第234話 亜人領境界 防衛戦④
寝落ちした為、こんな時間になってアップします…
崩はそれからも、度々非道な行為を見せつけるようになった。
それは私の隊だけでなく、他の隊も含め無差別に行われている。
今も手足を串刺しにされた女性の獣人が、戯れのように弄ばれていた。
「くっ…、外道め…」
崩が行う数々の非道な行為に対し、我々側の反応は二つに分かれていた。
一つは行為に対し怒りを覚え、闘志を滾らせる者達。
そしてもう一つは、自らがそうなる恐怖に囚われ萎縮する者達だ。
好戦的な性格の者達が多い故、後者の数は少ないが、それでも一定数の者達が使い物にならなくなっていた。
戦略という意味では、崩の行為はそれなりの効果を発揮していると言えるだろう。
しかし…
「ガァァァァァァァッッッ!!!」
怒りに目を血走らせた者達が、敵軍に対し凄まじい勢いで攻勢を仕掛けていく。
先頭に立つ男は、聞いた話によると、今弄ばれている女性と恋仲にあったらしい。
また、それに続く者達も、それぞれ友人や家族を汚された者達であった。
「貴様ら! 絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」
凄まじい闘志を放ち、次々と敵兵を討ち取っていく彼らは、現在間違いなく我が軍の主攻となっている。
本来であれば、怒りは戦闘において不利に働く要因となるが、戦場においては少し異なってくる。
具体的には戦意、士気に関わってくるからである。
…そして戦意や士気は、集団の戦いにおいて大きな意味を持つ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!」
雄叫びと共に敵兵を蹴散らしていく彼らの姿は、味方を大いに奮い立たせ敵陣を突き進んでいる。
それまで萎縮していた者達も、それに呼応するよう、徐々に戦意を取り戻しつつあった。
(どうやら、下策だったようだな、外道め)
私とガウ将軍の隊は、まさに破竹の勢いで敵軍を押し込んでいく。
その勢いは衰えを知らず、遂には崩達が拠点としている亜人領最北端の都市まで追い詰めるに至った。
「リンカ様、敵軍はどうやら籠城を決め込んだようです」
「…そうか」
籠城を決め込んだという事は、攻城戦になるという事だ。
「物資の供給は?」
「蓄えに余り余裕はありませんが、手配は済んでおります。問題無ければ近日中に届くかと」
「…わかった」
物資については問題ない。
となれば、籠城側の圧倒的不利な戦いになるという事だ。
しかし、問題は敵側の援軍である。
「境界の向こう側はどうなっている?」
「…視認できる範囲に援軍は確認できません。ただ、境界の向こう側へ偵察へ行くのは困難なようです」
「ふむ…」
今私達が相対しているのは崩の軍勢のみだが、敵将は当然他にもいる。
その他の敵将が境界を死守している為、境界向こうへの偵察は困難であるらしい。
「となると、余り猶予は残されていないと考えるべきだろうな」
攻城戦は攻める側にかなりの被害を出す事になるが、持久戦であれば勝利は確実である。
しかし、それはあくまで援軍を想定しなければという話だ。
もし援軍が来るのであれば、持久戦を仕掛ける事は出来なくなる。
そして、この状況で援軍が来ない事を想定するのは、いささか軽率と言えるだろう。
であれば、士気の高い今のうちに、攻め落としてしまった方が良い。
「破城槌を準備しろ! 一気に破るぞ!」
予め、攻城戦となる際の準備は進めていた。
予定より早くはあるが、ここは迅速に行動すべきだろう。
「弓兵と術士達は城壁上部を狙い打て! 歩兵は楯を掲げて槌を守るように進撃!」
それと同時に、城壁を登って突入を仕掛ける兵士達も走る。
彼らの役目はあくまでも囮に過ぎないが、敵からすれば放っておく事は出来ないはず。
そして、本命の破城槌を門前に通せさえすれば、後は門を砕くだけである。
(…もっとも、そう上手くはいかんだろうがな)
敵側からすれば、門を破られれば間違いなく致命傷となる。
それ故に、必ず激しい抵抗が待っている筈だ。
こちらも、恐らく多くの犠牲を出す事になるだろう。
(しかし、そうしてでも奴はここで討たねばならない…)
ここで崩を仕留め損なえば、奴は必ずまた同じことを繰り返すだろう。
そして援軍が合流してしまえば、それを止める事は困難になる。
兵士達は皆、戦いで死ぬことは覚悟しているが、あのような惨たらしい殺され方をする覚悟まで出来ているワケではない。
今は怒りで士気を保てているが、戦が長引けば必ずどこかで限界が来る。
そうなる前に、奴を討たねばならないのだ…
「私達も続くぞ! 門を抜き次第、突入する!」
ガウ将軍達には、裏手から逃げ出せぬよう北へ回り込んで貰った。
他の部隊も、包囲を形成する為に東西に陣を組んでいる。
あとは、突入する第一の槍となる私の部隊が、城内を制圧すれば全て片が付く。
(崩…、必ず報いを受けて貰うぞ…)
――しかし、私の予想は裏切られる事となった。
激しい抵抗が予想された城門が、いとも簡単に突破出来てしまったのだ。