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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第218話 第七十八番地区 奪還作戦⑥



「変態め…」



戦闘中だというのに、この男は一体何を考えているのだろうか?

あんな状態(・・・・・)では、間違いなく戦闘にも支障を来すだろうに…



「ハッハ! 初心(うぶ)な反応するじゃねぇか…。ますます楽しみだぜ…」



冗談では無い…

初心も何も、そんな事に慣れて堪るか…



「…服を着るという選択肢は無いのか?」



「おいおい、いくら俺でも、流石にそんな隙をさらす気は無いぜ?」



「…そのくらいは待ってやるぞ?」



「それを信じろと?」



…正論だが、それが逆に腹立たしいな。

戦闘でこんな気分になったのは、初めてかもしれない。



「クック…、そんなにコレ(・・)が気になるかい?」



「気になるというか、出来るだけその汚物を目に入れたくないだけだ」



あんなモノ、誰が好き好んで見ていたいというのだろうか。

少なくとも俺にはソッチの気は無いし、露出狂の気持ちも理解することはできない。

しかし残念な事に、今は戦闘中なのである。

戦闘中に視線を切るワケにもいかないので、必然的に、俺の視界にはソレ(・・)が捉えられていた。



「汚物とは酷い言われようだな…。まあ、確かに今はちと汚れているがな!」



男はそのまま俺に突進を仕掛けてくる。

体躯に勝る点を活かし、強引に組み付く狙いなのだろう。

この狭い空間では悪くない選択だ。



「シッ!」



当然、俺はそれに付き合うつもりは無い。

レンリで牽制し、男を近付かせないように立ち回る。



「チッ…、つれねぇじゃなえぇか。距離を取ったって俺は倒せねぇぞ? さっきので、お前さんも気づいてるだろーが?」



確かに俺の膂力では、この男を倒すのは至難の業である。

先程の蹴りで、徒手での打撃がこの男に通用しないのは確認済みだ。

必然的にレンリでの攻撃がメインになるだが、室内では動きが大きく制限されるのが悩ましい。

いくらこの部屋が広くとも、使える技は突き技に限られてしまう…

男もそれがわかっているからこそ、自分が倒されないという自信を持っているのだろう。



「だからと言って、お前のような変態を近付かせる気は無いがな!」



決め手が無いとはいえ、迂闊に近寄らせることはしたくない。

締め技や関節技は有効だろうが、それはアチラにも言えることだからだ。

しかも、魔族には『魔素』という攻撃方法がある以上、俺が不利になるのは間違いない。

近接するなら、最低限『破震』を確実に通せるレベルで、魔力の波長を合わせておく必要があるだろう。



「そうかい、そうかい。でもよぉ…、あんまり時間をかけれるようには見えねぇけどなぁ?」



「………」



図星である。

アンネとコルトにフォローを頼んではいるが、敵の数が多ければ必ず討ち漏らしは発生する。

時間をかければかけるだけ、援軍が来る可能性は高まるのだ。



「ま、ここはお前さんにとっては敵地だろうしなぁ…。内心、さぞ焦っているんだろうよ」



そう言って、突如男が動きを止める。

一体なんのつもりだ…?



「まあ、気持ちが急いているのはコッチも同じよ。早くお前さんを味わいたいんでなぁ…。っつうことで、これでどうだ!?」



言葉と共に、男が寝床で気絶していた女性の腹に拳を振り下ろす。

間違いなく、致命打であった。



「貴様ぁ!!!!!」



瞬時に頭が沸騰し、一気に間合いを詰める。

まんまと狙いに嵌まった俺を、男はニヤニヤと笑いながら待ち受ける。

俺は構わず、レンリを男の喉目掛けて突き込んだ。



「っとぉ、殺意満々じゃねぇか、それで良いぜぇ…」



男は防御すらせず、そのまま突きを受け入れる。

しかしその瞬間、肉を穿つのとは異なる手応えが、俺に伝わってきた。



(魔素…)



突きが当たる直前、男は『魔素』による防壁で突きを防いでいた。

『剛体』とは異なる、魔族ならではの防御方法である。



「シッ!」



瞬時にレンリを引き、次の攻撃に移行する。

しかし、レンリを引ききる前に、男の手がレンリを掴んでいた。



「おっと、逃がさないぜぇ?」



男は膂力に任せ、レンリごと俺を引き寄せる。

俺は即座にレンリを手放し、それに付き合わない。



「フン、逃げられたか。でも、これで武器は使えなくなったなぁ? 次はどうするよ?」



男の言う通り、今ので俺は武器を失った。

必然的に、ここから先は素手で戦うしかない。



「よっ、と」



男は構わず、女に向かって拳を振り下ろす。

俺は即座に間合いを詰め、それをなんとか阻止する。



「ほぅ、速ぇじゃねぇか。しかし、これで捕まえたぜ?」



「こっちの台詞だ!」



魔力の波長は合わせられた。

『破震』を放つ準備は整っている。

俺は奥襟を掴まれながらも、男の胸目掛けて掌底を突き入れる。

しかし…



「甘いぜぇ」



奥襟を掴まれたことで体を崩され、俺の掌底は空振りに終わる。

やはりこの男、接近戦慣れしている…



「俺はこう見えて、昔は亜人領の狩り部隊に参加してたんだぜぇ? 獣人共が使う小賢しい体術の捌き方くらい、慣れたもんよ!」



男はそのまま俺の袖口も掴み、巻き込むようにして寝床に押し倒してくる。

膂力の差がある以上、俺にそれを防ぐすべはない。



「クッ…」



背中を強かに打ち付けるが、寝床の柔らかに布地に衝撃を吸収されたため、ダメージはほとんどない。

しかし、男はそのまま俺に覆い被さり、手足を押さえつけてしまう。



「そそる顔だねぇ…。お前さん、冷静そうに見えて意外と落ち着きがないなぁ…?」



その下卑た笑みと、押し付けられた硬いモノの感触で、否が応にも怖気が走る。

いくら覚悟を決めていたとしても、こればかりはどうしようも無いか…



「レンリ! やれ!」



「っ!?」



俺の声に応じ、後ろに転がされていたレンリが形状を変化させる。

その形は、人の拳を(かたど)っていた。



「ぐお!?」



その拳が、男の背に向けて強かに打ち下ろされる。

魔族だろうが獣人だろうが、背骨への攻撃は致命傷になり得る。

しかも、レンリの一撃は見た目こそ拳の形をしているが、実際は木槌による打撃と変わらない威力を秘めている。

いくらこの男が頑丈とはいえ、間違いなく無事では済まない。


俺は痛みに悶える男から逃れ、逆に背を取る。

男は反応して『魔素』を形成しようとするが、もう遅い。

俺は背に触れた状態から魔力を流し込み、振動させる。



「ギ…、お、お前、まさか、さっきまでのは、全部…、演、技…」



男はその言葉を最後に、意識を沈めた。



(『破震』が決まって瞬時に意識を失わないとは…、本当にタフな男だったな…)



男が最後に言った通り、俺が逆上した以降の動きは全て演技である。

怒りがこみ上げたのは事実だが、その感情はしっかりと俺の支配下にあった。

より確実に攻撃を決める為、一芝居うったというワケである。



「っと、それよりも…」



男に腹を打たれた女性が心配だ。

早く治療しなければ、手遅れになるかもしれない…






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