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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第247話 挟撃

再開します。



『て、敵襲ーーーー!!!』



カンカンと鳴り響く音に合わせて、敵襲を知らせる声があちこちで聞こえる。

その音や声に反応し、休みを取っていた兵士達は慌てて準備を行い前線へと向かっていく。



「待て! お前達!敵襲はそっちからじゃない! 後方だ!」



状況も理解せず飛び出して行く兵士達を、分隊長などの階級が上の者達が止めに入る。



「う、後ろから!? どういうことですか!?」



「…襲撃してきたのは獣人達ではない。同じ魔族だ」



「なんだって!?」



兵士達は、分隊長の言った事が信じられないような反応を見せる。

分隊長達は、兵士らの反応に対して苦い顔をしつつも、無理は無いと思っていた。

何故ならば、先日(ほう)将軍が率いる隊が魔族達の襲撃を受けた事は、一般の兵士達に伏せられていたからだ。

その判断を下したのは西軍を率いる(がい)将軍だったが、この混乱した状況を見ては裏目に出たと言わざるを得ないだろう。

しかし、分隊長達からしても、その判断を責める気にはなれなかった。



「…してやられたな」



「っ!? が、凱将軍!?」



分隊長達の背後から聞こえた声は、その判断を下した本人である凱将軍であった。



「お前達! 襲撃をしてきた奴らは魔族だが『敵』だ! 余計な事は考えず、とっとと迎撃に向かえ!」



「っ!? は、はい!!!」



凱将軍の張り上げる声を受け、兵士達が慌てて後方へと駆けていく。

自分達もそれに続こうとしたが、それを制するように肩を鷲掴みにされる。



「まあ、お前らは待て」



「し、しかし…」



「あっちは(よう)に任せてある。ひとまずは問題無い」



曜とは、凱将軍の側近であり右腕とも呼べる存在だ。

戦の手腕は凱将軍にも劣らないと言われており、戦士としてもこの軍の中で一、二を争う実力者であった。



「…悪かったな。例の件について口止めしていた事が仇になった」



「い、いえ、将軍の判断は間違い無いかと…」



東軍にて、魔族達からの襲撃があったのはもう三日前の事になる。

その件について情報が伏せられていたのは、襲撃してきた者達が同じ魔族であった為だ。

同族から裏切り者が出たなどと伝われば、士気に大きな影響が出る可能性がある。


それに、そもそもな話、絶対に裏切りであるという保証だって無かった。

狙われたのは崩将軍が率いる軍であった事も、その疑念に拍車をかけている。

あの悪名高い崩将軍であれば、一部の魔族達の恨みを買っている可能性だって十分にあり得る話であった。


もし狙いが崩将軍であれば、少なくともこちらに被害は出ない。

それ故に、こちらの兵士達には情報を伏せる決定がなされたのである。


とはいえ、こちらも警戒をしていなかったワケではない。

少なくとも一日目や二日目は、情報が伝わっている者達だけで警戒網は敷いていたのである。

…しかし結果として、この二日の間に襲撃の類は一切無かった。



「いや、間違いなく俺の油断だ。相手がアイツ(・・・)なら、こんな小賢しい真似はしないと踏んでいたんだがな…」



凱将軍が言うアイツとは、間違いなくあのお方(・・・・)の事だろう。



「…凱将軍は、本当にあのお方が生きていると思っているのですか?」



「当たり前だろう? アイツがそう簡単にくたばるワケがないからな。…まあ、そう思っていたからこそ、警戒を緩めてしまったんだがな」



凱将軍は自分を責めるように言うが、仮に自分達が凱将軍の立場だったとしても、同じ判断を下したはずだ。

いや、それどころか、この二日間だって警戒網を敷かなかったかもしれない。

…ここはあくまでも戦場なのだ。

それ以外の事柄に人員を割く余裕など、そもそも無いのである。

それでも何とかやりくりし、二日という期間を警戒に充てた凱将軍の手腕を褒める事こそすれ、攻める事など出来ようはずもない。



「アイツの性格がそう変わるとも思えないし、この襲撃は恐らく別の奴の仕業だろう。…ただ、この絶妙な『間』の取り方から考えて、厄介な相手と思って間違いないだろう」



こちらの警戒が緩んだ瞬間を狙いすましたかのような襲撃…

これを偶然と考える程、我々も楽観的ではない。

しかし、あの方でないとすれば、一体どんな者がこの襲撃を企てたのだろうか?



「凱将軍! 敵戦力を確認して参りました!」



「戻ったか。早速だが報告を頼む」



「ハッ! まず、敵戦力についてですが、およそ二千はいると思われます。また、紫紺の戦旗についても確認できました」



紫紺の戦旗…

それはあの方の代名詞とも言える、有名な戦旗である。



「…そうか。アイツ本人が来てるとは思えんが、その数から考えれば元々アイツが率いてた兵士達の残党かもしれんな。…それで、その中に獣人達の姿は確認できたか?」



「いえ、絶対とは言い切れませんが、我々が確認した限りでは見当たりませんでした」



「…ふむ」



伝令の報告に、顎に手を当て考える素振りを見せる凱将軍。

それに対し、私は強く不安を感じ、つい疑問を口に出してしまう。



「…あの、凱将軍は、やはり亜人軍と襲撃者達が、手を組んでいると考えているのでしょうか?」



「そう考えるのが普通だろう? まあ、信じたくない気持ちはわかるがな」



報告によれば、亜人軍は紫紺の戦旗を掲げる謎の部隊の襲撃に合わせ、包囲の突破を図ったらしい。

確かに、偶然にしては出来過ぎているとは思うが…



「ん?」



ふと視界に、凱将軍の後ろから慌てた様子で駆けてくる伝令の姿が映る。

何かあったのだろうか?



「ほ、報告! 亜人軍達が動き出しました!」



「「「「なっ!?」」」」



西の亜人軍を指揮していたザジという男は、これまで積極的に攻めてくるような事は無かった。

しかし、今になってそんな動きを見せるという事は…



「…やはりか。お前らを引き留めた意味があったようだな…。よし、お前ら! 残った者を率いて迎撃にあたれ! こっちの指揮は俺が取るぞ!」



「「「「は、はい!!!!」」」」



どうやら、凱将軍は亜人軍の動きを予期していたらしい。

相変わらず、見事な戦術眼である。

しかし、それは同時に、亜人軍と襲撃者が繋がっている可能性が高まったという事でもある。

その疑念は確実に、兵士達の士気へ影響を与えていった…



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