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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第238話 亜人領境界 防衛戦⑧



「ふぁ…、眠ぃ…」



漏れ出る欠伸を隠しもせず、にじむ目を擦る。

いくら魔族が夜戦慣れしているといっても、朝方付近は流石に眠気も強くなる為、完全に集中力が切れてしまっていた。



「おい、不謹慎だぞ」



「…そう言うなよ。お前と違って、俺は徹夜なんだよ」



「馬鹿を言うな! それは自業自得だろう!」



(チッ…、相変わらず面倒くさい野郎だ…)



一々文句を付けてくるこの男は、俺と同じ下級兵である。

ようするにただの雑兵なのだが、変に真面目な性格をしており、非常に口うるさい。



「いやいや、周りを見てみろよ? アレに参加しなかったのなんて、お前くらいだぜ?」



周囲を見渡すと、俺と同じく欠伸をして眠そうにしている者が数多くいた。

それどころか、未だに盛っている奴までいる始末だ。

恐らく自分に番が回ってくるのが遅く、今になってあり付いた口だろうが、アレは流石に懲罰ものだろうな…



「私が間違っていると言うつもりか?」



「いや、そうじゃねぇけどよ…。真面目過ぎるのも損だって話だよ」



実際、上の連中は俺達が戦利品で愉しむことを黙認している。

いや、むしろこの部隊においては推奨していると言っても良いだろう。

何せ我らが将軍様は、残虐非道で名を馳せる(ほう)様なのである。

俺達の行為など、あの方の責め苦に比べれば生易しいくらいだ。



「私が真面目なのではない。貴様らが下種で愚かなだけだろう」



「…あ~、はいはい。俺が悪かったよ!」



本当に面倒な男である。

一体どうしてこんな男がこの隊に入って来たのか…、全くもって謎であった。



(コイツ、何がしたくてこの隊に志願したんだ…?)



崩様は魔王様の血族、つまり王族である。

しかし、率いる部隊は俺達のような志願兵が中心であった。

つまり、どいつもこいつも、噂を聞きつけて集まった下種ばかりであり、この男のような真面目な者が入隊する事はほぼ無い。

全くいないというワケでは無いのが、逆に不思議である。

だからこそ、先程のような疑問が浮かんでくるのだが…



「…ん? なんだありゃ?」



一々付き合うのが面倒になり、後方にでも逃げようとすると、視界に妙なものが映る。



(霧…、じゃねぇな。土煙か?)



朝焼けと言うにはまだ早いくらいの明るさの中、遠方に見えたのは土煙であった。

目に魔力を集中して見ると、どうにも何かがこちらに向かってきているようである。



「なあ、おい…」



あれは一体何か?

そう聞こうとした瞬間、何かに口を塞がれる。

そして…



「っ!?」



何かが後ろから、俺を貫いていた。

声も上げられず、急速に薄れゆく意識の中、耳元で何かが聞こえる。



「あの世で懺悔しろ。下種…」









「…火の手が上がっているな」



「はい。予定通り、潜り込んでいた者が兵糧を焼いたのでしょう」



(すずめ)は簡単そうに言うが、俺からすれば中々に笑えない手際であった。

こういった世界なので、間者…、つまりスパイを送り込むのは常套手段なのかもしれないが、自分が同じことをされればと思うと、正直ゾッとする。

しかも、実行犯である彼らは数年単位で敵地に潜り込み、今回のような作戦の際に命を賭す事も任務に含まれているのだという。



(やはり、絶対に(ゆかり)は敵に回さないようにしないとな…)



今更疑う要素は無いが、彼女のカリスマ性は間違いなく本物だ。

それに心酔する彼女の配下達の気持ちが、少しだけ理解出来る気がする。

正直、(はい)という男も相当に厄介そうではあるが、直接本人を目にしている分、俺には紫の方が危険に思えてならない。

…まあ、今後どうなるかは俺の手腕次第とも言えるので、可能な限り敵に回らないよう配慮するしかない。



「トーヤ様、やはり私は残った方が…」



背中にしがみ付いているアンナが、俺の不安を読み取ったのか、心配そうな声を漏らす。



「っと、不安にさせて悪かった。俺が心配しているのは、今じゃなくてもっと先の事だよ」



先の事はしっかりと考える必要がある。

しかし、今は目の前の戦いに集中しよう。

ここで失敗しては、何の意味も無いからな…



「アンナには難しい任務を頼んで、本当に申し訳ないと思っている。でもこの任務は、アンナにじゃなきゃ出来ないとも思っている。だから、任せたよ」



「…はい。私はトーヤ様に頼って頂き、本当に嬉しく思います」



その言葉に、ズキリと胸が痛くなる。

信頼が重い、というやつだ。

彼女達の信頼を盾にし、言葉巧みに操っているようで自己嫌悪に陥りそうだ…



「ふふ…。そんなトーヤ様が、私は大好きです」



俺の心情をまたも読み取り、抱き着く力を強めてそんな事を囁くアンナ。

何というか、もう色々と敵う気がしないな…



「それでは、そろそろ行って参ります。無事終わったら、たくさん褒めて下さいね」



「ああ、勿論だ。ただし、危険を感じたら全力で逃げるんだぞ」



「はい!」



そう返事をして、アンナは馬上から飛び去っていった。

俺の知識でいう所の死亡フラグをバンバン立てていたのがとても気になったが、彼女以上の適任者はいない為、信じるしかない。



「っ! トーヤ殿! 始まったようです!」



雀の声に一瞬遅れて、喊声(かんせい)が聞こえてくる。

どうやら、あちらも俺の存在にしっかり気づいてくれたようだ。

よし…



「各隊! 旗を掲げよ! このまま突入するぞ!」



「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」」」」」」




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