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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第216話 第七十八番地区 奪還作戦④



「…アンネ、右前方、噴水近くの男だ。わかるか?」



「うん。大丈夫。どんどん指示して」



アンネが俺の指示を受け、次々に標的を射貫いていく。

相変わらず、凄まじい精度である。



「次…、左前方、遅れて到着した隊の先頭だ」



また一人、アンネの矢に射貫かれ、敵兵が倒れる。

これで計10名である。

なるべく無難な者を標的にしているとはいえ、この短期間にしては中々の数字だ。

それもこれも、アンネの弓の腕と、親父殿の『縁』の力が大きいと言えるだろう。

しかも、アンネの弓と『縁』による伝達能力の相性は抜群であり、その有用性を倍以上に引き上げていた。

敵側からしてみれば、堪ったものでは無いだろう…



「…でも、凄いねコルトは。トーヤ様の『縁』を、もうこんなに活用できるなんて」



「コツさえ掴めれば、ある程度はね。でも、本当に凄いのはアンネの弓だと思うけどね」



俺は、親父殿から『縁』による情報共有能力について簡単に手ほどきを受けている。

その能力を駆使し、アンネに標的を伝えているのである。

しかし、この能力は本来、親父殿を経由しなければ成立しないものであった。

それを成立するように調整したのは親父殿だし、俺はそれを利用しているに過ぎないのだ。



「ううん、私もトーヤ様から『縁』については聞いているけど、ここまで使いこなすのはまだ無理…。コルトは凄いと思うよ?」



そう言われると悪い気はしない。

しかし、だからといって浮かれられる程、俺は自分の実力に満足してはいなかった。



「…ありがとう。さあ、次の標的に移る前に、そろそろ場所を変えよう……っ!?」



そろそろ狙撃の場所を変えようとした刹那、仕掛けた罠に反応が出る。

隠形を怠ったつもりは無いが、どうやら先程の矢でこちらの場所に感付いた者がいたようである。

しかも、罠にかかるまで、全く気付かなかった。

それはつまり、建物に入ってきた敵兵が、中々の手練れであることを意味する。



「すまない、アンネ。ちょっと欲張り過ぎたみたいだ」



余りにもあっさり仕留められていた為、少々敵兵を甘く見ていた。

もう少し早めに場所を変えていれば、と後悔が頭をよぎる。



(…やはり俺はまだまだだな)



自らの未熟さを呪いつつも、俺は敵兵に備えて構えを取る。

このまま別の建物に乗り移る手もあるが、流石に目立ちすぎる為、あまり良い手では無い。

幸い、こちらに気づいた敵兵は、先程の隊の2~3名程のようであった。

この数であれば、迎え撃って口を封じた方が良い…



「アンネ、悪いけど支援を頼む」



「それはいいけど、大丈夫なの?」



「ああ、伊達にルーベルトさんの指導を受けているワケでは無いよ」



俺はエステルに比べれば、明らかに戦闘の才能が劣っている。

しかし、それでも親父殿の右腕になる為、必死に努力してきたつもりだ。

例え相手が(ばん)並みの実力者であっても、負ける気はしなかった。









「…これは、酷いな」



詰所に侵入すると、まず感じたのはむせる様な臭気であった。

これは明らかに、ここで善からぬ(・・・・)事が行われていると思って間違いないだろう。



「雀さん、大丈夫ですか? やはり、ここは俺だけでも…」



「いえ…、大丈夫です」



雀にとって、この臭気は最悪な記憶を呼び起こす、忌むべきものである筈だ。

俺は精霊を経由し、心因療法で彼女の精神を癒したが、記憶自体は消すことができていない。

その記憶が、再び彼女の精神を蝕む(むしばむ)可能性は否定できなかった。



「私の心は、トーヤ殿に救われました。もう、この程度のことで壊れるほど、私は(やわ)ではありません」



雀は嘘を言っていない。

それは魔力の色や、彼女の目を見ればわかる。

しかし、だからといって、この場所が彼女にとってあまり宜しくないことに変わりないだろう。

できるだけ手早く、この場所からは退散した方が良いだろう。



「…わかった」



俺は頷いて、一つ一つ部屋の扉を開けていく。

案の定、いくつかの部屋には、拘束され、弄ばれた女性達が監禁されていた。

処刑された者達が男ばかりだった為、ある程度予想はしていたが…



「ひぃっ…」



監禁された女性達は、俺の姿を見て明らかに怯えていた。

今の彼女達の状況を考慮すれば、無理もない反応だろう。



「…すまない、雀さん。俺が近づいては彼女達を怯えさせてしまう。介抱を頼めますか?」



「…承知いたしました」



雀は頷くと、安心させるように彼女達に近付く。

どうやら顔見知りもいたようで、彼女達は目に見えて安心した表情になっていった。

もしかしたら、雀はこの為に俺と組まされたのかもしれない。

(ゆかり)は何も考えてい無さそうに見えて、実際はかなり思慮深いのだろう。



俺は監禁された女性達のことを雀に任せ、一番奥の部屋へと向かう。

この先に衛兵達の長がいることは、既に魔力探知で確認済であった。

俺はそのまま扉を蹴破り、中へと侵入する。



「クック…、お客さん、済まねぇが見ての通り、忙しいんだ。用事なら、後にしてくれねぇか?」



「…お楽しみのところ申し訳ないが、そういうワケにはいかない。すぐに彼女達を解放してもらおうか」





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