいるなどという話は聞いたことがないぞ!」
初老の文官が、俺の言葉にすかさず意見を挟む。
他の文官達も、言葉には出さないが同じ意見であることが伺えた。
「それは情報が封鎖されているからです。実際は、大きく分けて三つの勢力があります」
これは、同じ魔族でも知る者が少ない情報だ。
交流のない他所の国とも言える亜人領では、得られるハズもない情報であった。
「実際に魔族領に潜伏していたトーヤ殿が言うのです、信憑性もあるでしょう」
俺の言葉に反論したそうな文官を制するように、ソウガが捕捉を入れる。
俺はそのまま流れにのるように続ける。
「三つの勢力は定義上、現魔王派、第3王子派、そして今回の会談を持ち掛けてきた第13王女派と呼称します」
第3王子である排は、自分の存在を巧妙に隠しているが、裏で手引きをしているの黒幕であることは間違いない。
だから第3王子派と呼んでしまっても問題ないだろう。
「……ふむ。現魔王派はわかるが、他の勢力は何故生まれたんだ?」
「大きな理由は思想の問題と、現魔王派の力が衰えたことによるものです」
「力が衰えた?」
「はい。これは私が直接確認したワケではないので確証がありませんが、どうやら現魔王であるスルベニア・ゾットの寿命が尽きようとしているようです」
「「「「「「「「なんだと!?」」」」」」」」
この情報には文官達も驚いたようで、一部の者は椅子ごとひっくり返っていた。
(そりゃ驚くよな。他所の魔王が死にそうなんて、ビッグニュース過ぎる)
俺だって、紫から直接聞いた時は心底驚かされた。
恐らく、魔界史における最大のニュースと言っても過言では無いからな。
現魔王は全員、少なくとも600年以上生きている。
その魔王の一角が崩れるなんて、魔界に住むほとんどの住人は考えもしないことだろう。
「それは本当なのか!!!!」
「ですから、確証はありません。ただ、これは実の娘である紫本人から聞いた話なので、信憑性はあると思います」
「その紫とやらが真実を語ったという保証はあるのか?」
「それは――」
「トーヤ殿は、相手の言葉の真偽を見抜く秘術をお持ちなので、その点は問題ないでしょう」
俺が言う前に、ソウガの方から補足が入った。
確かに俺自身が口にするより、ソウガが説明してくれる方が信用度は高くなる。
先程からナイスフォローだ。
「なんと、そのような秘術が……。それがまことであれば、トーヤ殿の言葉を疑う余地はありませんな」
「確かにそうだが……、それを信用できるかは……」
「気になるようであれば、確認してもらっても構いませんよ」
その方が、こちらとしてもやりやすくなるし助かる。
一々俺の言うことを疑われては、いつまで経ってもこんな会議は終わらないだろうからな。
「それは面白い。では、今から俺が言うことが真実かどうか、それを判断してもらおうか」
意外にも、一番に乗ってきたのはタイガであった。
タイガは既にソウガから報告を受けているだろうし、今さら聞くまでもないと思ったのだが……
「なに、一度この目で見ておきたいと思ったまでだ。それで、どうだ?」
俺の疑問を表情から読み取ったのか、タイガは笑いながらそう付け足す。
「いえ、問題ありません」
「では、俺の兄弟は、ソウガやリンカだけだ。……どうだ?」
「っ!?」
俺の読心術は、アンナに比べれば精度が低い。
しかし、相手に偽る気がなければ、ほぼ100%的中させることができる。
タイガの言葉の真偽を読み取った結果は――
「う、嘘です」
「ほう。正解だ」
タイガはニヤリと笑ってそう答える。
その瞬間、真っ先に反応したのは文官達であった。
「「「「「「「「それはまことですかタイガ様!?」」」」」」」」
どうやら、この話はここにいるほとんどの文官達にすら知られていない話だったらしい。
こんな場で、そんなぶっちゃけ話を持ち出さないでくれよ……
「事実だ。俺には姉と兄、それに弟が一人いる。なあ、ソウガ?」
「はい。兄上に関しては私も会ったことがありませんが、姉上であるライカ様と、弟のロウガには一度会ったことがあります」
「なんと! しかも、三人もおられるのですか!」
「ああ。まあ行方はわからんがな」
俺も心の中で文官の爺さんと同じツッコミをしてしまった。
いや、魔王も600年生きてるんだから、子供の4人や5人いてもおかしくないけどさ……
「ちなみに、このことは親族以外では一部のご隠居達しか知らないことだ。もちろん、左大将になったばかりのトーヤ殿も知るハズがない。これでトーヤ殿の秘術が本物であると証明された、ということで良いな?」
「「「「「「「「は、はぁ……」」」」」」」」
文官達は納得したように頷くも、頭の中はそれどころではない様子だ。
そりゃそうだろう。キバ様も子供がまだ三人もいたなんて、これはこれで大ニュースだ。
それが幸いしてと言っていいかはわからないが、俺の秘術の真偽など最早どうでもよい感じになっている気がする。
話は一度脱線しかけたが、その後の会議はスムーズに進行することとなった。
(会議って、インパクトみたいなのも大事なのだなぁ……)
俺は変なところで感心するのであった。
現在、更新を停止しています。
別連載の方が落ち着き次第再開予定です。