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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第253話 矢の雨



(なんだなんだ!? 何が起きてやがる!?)



敵襲の報に慌てて飛び出して来たら、目の前で何かが弾けて腰を抜かしそうになる。

どうやら矢か何かのようだが、驚くべきことに全く音が聞こえなかった。

(けい)がいたから何とかなったものの、もしいなければ、俺は今頃……



「っ!?」



またしても飛来した無音の矢を、今度はしっかりと視認した上で撃ち落とす。

厄介な攻撃ではあるが、視認さえしてれば俺でも射ち落とすくらいは問題なさそうである。

しかし――



「お前ら! 俺を守りやがれ!」



もう一人の襲撃者がこちらに向かって駆けてくるのを確認し、すぐさま防陣を組ませる。

人数は心許ないが、最悪でも矢避けくらいにはなってもらわなければ話にならない。



(景は……、無理そうだな……)



もう一人の襲撃者は景がなんとか凌いでいるが、相当な手練れのようである。

こちらへの助力は期待出来なさそうであった。



(アレが俺の方に来なかっただけ、良しとするか……)



景が対峙している相手は元々俺の兵士だったようだが、あれだけの実力をよくもまあ今まで隠してこれたものだ。

まず間違いなくあの女の手の者なんだろうが、あんなのとやり合う気には到底なれない。

それに比べれば、こちらに向かってくる男の方が数倍やり易そうな相手であった。



(となると、やはり問題はあの弓兵か……)



弓兵は、無音の矢から通常の矢に切り替えて、こちらを射かけている。

その精度が凄まじく、兵士達は弾くので手いっぱいになっていた。

そこそこの精鋭のハズなのだが、全くもって使えない……



「おいお前ら! 矢だけは通すんじゃねぇぞ!」



「「「「「り、了解しました!」」」」」



こうなれば、面倒だが俺があの男を仕留めるしかないだろう。



(一騎打ちなんて、俺の主義じゃねぇんだがな……)



嫌々ながらも剣を構えようとすると、襲撃者の姿が霞んで消える。



(っ!? (さく)を使いやがるのかか!)



急激な速度変化……、だが、俺の目はしっかりと襲撃者の姿を捉えている。



「見えてんだよ!」



死角に回り込んだ襲撃者を、巻き込むように剣で切り払う。

襲撃者はそれを杖のようなもので受け、力に逆らわないよう受け流した。



「……軍師と聞いていたが、武力も中々あるようだな」



「ああ? もしかして、そっちの奴から聞いたのか? だったら残念だったな。俺は滅多なことで戦わねぇから、勘違いしたんだろうよ」



大分薄まってはいるが、俺だって魔王の血を引く者だ。

魔眼だって使えるし、普通の魔族と比べれば遥かに優秀な素質を持っている。

ただの獣人に後れを取るほど落ちぶれてはいない。



「そうか。まあ、やることが変わるワケじゃないし、構わないさ」



ほぅ、中々強気じゃねぇか……

あの女将軍といい、どうして獣人はこう気が強いかねぇ?



「俺の首を取るってか? 流石に無理だと思うぜ?」



この男の武力は、どう見積もってもあの女将軍以下である。

魔眼を通して見える魔力も大したことが無いうえ、身体能力もそれほど高くないようだ。

そうでなければ、あの程度の剣戟をワザワザ受け流したりはしなかったはず。



「それは、やってみなければわからないんじゃないか?」



「ちっ……、面倒な野郎だな、お前。奇襲が失敗したんだから、さっさと逃げろってんだよ……」



奇襲が失敗した時点で、俺を仕留めるのはほぼ不可能だ。

こっちは守ってるだけで、時期に他の兵士達が駆け付けるからである。

仮にこの襲撃者があの女将軍以上の実力を隠していたとしても、ただ守るだけであれば何も問題はない。



「俺は面倒なことが嫌いなんだよ。しかも男相手とか、本当勘弁だぜ……」



暗に逃がしてやると言っているのに、襲撃者は全く退く様子がなかった。

男をいたぶっても何も愉しくはないというのに、面倒な話である。



「それは、俺が女だったら楽しめたと言いたいのか?」



「ああ。丁度使いきっちまった所だからな」



「……本当に、お前のようなヤツが相手だと助かるよ」



「あん?」



「外道が相手だと、割り切るのが楽だという話だ」



その言葉とともに、襲撃者の姿が再び霞む。

先程よりも距離が近いだけあって、視界から消えるのも速かったが、俺の魔眼はしっかりと奴の姿を捉え……っ!?



(しまった!)



奴が狙ったのは俺では無かった。

気付いた時にはすでに遅く、二人の兵士が仕留められていた。



(これで防御が手薄に……、って待てよ? そもそも、あの弓兵は本当に俺を狙っていたのか?)



いくら精度が高いといっても、流れ矢というものは必ず発生する。

どれだけ風を読むのが上手くても、着弾までに発生する他の外的要因は排除しきれないからだ。

つまり……



(俺としたことが、見誤ったぜ……)



あの弓兵は、この男が接近した時点で俺を狙っていなかったのである。

そうするよう見せかけ、牽制していたに過ぎなかったのだ。



(もう少し気づくのが早ければ、二人ほどこっちに回せたんだが……)



今となっては、それも難しくなってしまった。

いくら俺を直接狙いにくいとはいっても、防ぐ手を全く無くすワケにはいかないからだ。


恐らくこの男は、俺がそれに気づく前にこちらの手数を削ったのだろう。

戦況を読めない愚か者かと思ったが、意外にも状況把握はしっかりと出来ているらしい。



「成程な。だが、それでもまだ状況は――」



「いや、これで詰みだ」



こっちの方が有利、そう言おうとしたところに言葉をかぶせられる。


一体何が詰みなのだと返そうとした瞬間、無数の矢が俺に飛来した。





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― 新着の感想 ―
[一言] 2日かけて追い付きました。 これから魔族との戦争がどうなるのか楽しみです! すごく面白かったので続き期待してます。 頑張ってください!
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