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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
247/282

第232話 亜人領境界 防衛戦②

更新再開です。



崩という男の戦い方は、変則的で魔族らしくないものであった。

こちらの陣形に対し、逆に受けるように陣取った戦型は、見事にこちらの攻勢を凌ぐ形となっている。

個々の戦闘能力も高い為、このままの状態では敵陣を崩す事は困難だろう。



(クッ…、小賢しい…)



敵将である崩に対し、苦い感情を抱く。

しかし同時に、敬意のようなものも感じていた。

それは崩の戦い方が、ある人物を彷彿とさせるものだったからだ。



(…トーヤ殿であれば、このような状況をどう打開するだろうか)



戦局はまさに膠着状態であり、お互いの兵士には疲労が色濃く見えている。

しかし、互角に見えるこの状況も、実の所こちら側の方が不利なのであった。

単純に、兵の総数の差である。


亜人領は、残念ながら統一国家では無い。

つい最近になってから国として動き出したものの、国家としては弱小も良い所である。

恐らく、国力として見た場合は、鬼達の国である羅刹にすら劣るだろう。

領内の平定すら終わっていないこの状況…

本来であれば、他領と争っている場合では無いのだ。


それに対し、魔族領は魔王ゾッドによりしっかりと統一された歴史がある。

もう百年以上前の情報である為、現在の状況は不明だが、荒神より兵力が劣るという事は無いだろう。

現に、兵の数は日に日に増しているように思える。

このままでは、いずれ…



(いかんな…。それをどうにかするのが、私の役目だろう…)



しかし、そうは言ってもこちらの手数には限りがあるし、打開策なども当然無かった。

トーヤ殿ならどうするかと頭を捻ってみたものの、自分の足りない頭では何も浮かんでくることは無かった。

それを悔しく思うと同時に、自分の中でトーヤ殿の存在が改めて大きくなっていく。



(…きっと、将とはああでなくてはならないのだろうな)



将とは武力が全てでは無い。

トーヤ殿と出会って、私はそれを初めて理解した。



(やはり私は、将の器では無い…)



今思えば、大将軍などという地位につけていたのも、私が魔王の娘だったからに過ぎないのであろう。

他の将軍達に比べ、私は何と愚かで、未熟だったか…

それを思い出すと、恥ずかしさで叫びだしたくなってくる。


…しかし、それでも譲れないものの為、私はこうして自ら志願して戦場にやってきたのだ。

至らずとは承知の上で、私にはこの戦況をどうにかする義務がある。



「何人か、私と共について来い! 前に出るぞ!」



私の取柄など、戦闘力以外無い。

ならば自らを槍として、戦線を切り裂くまでだ。



「それは早計では無いか?」



その時、自陣の後方より大きく太い声が聞こえてくる。

声の主は自陣をかき分けるようにして、私の目の前にやって来た。



「ガウ殿か!」



ガウ殿はトロール達の長にして、荒神の将軍でもある。

その後ろには、同じく荒神の副将軍であるイオも付いて来ていた。



「戦況が芳しくないようだな…。ザジ殿に言われ、助力に来たぞ」



その言葉に一縷の悔しさを覚えたが、今はそれよりも彼らの存在が心強かった。

同じレイフで修練を励んでいたからこそわかる。

この二人は、間違いなくこの戦況を覆すだけの力を持っているだろう。



「助太刀、誠に感謝する」



「…おや、意外と素直ですね?」



「…悔しいが、私の手には余る状況だ」



イオの嫌味にも、そう返すしか無かった。

この女はとは性格からして合わないが、その実力だけは認めている。

恐らく、単純な戦闘力では既に、私をも凌いでいるだろう…



「…ふむ、私の嫌味に何も反論してこない所を見るに、本当に切羽詰まった状況のようですね」



(こいつ…、天然だとばかり思っていたが、嫌味とわかって言っていたのか…)



苛立ちからこめかみが痙攣するが、なんとか平静を装って抑え込む。



「あ、ああ…。戦局は膠着状態だが、兵力に勝るあちらが有利と言わざるを得ないだろう」



「…ふむ。良いでしょう。ならば我々二人が、前線を切り開いてあげましょう。行きますよ、ガウ」



そう言って、イオはガウを待つ事もなく戦場を駆けていった。



「…気を悪くするな。あれでも、リンカ殿の事は認めているのだぞ?」



「…そうは見えないが」



「クック…。認めていなければ、アレはあのように突っかかりはしない」



そう言われると、確かにそんな気はしてくる。

なんとも複雑な気分だ…



「では、俺も向かうとしよう。一人で獲物を総取りされては堪らんからな」



そして、ガウとガウの率いる部隊も、前線へ向けて駆けだして行く。

その雄々しい様に、自然と周囲の兵士達の士気も高まったようであった。



(頼もしい限りだ。私も負けてられんな…)



「皆もガウ将軍達に続け! 決して後ろを取らせるな!」




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