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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第233話 亜人領境界 防衛戦③



ガウ将軍達の助太刀により、戦況は大分有利なものとなっていた。

やはり日中におけるトロールの戦闘力は非常に強力であり、敵の前線は半ば崩壊しつつある。



「ウオオオオオオオオッッッッッ!!!」



無尽蔵の体力を誇るトロールが戦場を嵐のように駆け回る。

それは例えるに小規模の嵐のようであり、それに巻き込まれた敵兵たちはほとんど成すすべもなく吹き飛んでいく。

荒々しく乱暴な剣戟は軌道こそ単純ではあるが、密集した戦場では無類の力を発揮していた。



(しかし、あれだけ暴れてよく味方を巻き込まないものだな…)



トロールが使用する武器は、ほぼ全員が岩の大剣で統一されている。

その超重量かつ長大な武器を振り回していながら、トロール達はしっかりと味方を巻き込まぬよう立ち回っている。



(…あの彼らを侮っていたのだから、本当に私のめは節穴だ)



正直な所、私はトロールという種族を侮っていた所がある。

確かに彼らは驚異的な身体能力を持っているが、戦い方は大雑把であり一対一であれば決して脅威では無いと思っていたのだ。

しかし、実際の彼らは戦いに対して非常に勤勉であり、私達やトーヤ殿の戦い方をどんどんと吸収していった。

今見せている多人数での戦法や、部分的な『剛体』の使用、防御技術などは、まさにその後から学んだ技術なのだろう。



(ふふ、大会の時もそうだったが、皆一様に驚いているな)



荒神で学べる知識だけでは、トロールの真の強さを知る事は出来ない。

私がそうだったように、それを初めて目の当たりにした兵士達は驚きを隠せない様子であった。

それを誇らしく感じている辺り、私は完全にレイフの人間になっているようだ。



(そしてやはり、目立つのはあの女だ…)



トロールと獣人のハーフである女剣士、イオ。

彼女の戦闘力は、他のトロール達と比べても明らかに抜きんでていた。

獣人に匹敵する速度に、トロール由来の膂力…

それに加え、亜神流剣術の腕は師範級だとも言われており、その技術は目に見えて秀でている事がわかる。



(まさに戦場の華、か…)



かつて自分がそう呼ばれていた事を思い出し、自嘲めいた笑みが浮かんでくる。

あのイオと比べれば、過去の自分など明らかに劣っていいるからだ。



(…私も、負けてはいられない)



イオを意識し、自らの速度を一段階引き上げる。

その速度に面食らったのか、私の相対していた敵兵に動揺が走った。

私はそれに乗じるように、一人また一人と敵兵を屠っていく。

魔族は基本的に反応が良いが、この速度であれば早々反応は出来ないようだ。



「ハアァァァァァッッッ!!」



呼気と共に拳を打ち付ける。

爪撃による攻撃で出血を狙うより、魔族相手であれば打撃の方が効果的な事が多い。

実際、中途半端な切り傷程度では怯まない事も多く、こちらの兵士達も最初はそれに手こずっているようであった。

しかし、そうとわかれば戦略を変えるだけである。

先日の軍議でそれが周知された事により、他の戦場でもこれまでより善戦している部隊があちこちに増えていた。



(このまま行けば……、ん?)



ふと、視界の隅に先程まで居なかった存在が映る。

それは、現在私達が戦っている敵部隊の将、(ほう)の姿であった。



「っ!? リンカ様! あれは!?」



「なっ!?」



崩は、わざわざコチラの視界に入るよう小高い丘へと登っていた。

本来であれば愚の骨頂とも言うべき行為なのだが、現れた崩は自分以外に三名の兵士を連れていた。

問題なのは、それが私の部隊の兵士だった事だ。



「一体、奴はどういう……っ!?」



崩の行動を訝しんでいると、奴はおもむろに剣を抜き、こちらに向かって嘲るような笑みを浮かべた。



「まさか…、やめろぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」



そして崩は、私の叫びに応じるように、剣で兵士を背後から貫いた。

それも一度では無い。引き抜いては刺すという行為を、崩は幾度となく繰り返した。

レッサーゴブリンの兵士は三度目の刺突の時点で絶命していたと思われるが、そんな事は関係ないとばかりに、何度も、何度も…

遂には刺すところが無くなったとばかりにため息を吐き、首を切り落とす。

そしてその首をゴミのように踏みつけてながら、今度は隣の兵士に顔を向け…



「…殺す」



「いけませんリンカ様!」



飛び出そうとする私を、ボタンが必死の形相で押さえ込む。

ボタンだけでは無い、私の近衛達がほぼ総出で私が飛び出すのを阻止してきた。

しかし、そんな事は関係ない…

半獣化してでも、私は奴を…



「失礼します」



「っ!?」



私が魔力を集中させるとほぼ同時に、ボタンが強烈な冷気を浴びせてくる。

それは、私を怯ませるに十分な攻撃力を持っていた。



「ボタン、貴様…」



凍傷になる程の冷気を浴びせられ、私はボタンを睨みつける。

しかしボタンはそれに、一切罪悪感を感じさせない瞳で見つめ返してきた。



「リンカ様、ご無礼をお許し下さい。ですが、リンカ様がまだ行く気であると言うのであれば、私は…、いえ、私達は全力でリンカ様を止めさせて頂きます」



普段やる気の無さ気な表情であるボタンが、今まで見せた事の無いような表情で私を睨む。

それでようやく、私は冷静になる事ができた。



「…すまん。冷静さを欠いた」



「いえ、あのような光景を見せられれば、それも仕方はありません。我々も、怒りで(はらわた)が煮えかえるような気持ちですから…」



崩はこちらの状況など気にもならないかのうように、私の兵を惨殺して見せる。

終いには、私兵に汚物までかけさせる徹底ぶりであった。

その光景に、あまり面識のない他の兵士達ですらも、怒りを顕わにしているようだ。



「外道め…」



「はい。あのような外道に対し、怒りを覚えるのはもっともな事です。ですが、飛び出して行けばそれこそ奴の思惑に嵌まる事になります。お気持ちは察しますが、どうか落ち着いて頂くようお願いします」



「…ああ」



ボタンの言う通り、将が冷静さを欠くなど許される事では無い。



(…しかし、貴様は絶対に許さんぞ。必ず私の手で、八つ裂きにしてくれる…!)




昨夜寝落ちして更新がズレましたが、次回も水曜更新予定です。

→急遽帰省する事になりましたので、更新は土曜日に延期いたしますm(__)m

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