表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
266/282

第251話 秘術



コルトが真上に穴を掘り進め、ロニーはそこを慎重に登っていく。

外精法で補強されている為、崩れる心配はまず無いが、振動で悟られないよう細心の注意を払っているのだ。



「流石に垂直に登ると結構深いな…」



(りく)が言うように、実際ここは地上から30メートル程の深さにあり、地上まではかなりの距離がある。

発光石の光はせいぜい2メートルまでしか届かない為、ロニーの姿はあっという間に視認できなくなってしまった。

まあ、俺には魔力感知でロニーの現在地はしっかりと把握出来ているのだが…



「親父殿、そろそろです」



「わかった。ロニーに合図を出すよ」



コルトには、俺やアンナ達姉妹程の魔力感知技術が無い。

しかし、『(えにし)』で俺の感覚を共有することで、地上までの距離をしっかりと認識できている。

コルトもロニーも、抜群のセンスを持つ姉妹に少なからず劣等感を感じているようだが、俺から見れば等しく才能に溢れた立派な息子達であると言える。



「…よし、ロニーが地上に出た。近くに警備もいないようだし、問題ないだろう」



しかし、やはりロニーからは『縁』を経由して動揺が感じ取れる。

予想通り、捕虜たちは相当酷い扱いを受けていたようだ。



「ロニーが降りてくる。アンネ、洗浄と治療の準備を頼む」



「はい」



正直、アンネには捕虜の惨状を見せたくない。

しかし、そういった扱いをすれば、また子ども扱いしていると非難されてしまうのだ。

これに関してはそういう問題ではないのだが、何ともままならないものである。









「……」



トーヤ殿が言った通り、ロニーという少年は捕虜の女を助け出し、縦穴を降りてきた。

しかし、あの状態では恐らく助かる見込みは無いだろう。



(チッ…、外道どもめ…)



捕虜から漂う異臭に、俺は思わず顔をしかめる。

そんな俺の表情に気づいたのか、エルフの少女が外精法で空気の逃げ道を作ってくれた。



「悪いな」



「いえ…」



エルフの少女――アンネは、俺に素っ気なく一言返すと再び捕虜の浄化に集中する。

俺に対して無関心というよりも、今は単に余裕が無いのだろう。



(まあ、無理も無いか…)



捕虜の状態は、例え同性でなくとも怖気が走る程悲惨なものであった。

戦場の死体とは種類の違う、もっとおぞましい死体(・・)だと言っても過言ではない。



「…(ほう)という男は、話に聞いた以上の外道みたいだな」



「ああ…。正直、俺もここまでとは思ってなかった」



崩の軍に入り込んでからかなりの年月が経つが、ここまでの酷い扱いを受けている捕虜は初めて見た。

恐らくは停滞する戦況に対する鬱憤を晴らすために、散々いたぶられたのだろう。

そして、最終的に使い物(・・・)にならなくなったから、廃棄されたのだ。



「トーヤ様…」



アンネが悲痛な表情でトーヤ殿の名前を漏らす。

改めて、手の施しようが無いことを悟ったのかもしれない。



「…やはり、普通の治癒術では無理か」



治癒術は精霊を介する高度な治療方法だが、決して万能ではない。

種族的な特性がなければ欠損した部位は治らないし、失われた血液も戻らない。

耳や指、舌を切り落とされ、目まで潰されたこの状態で生き残れたこの女の生命力は大したものだが、残念ながら手遅れだ。



「わかった。俺が変わろう」



トーヤ殿が懐から短刀を引き抜く。

そう、初めからそれしかなかったのだ。

助かる見込みの無い者への最大の救いは、楽にしてやる以外ない。


トーヤ殿は短刀を女の頭上に構える。

そして次の瞬間、その刃を振り下ろさず、もう一方の手で握りしめた。



「っ!? トーヤ殿!? 一体何を!?」



「治療だよ。ちょっと血が足りなそうだから、俺の血を分けるんだ」



「血を分ける!? そんな事、出来るワケが…」



「…まあ、秘術の類だと思ってくれ。これは奥の手みたいなものだから、出来れば黙っていて欲しいな」



秘術…!?

確かに秘術の類であれば、可能、なのか…?

いや、そんな都合の良い術があるとは到底思えない。

…しかし、もし本当にあるのであれば、とんでもない事なのである。



「…本当に助けられるのですか?」



「正直、絶対とは言えない。ただ、俺自身であれば、このくらいの傷なら治るだろうから、恐らくは上手くいく筈…」



その説明がそもそも信じられない話だったが、トーヤ殿に嘘を言っている様子は無い。



(ただの亜人じゃ無いとは思っていたが、それが本当なら、龍種並みの化け物だぞ…?)



しかし、嘘だと思いたい気持ちを嘲笑うかの如く、捕虜だった女の血色は見る見るうちに良くなっていった。

そして、絶え絶えだった呼吸が規則的になり、表情が徐々に穏やかになっていく。

信じられない光景であった。



俺はこの男の配下である三人にばかり注目していた。

しかし、よくよく考えればそれを従える者が凡夫な筈がない。

ただ、そうだとしても限度というものがある。



(ゆかり)様は、この事を知っているのか?)



いや、知っているのであれば、この男にこんな危険な役目を任せるとは思えない。

…であれば、俺はとんでもない情報を得てしまったのではないだろうか。







更新が遅れて申し訳ありません。

活動報告には報告していますが、台風19号で被災しまして、現在避難所生活を送っております。

その為、一週間の休載のはずが長々と伸びてしまいました。


今後も暫くは避難所生活が続くため、更新は不定期になりそうです。

呼んで下さっている方々には申し訳ありませんが、落ち着くまでは暫しお待ちいただければと存じます。

<m(__)m>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ