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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第214話 第七十八番地区 奪還作戦②



紫華街(しかがい)は、中々に発達した都市であった。

華々しいとは言い難いが、しっかりとした建物が並び、所々に発光石が設置されている事から、夜でもそれなり視界が良い。



(これだけ明るければ、暗視法を使うまでも無いか…)



色々と弄られているとはいえ、俺のスペックは基本的に人間がベースだ。

いくら暗視法を用いても、人間である以上限界があるので、明かりがあるに越したことは無い。



(さて、子供達の方も配置についたようだし、俺も気を引き締めますか…)









配置についてから程なくして、広場の方から強烈な殺気が放たれる。

あの(えん)という男が暴れ始めた合図だ。



(ぐっ…、話には聞いていたが、本当に強烈な殺気だな…)



コルトとアンナは、こんな殺気を間近で浴びて、良く平気だったものである。

二人は全然平気じゃなかったと言っていたが、俺だったら漏らした上で気絶していてもおかしくなかったと思う。



「ロニー? 大丈夫?」



俺が情けなくもプルプル震えていると、アンナが心配そうに声をかけてくる。



「ああ、ちょっと怖いけど、覚悟していた分、なんとか耐えられているよ」



そう、俺は来るとわかっていたからこそ、耐えられているだけなのである。

その覚悟がなければ、恐らく俺は腰を抜かしていた。



「それにしても、親父殿はこの殺気を前にして平然としてたんだろ? 本当、凄いよな…」



「うん。本当にトーヤ様は凄い…。でも、私達だっていつまでも頼ってばかりじゃいられないよ?」



「…わかっているって。俺達は、俺達の役目をしっかりこなそう」









「…結構風があるな。大丈夫か、アンネ」



「うん、このくらいの風なら問題無いよ」



それよりも、問題なのはこの殺気、かな…

聞いていたとはいえ、正直ここまでとは思っていなかった。

私も姉さんも、地竜という最大級の脅威を目の前にした経験がある為、殺気や威圧感にはそれなりに耐性がある。

しかしこの殺気は、そんなものは関係ないとばかりに私の精神を揺さぶってきた。


私は、震える手を抑え込むように強く握りこむ。



(大丈夫…。私は出来る…)



「………」



そんな私を、コルトが無言で睨みつけてくる。

そして次の瞬間、私はおでこを指で弾かれていた。



「っ!?」



気を張っていたのに、全く反応出来なかった。

これは…、ルーベルトさんの、虚をつく打撃…?



「…驚いたか? 俺でも、このくらいの事が出来る程度には成長してるんだぞ?」



「…?」



コルトが何を言いたいのか、私にはわからなかった。



「でも、その俺以上に、アンネは成長したと思う。だから、まあ…、アンネなら問題無いだろ」



コルトは不思議そうな顔をしている私に対し、どうやら補足をしたようであった。

しかし、それを聞いてもコルトの言いたいことが理解できな……、あ。



(もしかして、私に自信を持たせようと…?)



だとしたら、随分と不器用な言葉選びだと思う。

…いや、でもそういえば、コルトって昔からそういう所あったっけ。

最近は随分としっかりしてきたので忘れていたが、コルトは結構不器用な所がある。



「…ぷっ」



「な、なんで笑うんだ!」



「いや、だって…、本当、コルトは不器用だよね」



私は、気づくと自然に笑っていた。

二人とも小声とはいえ、狙撃手とは思えない振舞いである。



「…悪かったな。不器用で…」



「ううん、コルトはそれでいいと思うよ?」



「いや、駄目だ。俺の目指すのはトーヤ様だからな」



「…先は長そうだね。…もしかしたら、私の方が早くそうなっちゃうかも?」



私は、悪戯っぽく笑みを浮かべてコルトを挑発する。

そんな見え見えの挑発に乗ってくる辺り、コルトの目標はまだ遠いように思える。



「何!? いや、ま、まさか、アンネもトーヤ様の後継者になろうと…?」



「さあ? でも、少なくとも私は尻餅なんてつかなかったよね」



「んな!?」



本当に懐かしい。

奴隷商から逃げていた頃の思い出は、本当に辛いものばかりだけど、こんな冗談を言い合う事もあったものだ。

今思えばあれは、私達の気を紛らせる為の、コルトなりの気づかいだったのかもしれない。



(ありがとね、コルト)



私はそう心で呟きながら、矢を弓につがえる。

もう、手は震えていなかった。



「さあ、人が集まって来たよ。ターゲットの確認、宜しくね。絶対…、外さないから」






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