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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第230話 亜人領境界 前線基地



私とシュウの隊は、凡そ五日ほどかけて前線基地に辿り着いていた。

どちらの隊も機動力に関しては秀でている為、予定よりも一日以上早い到着となっている。



「よぅ、リンカ様! 援軍、感謝するぜ!」



そう言って声をかけて来たのは、スイセンの父でもあるトウジ殿である。

高い戦闘力と人望を持ち合わせており、頼りがいのある男だ。



「お久しぶりです、トウジ将軍。リンカ隊、シュウ隊、合わせて千名程ですが、助太刀に参りました」



「おう、本当に助かるぜ! 聞いているとは思うが、戦況は余り芳しくなくてなぁ…」



苦笑いするトウジ殿に、現在の状況について確認する。

まず、本来境界を警備していたカンカ将軍の部隊は、ほぼ壊滅と言っていい程の被害を受けたらしい。


侵攻をしてきた魔族達を指揮していたのは、(がい)という男。

この名前は、以前『荒神』の軍議でも話題に挙がった事があるので覚えていた。

魔王ゾットの第五子…、つまり王子である。


魔王ゾットの息子は、父とは違い数多く存在する。

凱はその中でも戦闘力が優れているらしく、過去、『荒神』の将軍にも被害が出ているそうだ。

私がその事を知らなかったのは、それが三十年以上前の話だからである。



「それで、カンカ将軍は?」



「…重傷だが、なんとか命は取りとめた。ただ、戦線に復帰するのは無理だろうな」



「…それ程か」



カンカ将軍は、熊系統の獣人で優れた戦闘能力を持っている。

身体能力に関してはトロールに匹敵する程であり、屈強さでは荒神でも五指に入るほどの強者だ。

それが戦線復帰不能な状態になるとは、正直信じ難かった。

しかし、事実そうなっている以上、敵の戦力は想像以上に高いという事になる。

…どうやら本当に厳しい状況なようだ。



「って事で指揮が出来る人材が足りなくてな。元大将軍であるリンカ様には、是非指揮をとって貰いたいんだよ」



「それは…、いくら何でも不味いだろう。私は既に大将軍では無いし、『荒神』の軍属ですら無いのだぞ?」



「そいつは承知してるが、状況が状況だしな…。それに、リンカ様は現状軍属から抜けているとは言え、左大将直属の幹部なワケだし、何よりキバ様の娘だ。暫定的に指揮を執る資格は十分にあると思うぜ」



…随分と無茶な話しである。

そんな事、普通であれば絶対に認められるはずがない。

…しかし、今の状況ではそうも言っていられないのは確かか…



「…では、我々と『荒神』の合同戦線として私が代表で指揮を執る、という事でどうだ?」



「ああ、それで構わないぜ。済まないな、無茶な事を言って…」



「構わない。それより、手の空いている将軍達を集めてくれ。状況の確認と、今後の戦略について練りたい」



「了解! 一刻程時間をくれ! それまでリンカ様達は中央で休んでいてくれ!」



そう言って、トウジ殿は忙しなく前線の方へ駆けていった。

伝令であれば部下に命じれば良いだろうに…、相変わらず将軍らしくない男である。









「…という状況です」



説明をしてくれたのは古参の大将軍である、ザジ殿だ。

ザジ殿は獣人都市『荒神』が生まれる前から居る、父の戦友の一人である。

現役の軍人の中では最も高齢であり、隠居こそしていないが指南役に近い存在と言えるだろう。

未だ衰えぬ武力を持つが、基本的には自ら動かず、指揮を執るにとどまっている。



「…成程。つまり、私は北東の軍勢を相手取れば良い、という事ですね?」



「左様です。リンカ様。北西は引き続き、我々で対処します故…」



ザジ殿が対応するのであれば問題無い、とは思う。

しかし、この北西側で相対する事になるのは、先程話に挙がった凱の率いる軍勢である。

ザジ殿本人にの実力に疑いの余地は無いが、実戦からは長らく身を引いていたことを考えると、やや不安は残る。



「…そう心配な顔をなさるな。彼奴とは以前もやりあったことがありますが、これまで一度として敗れたことはありません。此度も同様に、退けて見せましょう」



「…そうでありましたか。要らぬ心配をして申し訳ない」



「いえ…、それよりも、リンカ様の方も十分にお気をつけ下さい。北東の軍勢を率いる(ほう)という男も、危険な気配を放っております」



崩か…

聞いたことの無い名だが、ザジ殿がそう言うのであれば、間違いなく強敵なのだろう。

しかし、私とて以前に比べれば遥かに実力をつけている。

例え相手が凱と同等の力を持っていたとしても、引けを取るつもりは無い。



「任せてくれ。左大将の兵として、恥ずべき戦いはしない」



私の敗戦は、レイフの森を危険に晒す事を意味する。

そして無様な戦いをすれば、それはそのままトーヤ殿の恥になるのだ。



「…良い覚悟です。成長されましたな」



私が軍に所属して間もない頃、ザジ殿にはよく面倒を見て貰っていた。

そのザジ殿からそんな風に言って貰えることを、少し嬉しく思う。



「ですが、気負い過ぎはあまり良くありません。少し気持ちを落ち着け、普段通りの実力で臨んで頂ければと存じます」



…一言多い所も、相変わらずか。

以前の私なら、すぐに反発しただろうな…



「…承知した」



私がそう返すと、ザジ殿は少し眉を上げ、次に笑みを深める。



「それでは、任せましたよ」




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