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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第244話 亜人領境界 防衛戦⑭



「トーヤ…、殿…? 本当に…?」



そう口にしてしまったのは、何も偽者だと疑ったからではない。

『繋がり』を通して伝わるこの感覚は、彼が紛れもなく本物である事を証明している。

それでも我が目を疑ってしまったのは、別人と見紛う程に、彼から感じる凄み(・・)が増していたからである。



「本当だよ。リンカも、俺がいる事がわかったからこそ、こんな無謀な作戦に出たんだろ?」



「そ、そうだが…」



確かに私は、『繋がり』からトーヤ殿の存在を感じ取り、今回の作戦に踏み切った。

しかし、こんな状況になる事まで見えていたワケではない。

いや…、はっきり言ってしまえば、トーヤ殿と合流出来るなどとは露とも思っていなかったのである。


トーヤ殿は、何らかの方法で魔族の軍に潜り込むことに成功したのだろう。

その上で、我々の今の状況を知り、駆け付けてくれたのだ。

しかし、万に迫る軍勢に対し、単騎で出来る事などたかが知れている。

仮にアンナ達と合流が出来ていたのだとしても、出来る事などほとんど無いに等しい。

もし出来ることがあるとすれば、精々が包囲を抜けて来た少数の兵士の脱出を幇助(・・)する事くらいだろう。

…だから私は、殿を受け持った時点で、もうトーヤ殿と再会する事は無いと思っていた。



「一体、どうやって…?」



「それは勿論、協力者がいたからだよ。そうじゃなきゃ、こうも簡単にあの軍勢は突破出来ない」



協力者…?

それはまさか、魔族を味方につけたとでも…?



「疑問はもっともだと思うけどな。ただ、今は時間が惜しい。まずはここから脱出するぞ」



「し、しかし、私の隊員がまだ…」



「それは大丈夫だ。既に全員救出済だよ」



そう言って、トーヤ殿は親指で背後を指す。

そこには、先程まで捕らわれていた私の隊員達を担ぐ、コルトとロニーの姿があった。



「…は、はは、駄目だ。まるで理解が追い付かない。やはり私は、夢を見ているのでは無いか?」



「いやいや、勿論現実だぞ?」



そう言われても、私からすれば幻でも見ているとしか思えない状況であった。

実はもう既に私は倒されていて、夢でも見ているのかもしれない。



「ふむ、確かにまるで夢か幻でも見ているかのようだな。一体、どんな奇術を使ったのだね?」



暫しの間沈黙を保っていた(こう)が、軽い口調で割り込んでくる。

しかし、軽い口調とは裏腹に、その目は油断なくトーヤ殿を見据えていた。



「奇術の種を自ら明かす奇術師はいないだろう?」



「道理だな。しかし、脱出劇まで見届けてやる義理も無い。悪いが、仕掛け諸共蹴破らせて貰うぞ?」



そう言うと同時に、甲が凄まじい速度で接近してくる。

その速度は先程までの比ではなかった。



(やはり、実力を隠していたか…!)



私は慌ててトーヤ殿の前に出ようとするが、トーヤ殿はそれを手で制してきた。

それとほぼ同時に、甲が急停止し剣を振るう。



「ほう…、あれを防ぐか。やはり相当な手練れのようだな」



「これは…、矢か!」



甲の足元には数本の矢が転がっていた。

その矢に、私は見覚えがあった。



「あれは、アンネの…?」



「そうだ。甲とやら、お前達は今、ウチの射手の射程範囲内にいる。迂闊に動かない方が良いぞ」



アンネの姿を見ないと思ったが、どうやら彼女は射撃手としてこちらを狙っているようだ。

しかし、一体どこから…



「…ふむ、この私が間合いに入るまで矢を感知出来ないとはな。隠形の一種、といった所か?」



あれが、隠形…?

確かにアンナ達姉妹は隠形術に長けていたが、矢に対する隠形など聞いた事も無い。

しかし実際に、私ですら甲が防ぐまで矢の存在を感じ取れなかった。

何かしらの隠蔽が行われた事に間違いは無いだろう。



「見えない射手に、見えない矢か…。実に厄介だ。…しかし、それ故に大きな威力は出せぬと見た。ならば無理やり押し通らせて貰おう」



甲はそう言って、全身に赤い皮膜を纏う。

恐らくは、魔素により生成された鎧だろう。

どれ程の防御力を持つかは不明だが、先程まで出していた槍と同程度の硬度があるのであれば、矢で貫通する事は難しいかもしれない。



「ふむ…。そこまで魔素を操れるなら、普通の攻撃を通すのは難しそうだな」



「…どこで魔素の事を知ったかは知らぬが、知っているのであれば理解も出来るだろう。小賢しい弓矢ごときで、私は止まらんぞ!」



再びこちらに向かってくる甲に対し、同じように見えない矢が複数回放たれる。

しかし、その全てが魔素の鎧に弾かれてしまう。



「面倒な事はわかったよ。だから、逃げさせてもらう」



「っ!? トーヤ殿!?」



そう言うや否や、トーヤ殿が私の体を肩に担ぎ上げ、背を向けて走り出す。

いきなりの行為に私は取り乱すが、状況としてはそれどころではない。

あの男の速度であれば、すぐに追い付かれてもおかしくないのだ。



「トーヤ殿! 駄目だ! 追い付かれるぞ!? せめて私を降ろしてくれ!」



「大丈夫だ。手は打ってある」



トーヤ殿は全く焦った様子を見せず、むしろ余裕そうに笑って答える。

それと同時に、トーヤ殿の背後――つまり私の目の前で異変が発生した。

大地が、甲達敵兵諸共、陥没したのである。



「なっ!? これは一体!?」



「おあつらえ向きに、地中に丁度良い感じの空洞が出来ていたからな。それを利用させて貰った」



地中に、空洞………!?

そうか! 奴らが地中に掘った、脱出口か!



「前にリンカもハマった罠だ。懐かしいだろ? 落とし穴は俺の得意技なんだ」



確かに、思い当たる節はあるが、あれとこれとではまるで規模が違う。

決して落とし穴などという可愛げのあるものでは無い…



「…………くっくっく」



「ど、どうした、急に笑い出して?」



これが笑わずにいられるものか。

トーヤ殿は、やはりトーヤ殿であった。

成長し、凄みが増したかと思えば、その本質は全く変わった様子が無いではないか。

その事実が、私にえも言われぬ安心感と、興奮を与えてくれたのであった。





すいません。少し遅れました。

理由は月末進行なせいと、その疲れで寝落ちが続いたせいです(言い訳

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