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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第213話 第七十八番地区 奪還作戦①



―――第七十八番地区 紫華街(しかがい)



第七十八番地区における主要都市であり、紫の居城がある市街地である。

名前から何となく察しはついたが、ここは紫が自ら作成した街なのだそうだ。



「…それにしても、主である紫は暗殺された事になっているんですよね? 街の名前を変えるとか、そういう話にはならなかったんですか?」



「…話はあったようだ。私はその時には既に拘束されていた故、詳細は不明だが、住人達が反対したみたいだな」



まあ、この街の住人は紫を慕って集まった者ばかりらしいしな…

紫が暗殺されたからと言って、その敬意が失われるワケでは無いという事なのだろう。



「…着いたぞ」



そう言って、(えん)は一つの建物の前で立ち止まる。

石造りの堅牢そうな見た目で、装飾などは一切ない。

まさに、機能性だけを重視したような建物であった。

炎はそのまま建物の扉を開け、中に入る。

俺達は若干戸惑いながらも、それを追って中に入った。



「ここは…?」



「隠れ家、のようなものだ。普段は商人の倉庫として使われているがな。…この街には、不測の事態が発生した際に利用する為、こういった場所がいくつか存在する」



隠れ家か…、用意周到な事である。

しかし、確かにこういった場所があれば、何かと便利かもしれないな。

現に、今まさに利用しているワケだし。



「それで、これからどうするつもりなんだ?」



俺達は現在、紫華街奪還の作戦行動中である。

炎を代表とした俺達のチームは、陽動と攪乱を目的とし、既に市街に潜入を果たしている。

街の周囲には高い壁が築かれており、警備もそれなりに厳重だったが、隠し通路を使った俺達には何の障害にもならなかった。

隠し通路自体も、紫が自ら作成したという話だから中々に凄まじい話である。



「予定通り、陽動を行う。…アレが見えるか?」



そう言って、炎は窓を指さす。

窓にはブラインドのようなものが付けられており、外から部屋の中は見えないようになっているようだ。

俺達は炎と同じ角度に立ち、外を覗き見る。

すると、何らかの光源に照らされた広場に、いくつもの杭が突き立っているのを確認できた。

あれは…、



「晒し首、か…」



「そうだ。あれは文官達の首だ。私と同じく、紫様に忠誠を誓った者達だった…」



やはり、そういう事か…

当然と言えば当然の事かもしれないが、どうやらこの地区の新しい統括者は、紫の息がかかった者は徹底的に排除したいらしい。

晒された首の数からして、相当の人数が処刑されたようだが…



「炎殿は、何故処刑されなかったのですか?」



「簡単な話、被害を恐れての事だろう。私達は、紫様の(めい)無くして武力を行使する事は禁じられている。しかし、それが命に関わる事となれば話は変わってくる。処刑を宣告されれば、私達は確実に抵抗しただろう。だからこそ、我々のような武力を持つものは、処刑対象から外されたのだ」



つまり、あそこに晒されているのは、武力を持たぬ文官のみ、という事か。

何とも胸糞の悪い話である。



「私達もすぐ拘束された故気づかなかったが、こうなるとわかっていれば当然抵抗した。彼らには、悪い事をした…」



成程な…

炎が何を言いたいか、その意図が読めて来た。



「…つまり、俺達はあの晒された首を奪還すればいいのですか?」



「…そうだ。まず、私達が騒ぎを起こす。その隙に、トーヤ殿達には晒された首を取り返して頂きたい。私達が本気で暴れれば、彼らの首も無事では済まないからな」



炎を含む五人は、皆一様に暴れる気満々のようだ。

炎も落ち着いているように見えるが、その目は怒りの炎で燃え上がっている。

街の状況については所長から知らされていたようだが、実際その目で見た事で一気に火がついてしまったのだろう。

これは…、紫が言ったように、俺達が陽動に参加する必要は無さそうだな…



「わかりました。確実に亡骸は取り返しましょう」



「…恩に着る。私達は隠密行動が得意でない故、非常に助かる」



まあ、こっちとしても願ったり叶ったりだ。

俺達は炎達とは逆に、隠密行動の方が得意である。

まさに適材適所といった所だろう。



「では、準備が整い次第、行動を開始する」









「それでは、俺達も簡単な打ち合わせをしようか」



炎達が出て行った後、俺は子供達に声をかける。

炎達が出ていくのを待ったのは、『縁』に関する情報を与えたくなかったからだ。



「親父殿、先程話し合ったこと以外にも、何かあるんですか?」



ロニーが不安そうな顔で質問してくる。

ロニーは細かな事を覚えるのが苦手なようなので、作戦が複雑になると実行できるか不安になるのだろう。



「いや、簡単な決め事をするだけだよ。むしろ、行動をする上では少し楽になる筈だ」



そう言うと、ロニーはホッと息を吐く。

その様子を見て、アンナ姉妹もコルトも、微笑ましい表情を浮かべていた。

俺もその様子を見て、少し心が浄化されるようであった。


この四人は逃亡生活を共にしていた事で、息も合っているし、隠密行動も得意だ。

俺がこの四人だけを連れて来たのも、それが理由である。

それに加えて、翡翠は隠密行動に向いていないし、ヒナゲシは『縁』が無いからな…



「さて、もう慣れてきたと思うけど、この作戦には『縁』の力を活用しようと思っている。あまり時間は無いが、これから俺が発する『信号』を覚えて欲しい」




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