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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第249話 鬼神



襲撃者達は、基本的に歩兵のみで構成されているようであった。

その為、騎兵が中心となるこちらの部隊は、すぐに追いつくことが出来た。

先行させている者達は甲牙隊ではないが、(けい)殿が選抜しただけあり、そこそこの精鋭達である。

寄せ集めの雑兵達ではひとたまりもない…、筈であった。



(…なんだ、あれは?)



瞬く間に瓦解するであろうと予測していた襲撃者達の軍勢は、その予測に反して全く崩れる様子が無かった。

それどころか、完全に拮抗しているようにさえ見える。



(寄せ集めの雑兵では無い、という事か…? いや、単に殿に精鋭を配置しただけか…)



装備の類を見る限り、やはり正規の軍人には思えない。

しかし、練度だけ見れば明らかに先行した精鋭部隊を凌駕している。



(紫紺の戦旗か…。あるいは、本当にあの女(・・・)直属部隊の残党なのかもしれないな…)



思わぬ強敵の気配に自然と口角が上がってしまう。

内に眠る獰猛な獣が、甘美な戦いを求めてたぎっているようであった。



「隊長、これは俺達も行かないと不味いのでは…」



「当然、行くに決まっているだろう? 奴らには勿体ない獲物だ…」



このまま前方の兵を踏み荒らして進みたい所だが、流石にそれでは後々の処理が面倒になるだろう。

私は手綱から手を放し、両腕を広げて声を張り上げる。



「我が牙達よ! 左右に分かれ、奴等に噛みついて来い!! 今回は細かい制限は無い! 好きに食い荒らせ!!!」



「「「「「「ハッ!!!!」」」」」」









予定通り(ほう)の部隊が釣れた事に、内心でほくそ笑む。

(ゆかり)様とは全く異なるやり方だが、こういった戦も中々に楽しいものである。



(しかもアレは(りく)から聞いている甲牙隊とやらか…。大物が釣れたな)



甲牙隊は間違いなく崩の主力部隊だ。

これで幾分かトーヤ殿達の方も楽になる筈である。



(えん)殿、敵後方の部隊が左右に分かれました。恐らく回り込んで左右から挟み撃ちにするつもりでしょう」



「だろうな。左は(そう)お前に任せる。私は右を潰そう」



「了解しました。右に来た奴らは自分達の不幸を呪うでしょうね!」



そう言い残し、槍は部隊の半分を率いて迎撃へと向かう。



「我々も迎え撃つぞ! 『破砦牛(はさいぎゅう)』如きに押し負けるなよ!」



「「「「「応!!!」」」」」



応じる者達は全て、かつて紫様の元で戦場を共にした歴戦の兵士達だ。

長い間戦場から離れていた事で多少の勘は鈍っているだろうが、皆その刃だけは鈍らぬよう研ぎ続けていた者ばかりである。

例え相手が主力部隊であろうとも、簡単に押し負ける者はいないだろう。


勿論、私も負けてはいられない。



「さあ来い! 無法者共!!! 我が戦棍にて、全て打ち砕いてくれよう!!!」









(っ!!!?)



前方より叩きつけられる強烈な殺気に『破砦獣』達が一斉に(おのの)く。

恐怖知らずと恐れられる『破砦獣』がこれ程怯えるのは、どう考えても異常だ。



「落ち着け! 駄獣!」



手綱を引きしぼり、喝を飛ばして『破砦獣』の動きを制する。

他の隊員も各々『破砦獣』を落ち着かせる事に成功していたが、動きは完全に鈍っていた。



「この凄まじい殺気…、まさか龍でもいるんじゃ…?」



そう考えるのも無理は無いが、これは恐らく龍の放つ気配ではない。

もし仮に龍族であったとしたら、意思を持つ上位種という事になるだろうが、そんな者がこの場に居る可能性は無に等しいだろう。

つまり、相手は同族、或いは亜人種である可能性が高いという事だ。



「クック…、どうやら、とんだ当たりを引いたようだな」



ここまでの覇気を放てる者は、魔界全土を見ても一握りしかいないだろう。

もし魔族であれば、魔王の血を色濃く受け継いだ大物と思って間違いない。



「お前達、アレは私の獲物だ。手を出すなよ?」



「流石にアレには手を出しませんよ…。周りの奴等だけでも十分楽しめそうですしね」



確かに、奴の周囲の者達も十分に手強そうである。

しかし、やはりアレは別格だ。


こちらも、相手を誘うように気を放つ。

それに呼応するように、戦棍を肩に担いだ偉丈夫が前に出てくる。



「甲牙隊の隊長、甲だな?」



「左様。して、そちらは何者だろうか? さぞ高名な武人だとお見受けするが」



「私は、紫様の元直属部隊所属『炎』という者だ。まあ、ただの古参兵だと思ってくれ」



「っ!?」



(炎だと!? 鬼神とまで呼ばれた、あの…!?)



心臓が高鳴り、自然と震えがこみ上げてくる。

無論、武者震いである。



「クックック…、まさか、あの鬼神が出てくるとは。私は本当に運がいい…」



「ほう…、私を前にして、そのような事を言う者も珍しいな」



「でしょうな。私も実際この目にして、噂が本当であった事を痛感している。崩将軍辺りであれば、今頃逃げ出していたでしょう」



あの方は強者ではあるが、私とは好みが違う。

もしこの場にいれば、迷わず逃げの一手を取るだろう。



「まあ、私はあの方とは違うのでね。この出会いを、しっかりと楽しませて貰おう」



『破砦獣』から降り、剣を構える。



「願わくば、その腕が衰えていない事を祈るぞ! 鬼神よ!!!!」






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