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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第219話 第七十八番地区 奪還作戦⑦



(すずめ)さん」



「っ!? トーヤ殿! ご無事で!?」



「ああ、それよりも、この人達の事もお願いするよ」



そう言って、両脇に抱えた四名の女性を横たえる。

少し乱暴な抱え方ではあったが、あの場にそのまま寝かせておくのも不味い為、仕方なく運んできたのである。



「一応治療は済んでいるが、この二人に関しては暫く安静にする必要がある。特にこっちの女性は、暫く目を覚まさない筈だ…」



二人のうち一名は、首を絞められた痕跡があった。

殺されていない事からも、恐らくは愉しみ(・・・)の一環として首を絞められたのだろう。

全くもって、悪趣味な話である。


そしてもう一人は、先程腹を穿たれた女性だ。

彼女は内蔵を著しく損傷しており、一刻を争う状況だった為、俺が治療せざるを得なかった。

…まあ、治療と言っても、俺が直接何かをしたというワケでもないのだがな。



「わかりました。ここを引き揚げ次第、すぐに手配いたします」



雀はそう言うと、テキパキと手際よく女性達の介抱を始める。

彼女は医術の心得もあるらしく、俺などより遥かに手早く簡易治療を施していた。



「あの…」



「ん? どうした?」



雀は手を動かしながら、控えめな感じで俺に尋ねてくる。



「その、先程は手助けに向かえず、申し訳ありませんでした…」



手助け…、一瞬何の事かと思ったが、さっきの戦闘の事か。

一応建物の周囲には防音の結界を張っているが、内部にまでは効果が発揮されていない。

結構大きな音を立てていたし、俺も大声を張り上げたので、雀としては気になっていたのだろう。



「いや、問題ないよ。それよりも、しっかりと持ち場を離れず対応してくれて、助かったくらいだ」



任された事をしっかり受け持つのは、まさにプロフェッショナルの在り方だと思う。

もちろん、臨機応変さも時には必要だが、何かあるごとに持ち場を離れる様な輩は、はっきり言って信用ならない。

そういう意味では、雀の対応は俺にとって信頼のおけるものであった。



「そう言って頂けると、助かります…。ところで、彼女の腹部の傷ですが、一体どのようにして治療したのでしょうか?」



「それは…、秘密だ♪」



ちょっと茶目っ気を効かせて答えると、雀は一瞬不思議そうな顔をしたが、それ以上追及はしてこなかった。

俺達の立場上、技術の秘匿なんてのは当たり前の事なので、深く追求しても意味が無いからだ。



(…まあ実の所、追及された所で答えようは無いんだがな)



あの女性の治療については、俺が技術的に何かをしたというワケでは無い。

そもそも、俺にはそういった技術は無いのである。

俺の頭の中には、知識として医術、医学の情報が存在しているが、それイコール実践可能とは当然ながらならない。

以前、帝王切開を行ったことがあるが、それはあくまで精霊の補助、そしてみんなの手助けがあったから成功したに過ぎない。

専門的な外科手術を俺一人で行う事は、まず不可能なのである。


では何をしたかというと、それは俺の尋常ならざる回復力に起因するものであった。









「ナノマシン?」



「そうだ。知識としては、君も知っているだろう?」



ナノマシン…、俺の知識通りなら極小の機械装置の事である。

そうだとすれば、ほぼほぼフィクションの存在である筈だが…

今更そんな事を気にしても仕方ないのだが、聞かずにはいれなかった。



「俺の知識通りなら、まだ実用化はされていなかったと思うけど?」



「ああ、その通りだ。ある程度の技術は確立していたが、色々と課題があったからね…。しかし、精霊や魔力の存在が、その課題を克服したんだ」



そう言って稲沢は、こちらにファイリングした資料を寄こしてくる。



「私が開発したナノマシンは精霊の力に大きく依存している…、言わば生体機械と呼べる代物だ。開発やその在り方についても、大きく精霊の影響を受けている」



稲沢が言うように、資料の中には精霊という単語があちこちに目につく。

しかし、これではまるで…



「人工の精霊、そのように見えるだろう? 実際、その見解は間違っていない」



「…しかし、何故そんなものを?」



「それは、我々が生き残るためだよ」



「生きる残るため?」



「そうさ。見ての通り、我々の体は機械で補わなければ生きていけないような状態だった。しかし、その機械のメンテナンスをするのも人間であり、当然それには限界があった。だからこそ、自立してメンテナンスを行う仕組みが必要だったのだよ」



成程、だからこそのナノマシンか。

しかも、このナノマシンには、精霊を宿した鉱物が用いられている。

つまり、その動力は魔力であり、半永久的に稼働が見込めるという事でもある。



「まあ、これだけ極小となると、魔力自体の量も少なくてね…、初めは上手く行かなかったんだよ。それを解決したのが、トロールの『光の加護』、つまり光合成だ」



トロールは、光合成により生成された糖を、魔力に変換する仕組みを擁している。

その仕組みを利用したという事は、つまりナノマシンは体内の糖で動力補助を行っているという事か…



「その為、ナノマシンに用いられている鉱物は、鉱族とトロールのハーフが鉱物化したものを利用しているんだ」



俺はその言葉にピクリと反応する。

鉱族とトロール、そのハーフが鉱物化したものを利用しているという事は、もしや生体実験などで…



「おっと、勘違いしているようだから否定させてもらうよ。もちろん、彼らをモルモットのようになど扱ってなどいないさ。君は知らないかもしれないが、彼らから生まれた鉱物は、入手するのは容易い事なんだよ」



「容易い…?」



「ああ、君の仲間にも、鉱族とトロールのハーフは何人かいるだろう? 彼らのような存在は、魔界には昔から存在している。その中には当然、戦で命を落とした者も数多くいた。だから、決して珍しい物でも無いのだよ」



成程、そういう事か…

グラから聞いた話だが、鉱族とトロールのハーフも、死ぬときは鉱族と同様、鉱物と化すらしい。

鉱族は基本的に長寿な上、あまり戦場に出ない為、その光景をあまり目にする事は無いのだが、ハーフは違う。

特にトロールとのハーフであるグラのような存在は、常に戦場に出向く傾向がある為、そんな事は日常茶飯事だったのかもしれない。


つまり、俺の体内に宿ったナノマシンには、そんな者達の、言わば化石のような鉱物が使用されているという事か…



「少し、抵抗がある話だったかな?」



「…いや、そんな事を気にしていたら生きていけないしな。それに、ナノレベルの機械って事は、せいぜい粒子レベルでしか利用していないんだろう?」



化石など、俺達は知らず知らずのうちに利用しているものである。

石炭だって植物化石の一種だし、装飾物にだって数多く利用されている。

大元が亜人がとはいえ、龍などの遺骸を利用している以上、今更抵抗を覚えるのもおかしな話だ。



「…そうだ。話が早くて助かるよ。ファルナ君なんかは、暫く嫌そうな顔をしていたからね」



「…だって、女子には抵抗がありますよ」



女子という歳なのだろうか、というツッコミは敢えて入れない。

そんな事をしたら…、想像するだけで恐ろしくなってくる…



「まあ、ともあれ、これで君の回復力については、納得頂けたかな?」









俺の体内には、無数のナノマシンが宿っている。

そのナノマシンこそが、俺の回復力の源泉なのであった。

俺が行ったのは、このナノマシンを注入しただけであり、治療が完了するまで魔力的支援を行ったに過ぎないのだ。

だから正直な所、俺自身どうやって治療したかなど、わからないのである。




その後、俺達は仲間に合図を送り、撤収の準備を進める。

ここを制圧した後は、協力を仰いだ奴隷達に、捕らえられた者達を運び出してもらう手筈になっていたのである。

今の所、作戦は順調であった。

子供達の反応も確認したが、想定外のトラブルは発生していないようだ。



そして、奴隷達が駆け付けた直後、大きな喚声が街の入口より上がった。

(ゆかり)達が、街に突入したのである。





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