第258話 帰還
ソウガは、俺が話した内容を一旦持ち帰りタイガや隠居達と情報の共有を行うそうだ。
左大将である俺も、当然それに参加すべきだと主張したのだが、俺はそれ以前にレイフでのあれこれを片付けてこいと言われてしまった。
後日改めて招集するとのことだったが、それなら俺も参加した方が早いと思うんだがな……
「何を考えているのです? トーヤ」
「いや、やっぱり俺もソウガについていった方が良かったんじゃないかとな」
「何を言っているのです。レイフの統治者たるトーヤがまずすべきなのは、レイフに帰ることでしょう?」
イオは、さも当然でしょうという態度でそう言ってくる。
しかし、それ以前に俺は『荒神』の左大将なのだから、どちらが重要かと言えば『荒神』の案件の方になると言えるだろう。
しかも今回の案件は、俺が仲介役となって間に入る必要があるため、色々と調整することが多い。
俺が直接タイガ達と話した方が、効率が良いのである。
「……らしくないですね。2年前の貴方であれば、迷わずレイフを第一と考えたでしょうに」
「それは……」
確かに、レイフにいた頃の俺は、まずレイフのことを第一に考えていた気がする。
しかし、魔界の状況を知った今となっては、それ以外のことも考えて動かなければという思いが強くなっていた。
だから、それを「らしくない」と思われるのは、仕方ないことかもしれない。
「イオ、それはトーヤ殿がこの2年で左大将として成長したということだろう」
「……そんなものですか」
リンカの進言に対し、イオは無表情に応えながらも若干の不満さを感じさせる。
……いや、これは俺の後ろめたさがそう感じさせるだけかもしれない。
「……正直に言うと、俺は2年も離れていたレイフに戻ることに、少し気後れしているよ」
「トーヤ殿……」
「リンカの言う通り、成長した面というのもあるだろうけど、イオの言うようにらしくないというのは、そういう部分も影響しているんだと思う」
人は、成長するとより合理的な考え方になるものだ。
しかし、合理的な考えだけど突き詰めていくと、人間性というモノはそれに比例するように薄れていく。
俺はそんな機械的な人間になるつもりはないし、もうすこし柔軟な思考を持つべきだろう。
「……帰ろうか。レイフへ」
◇
レイフに戻った俺は、思っていた以上に歓待を受けることになった。
2年も管理を放置していた俺に対し、オーク達は相変わらず救世主扱いだし、他の種族も表面上はみんな笑顔だった。
……いや、ひねくれた言い方はよそう。俺の拙い魔力視でも、彼らが本心で歓迎しているのはわかっているのだから。
「パパぁ!」
そんな雰囲気の中、真っ先に抱き付いて来たのはセシアである。
それに続くように、イーナとエステル、そしてカンナまでもが抱き付いてきた。
「カンナ! どさくさに紛れて、何故貴様までもが抱き付いている!」
「わ、私だって、この日をずっと待っていたんですから! このくらいの役得は許されるべきよ!」
カンナは以前『荒神』の武闘大会で知り合った治癒術士だ。
レイフに配属希望を出したという話は聞いていたが、こうしてレイフで会うのは初めてである。
「本当に、レイフに転属してきたんですね……」
「もちろんです、トーヤ様。ここでの働きを認められ、いずれは妾となるのが私の夢ですから!」
そういえばこの人、初めて会った時もそんなこと言ってたな……
あれは本気だったのか……
「あ~、それにしても、みんな大きくなったな」
子供にとって2年という数字は中々に大きなものだ。
イーナやエステルも背丈が10センチほど伸びていたし、セシアに至ってはもう完全に大人の女性の体になりつつある。
リンカなどと比較しても遜色のないプロポーション……
彼女は本当にオークなのだろうか?
「パパぁ! セシア、すっごい寂しかったんだよ!」
中身はまだ子供のままのようだが、体は大人のソレなので反応に困る。
グイグイと押し付けられる胸の感触は、布越しとはいえ凄まじく柔らかく、軽く理性が飛びかねない。
「セ、セシア、気持ちはわかったから、少し離れてくれ!」
セシアは娘のような存在だが、だからといってそんな情熱的に迫られれば反応はしてしまう。
男とはそういうモノなのだ。
「そうだよセシア! セシアばっかりズルイ!」
「そうです!」
セシアが多くの面積を占有するせいで、ちょこんとしか抱き付けなかったイーナとエステルが文句を言っている。
この二人も、こんなに甘えてくるようなタイプじゃなかったと思うが、2年もいなかったせいで流石に寂しさを感じていたのかもしれない。
「イーナもエステルも、大きくなったな」
そう言って二人の頭を撫でると、目を細めて幸せそうな顔をする。
全く、可愛すぎて抱きしめたくなるな……
「……三人共、あとでちゃんと時間を作るから、今は解放してくれるかな」
「「「はーい」」」
素直で助かる。良い子に育っているようでなによりだ。
「トーヤ様……」
その後ろで、飛び出せずにいたらしいスイセンと目が合う。
「スイセン……、色々と迷惑をかけて、済まなかったな」
「そんな迷惑だなんて……。それに一番大変だったのは、トーヤ様の方でしょう?」
一番だったかどうかはわからないが、大変だったことは確かだ。
それは『縁』による繋がりを持つスイセンにも伝わっているハズなので、否定することはできなかった。
「それでも、統治者でありながら2年も離れていたのはやっぱり問題だよ。この埋め合わせは、後で必ずしなくちゃな」
「そうだねトーヤ。僕もこの2年で、色々な雑務を覚えさせられてしまったよ」
そう言って歩み寄ってきたのはライである。
ライは基本的に事務には携わっていなかったハズだが、どうやらこの2年はソウガやグラの補佐も務めていたらしい。
俺的には事務員が増えるのは大歓迎なのだが、元々戦士であるライにそれをさせてしまっていたのは少々心が痛い。
「……ライにも色々と迷惑をかけてしまったな」
「うん。でも気にしてないよ。そんなことよりも、君がちゃんと帰ってきてくれたことの方が重要さ」
ライの他にも、ザルアやソク、グラ達まで集まってきていた。
総出でお迎えとは、嬉しいけど少し気恥しいな……
「おかえり、トーヤ」
「ああ……。ただいま、みんな」
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