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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第229話 レイフの森の状況



――――レイフ城・執務室



(やれやれ…)



この部屋の主であるトーヤ殿は、現在、亜人領に戻るべく動き始めているらしい。

私にはわからないが、トーヤ殿と特別な契約を交わしている者にはそれがわかるのだそうだ。



(二年か…。長かったような、短かったような…)



このレイフ城の城主代理という大役を任されてから、凡そ二年の月日が経った。

名目上、代表代理はソウガ様という事になっているが、事実上の実権は私に委ねられている為、その責任は非常に重い。

…私のような新参者にそんな重要な役割を任すなど正気か? と思ったし、周囲の者も恐らく納得はしていなかっただろう。

しかし、ザルア殿やソク殿達の助けもあり、私はなんとか城主の代役を果たせた、と思っている。

それもこれも、全てトーヤ殿の采配ではあるのだが、私自身も、確かな手ごたえを感じていた。



(かつての敵である私を信用するなど、甘いにも程がある…、初めはそう思っていたが…)



今となっては、全てトーヤ殿の手の内にあったとさえ思えてくる。

実際、私はトーヤ殿達を裏切る気など毛頭無かったし、野心など完全に消え失せていた。

その事をトーヤ殿は、しっかりと見抜いていたのだろう。

その上で私を信頼し、私を代役に抜擢した。

…なんとも重い信頼である。

しかし結果として、私はその信頼に応えるべく、奮い立った。

まるで、かつての情熱に、再び火が入ったようであった。



(私は上に立てる器では無い…。そう突きつけたのは他でもないトーヤ殿だというのに、全く、皮肉なものだな…)



私の野望を完膚なきまでに砕いたトーヤ殿は、何故か私に文官の心得や、自身の業務の手ほどきを行った。

当初の私は、言われるがままにそれを学んでいたが、正直な所まるで自信が無かった。


鉱族の血が混じっている私は、客人であるルーベルトを除けば、恐らくこのレイフで一番の高齢だ。

その分他の者達よりも経験と言う点では豊富かもしれないが、歳を重ねている分、自分の才能の無さを痛い程感じていた。

最後のチャンスだと思っていた北での計画も、結局はそれに追い打ちをするような結果にしかならなかった。

だから私は全てを諦め、誰かの下で生きる道を選んだのである。


そんな私が今更何かを学んだとして、一体何になれるというのか?

私の中では、そんな卑屈な思いばかりが募っていた。

しかし、そんな私を見て、トーヤ殿はこう言ったのだ。



「グラ、何でもかんでも、自分だけで解決する必要は無いんだよ。誰だって、出来ない事があるのが当然なんだ。だから一番重要な事は、出来る事、出来ない事を自分の中で切り分けて、出来ない事は出来る誰かに頼るようにすればいいんだよ。俺なんか、まさにそうだろ?」



私は一瞬、言われた事の意味がわからなかった。

しかし、次の瞬間には憤りを覚えていた。

全てをやってのけている男が、一体何を言うのか、と。

…だが、今の立場になって、トーヤ殿のがあの時言った事をようやく受け入れることが出来た。


私には才能が無い。

しかしそれでも、トーヤ殿の信頼には応えたかった。

その情熱が伝わったのか、ザルア殿達を含め、多くの者達が私を助けるべく動いてくれた。

私に足りていないモノを、彼らが補ってくれたのである。

それを実感したことで、私の視野は急速に広がった。



(全く…、この歳になって成長を実感する事になろうとはな…)



実際の所、私自身は成長などしていないのかもしれない。

ただ、間違いなく変われたという自負はある。

…変われた私を、トーヤ殿は評価してくれるだろうか?



「失礼します。グラ殿。ソウガ殿より招集がかかりました」



何を期待しているのだと自分に恥じていると、ゾノ殿が報告に現れる。



「…わかりました。向かいましょう」









魔族の侵攻は、未だ亜人領北部までに止まっている。

それでも、状況はあまり良いとは言えなかった。



「現在、各将軍が侵攻を抑え込んではいますが、防戦一方となっている状況です」



「…わかっている。だから私達が向かうのだろう」



レイフの森は、本来であればこの戦いに駆り出される事は無い予定であった。

荒神直属であるガウや、正式な辞令が下りていなかったらしいイオなどは既に前線で戦っているが、他の者達に出兵を強制することが出来ないよう、トーヤ殿は契約を交わしていた。

名目上の代表代理であるソウガから命令を受ければその限りではないのだが、ソウガはそれをしなかった。

いくつか理由があるが、一番の理由はこの森の防衛の為である。

というのも、実はこのレイフの森は、直接魔族領に面している為、この地も防衛すべき場所に含まれているのだ。

一応防衛に関しては、全て最北部にあるエルフの里が担っているのだが、確実に安全とは言い切れない。

その為の予備戦力が、この森に住まう者達の役割なのである。


しかし、先の報告にあったように、現在最前線では防戦一方の状況が続いており、状況は芳しくない。

このままでは最終的に押し込まれてしまう可能性が高く、そうなると関係の無い住民に被害が及ぶ可能性が出てくる。

最悪の場合、レイフの森にも魔族達の侵攻を許す事になりかねないのだ。



(そんな事には、絶対にさせん…)



トーヤ殿は現在、間違いなく亜人領に向かって進んでいる。

もしトーヤ殿が戻って来た時、魔族の手が森にまで及んでいたとしたら…、彼は間違いなく自分を責めるだろう。

それだけは絶対に避けねばならない…

だからこそ、私は前線に出向く事を志願したのである。



「…まあ、落ち着いて聞いてください。この話はリンカ様以外には初耳だと思いますので」



その通りだが、だからこそ私が向かうべきだと言ったのだ。

本来であれば、このような軍議など開くまでもなく出立しようと思っていた所を、この男に引き留められたのである。



「荒神からも援軍は送っていますが、このまま押し込まれてしまいますと、この森を含む周辺地域にまで魔族の侵攻を許す事になりかねません。そこで、そうなる前に押し返す必要があるのですが、その戦力として、リンカ様が出兵を志願されたのです」



「…ソウガ殿としては、問題ないのか?」



皆が黙る中、ゾノ殿だけがソウガに質問を返す。



「問題は…、あります。ただ、それは人選の問題なので、正直援軍については助かる所です」



「人選…、まあ確かに、トーヤ殿不在の状況ではな…」



…私は、トーヤ殿の所有物だ。

それが勝手に行動するなど、確かに許されぬ行為かもしてない。

しかし…



「はい。ですが、見ての通りリンカ様は行く気満々です、こうなっては止められない事を、私は痛い程知っております。ですので、護衛兼、追加の戦力として、この場で志願者を募ろうと思ったのですよ」



全く、余計なお世話である。

しかし、ここで提案を跳ねのければ、恐らくソウガは本気で私を止めにかかるだろう。

口ではああ言っているが、この男の実力であれば、力尽くで私を止める事も可能なのだから…



「って事は俺で決まりだろう」



そう言って名乗りを上げたのはシュウである。



「…まあ、貴方は元々リンカ様の近衛だったワケですし、適任でしょうね」



「ああ、任せておけ。リンカ様のお守りは慣れているからな」



「シュウ…、貴様…」



「おっと、もちろん冗談ですよ、リンカ様。貴方様の護衛兼戦力として、存分に活躍してみせますよ」



…まあ、シュウであれば連携を取りやすいのは確かだ。

それに、性格には難があるが、この男の実力だけは信用しても良い。



「…それでは決まりですね。シュウ、リンカ様を宜しくお願いしますよ」





月末残業地獄で少し遅れました…

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