表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
267/282

第252話 奇襲と交戦

ようやく身辺が落ち着いてきましたので、ちびちび更新を再開いたします。



捕虜となっていた女性の治療については、問題無く完了した。

俺の血液を介して注入されたナノマシンは、彼女の中で正常に機能を働かせている。



(本当に、上手くいって良かった……)



(りく)に言ったように、彼女を絶対に助けられるという保証があったワケではなかった。

ナノマシンを他者に譲渡した経験はあるが、こういった治療で用いることは初めてであり、絶対的に経験が不足していた為である。

幸い、俺の血液ごと譲渡することで制御は上手くいったが……



「…さて、彼女についてはもう大丈夫だろう。ロニー、上の状況はどうだった?」



「上は、予想通り、廃棄場のようでした。見張りも遠目には見えましたが、近くにはいません」



「そうか。であれば、予定通りここから侵入することにしよう。陸殿、案内を頼めますか」



「……ええ、任せて下さい。ただ、流石に隠形無しじゃ(ほう)の所までは無理ですよ」



「わかっているます。ということで、コルトとロニーはここで退路の確保を任せる」



コルトもロニーも隠形を使えないワケではないが、その練度は俺やアンネに比べると低い。

どの道、助け出した女性の保護も必要であるため、二人にはここに残ってもらうことにする。



「はい!」



「…わかりました」



コルトは返事に少し間があったが、冷静に俺達だけの方が有利と判断したようである。



「それじゃあ、行ってくるよ」









縦穴を抜け外に出た俺達は、隠形を駆使して慎重に敵陣を進む。



(……しかし、本当に見事な隠形だな)



先行する陸は、目の前にいながらもその存在を希薄に感じる。

隠形の技術に関しては、恐らく自分より上と見ていいだろう。

もしかしたら、ソウガに匹敵する程の技術をもっているかもしれない。



「トーヤ殿、アンネ殿、この辺でどうですか?」



使われていない天幕の陰に隠れてから、陸が尋ねてくる。

それに対し、俺はアンネに目で確認を求める。



「大丈夫です。ここからなら、届きます」



そう言ってアンネは、矢筒からひと際長い矢を取り出す。

そして、音を一切立てず、夜空に向けてそれを放った。



「……この距離でも無音とは、本当に驚かされますね」



俺も全くもって同意見である。

アンネに弓を勧めたのは俺だが、ここまでの射手になるとは思ってもみなかった。



「しかし、本当にこれで届くんですか?」



「大丈夫。今反応があった。まもなく攻撃が始まる筈だよ」



俺が言うや否や、遠方に土煙があがる。

朝陽に照らされて見えるのは、『荒神』の戦旗であった。



「て、敵襲ーーーーーっ!!」



見張りの兵士達がそれを確認し、即座に情報が伝わっていく。

(えん)達の追撃に大きく戦力を割いたとはいえ、流石に防衛用の戦力くらいは残していたようだ。



(だが、この規模であれば最低限といった所か……。少し上手く行き過ぎている感があるな……)



甲牙隊が釣りだされたことも、捕虜を救い出すことができたことも、想定以上の成果と言えるだろう。

しかし、作戦が上手くいっているのは良いことなのだが、上手く行き過ぎているとむしろ不安になることもある。

それが違和感となり、疑心暗鬼に駆られるのだ。


……とはいえ、慎重になり過ぎて事を仕損じては元も子もなくなってしまう。

警戒は必要だが、今は作戦に集中すべきだろう。



「トーヤ殿、出て来たぞ。あれが崩だ」



陸の視線の先、陣の中心辺りの天幕から、長髪の魔族が姿を現す。



「……一応再確認しておきますが、本当に崩は戦線に加わらないんですよね?」



「ええ。俺は十年以上配下をやっていましたが、一度だって奴が前線で指揮を執ったことなんてありませんよ」



「……わかった」



であれば、あとは機を窺うだけである。



「アンネ、俺が合図をしたら、奴の周囲の兵士を射抜いてくれ」



「わかりました」



崩の周囲を固める兵士の数は五名。

アンネであれば、一息で仕留めきれる数である。



「よし、今だ」



他の兵士が十分に距離を取ったのを確認し、合図を送る。

しかし――



「なっ!?」



放たれた矢が、敵兵に当たる直前で唐突に爆ぜる。

一瞬何が起きたかわからなかったが、ほぼ同時に駆けだした陸がその原因を見破る。



「やはり(けい)副将軍か!」



「そういう貴様は我が軍の兵士だったはずだが、そうか、貴様が裏切り者だったか」



どうやら、景という男は隠形を使って崩の傍に控えていたらしい。

こちらも警戒していなかったワケではなかったのに、それでも見破れなかったということは相当な使い手ということだ。



「アンネは援護を頼む!」



言うと同時に、俺も崩の元へと駆け出す。

奇襲は失敗したとはいえ、作戦はまだ継続中なのだ。



(兵が引き返してくる前に、決着を付ける!)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ