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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第260話 ジュラの子



女性関係の問題は一旦置いておくとして、やることは目白押しだ。

俺がいない間に増えた住民たちの確認を含めた集落の視察に、城で行われている教育の進み具合の確認、それに子供達の今後についても考えなければならない。

さらに、森の平定自体は俺がいた頃に粗方片付いていたが、手が行き届いていない地域もある。

そういった地域への対応もしなくてはならないだろう。


書類仕事も溜まっているし、荒神と(ゆかり)達の橋渡しについても準備しておかなくてはならない……



(体がいくつあっても足らないな……)



俺はひとまず書類仕事は後回しにして、まずは城内の視察をすることにする。

この二年で内装自体は変わっていないが、住民には幾分か変化があったようだ。

その確認も含めて、一度俺が顔を出した方が良いだろう。

……決してサボりではない。


と、そんなこと考えながら廊下を歩いていると、凄い勢いで小さな何かが角を曲がってきた。

この勢いでは怪我をしかねない為、優しく受け止める。



「うが?」



一瞬、小動物か何かだと思ったのだが、違った。

自分の手に収まっているのは、間違いなく赤ん坊であった。ただ……



「ガル! 待ちなさい!」



この子を追うように現れたのは、トロールの女戦士ジュラである。



「っ!? トーヤ様!」



「ジュラ、久しぶりだね」



実のところ、彼女と顔を合わせたのはここに戻ってきてから初めてのことであった。

俺が戻った際、ほとんどの住人とは顔を合わせていたが、彼女はその際も俺の前に現れなかったのである。

……成程。その答えがこの子か。



「トーヤ様、お戻りになられた際、真っ先に会いに行くべきでしたのに、今まで会いに行けず申し訳ありませんでした」



「いや、いいんだ。この子の子守をしていたんだろ? だったら仕方がないさ」



この子、ガルと呼ばれていた赤ん坊は、普通では無かった。

トロールに稀に生まれると言われる多頭のトロール……

それも、あのゴウよりも多い三頭なのである。

なんとなく予期してはいたのだが、まさか本当に生まれるとはな……


もしこの子がゴウと同じ性質を持っているのであれば、ジュラが目を離せないのも当然であった。



「うが! うが!」



「よしよし、大人しくしような」



俺はこの子の精霊に干渉し、鎮静を促す。

普通よりもかなり効き目が弱いが、ガルは段々と落ち着いてき、素直に俺に抱かれた。



「嘘……、トーヤ様、一体どうやって……?」



「魔力の同調と、精霊への干渉だよ」



この技術は、凌辱を受けていた(すずめ)達や、先日助けた(らん)という獣人に使用した鎮静療法と同様のものである。

壊れかけた精神すらも癒すこの技法は、通常の倍以上の感情制御を必要とする多頭のトロールにも有効のようだ。



「……やっぱり、この子もゴウと同様、精神が不安定のようだね」



「……恐らくは、ですが。注意して見ていると、やはりそのような兆候は見られます」



かつてジュラ達は、ゴウの内面で発生している異常に気づくことができなかった。

しかし、今はその可能性を知っているからこそ、ガルの異常性にも気づくことができる。



「トーヤ様、先程、精霊への干渉と言っていましたが……」



「うん。特殊な技術だから、普通には無理かな。でも、魔力の同調なら、ジュラにもできるようになると思うよ」



魔力の同調は、闘仙流の基本技術でもある。

これができれば、ある程度感情の状態を読み取ったり、或いはそれに干渉することも可能となる。



「本当ですか!?」



「本当だよ。闘仙流の『破震』はこの技術の応用だからね」



闘仙流の技は、ハーフトロールであるドウドやライドでも覚えられている。

ジュラも年齢的にはまだまだ若いし、その位であれば十分に覚えることが可能だろう。



「トーヤ様、その技術、是非私にも……」



「もちろんだよ。この子の将来にも関わることだしね」



幼少の頃より精神制御の技術を学ばねば、ガルがゴウの再来となってしまう可能性もある。

いや、例えそうでなくとも、仲間への協力を惜しむつもりはなかった。



「話は通しておくから、技術についてはスイセンから学んでくれ。俺が直接教えたいところだけど、正直手が回せるかわからない状態なんでね……」



本当であれば、精霊への干渉もできる俺が傍についてやるのがベストなんだが、今の状況でそれは難しい。

スイセンには近衛の仕事を少し減らしてもらい、代わりにジュラのことを任せたいと思う。



「あ、でももし手に負えない事態が発生したら、いつでも俺を呼んでくれて構わないよ。スイセンやアンナでもいいけど、ともかく自分だけでなんとかしようとせず、必ず誰かに頼るんだ」



「……はい。ありがとうございます。トーヤ様」



深々とお辞儀をするジュラに、ガルをそっと返す。

鎮静の効果が効き過ぎたのか、ガルはぐっすりと眠っていた。



「じゃあ、俺は行くよ。子育て、頑張って」



偶然とはいえ、気になっていたことの一つが解消された。

あとは、他の子供達の状況確認と、グラへの(ねぎら)いに、レイフへの挨拶に……と色々あるが、どうするか。

やはり一番気になるのは子供達のことだけど、2年も城を空けてて果たしてなんと思われていることか。

物凄く心配である……



(グレたりしてなきゃいいけど……)









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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 まさかの3つ首でしたか。 いや、以前読んでた時にきっと多頭トロールなんだろうなって思ってましたが、まさか伝説の3首とは。 キバ様、これを知ったら成長を楽しみにしちゃうでしょ…
2020/05/26 12:24 退会済み
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