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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第212話 作戦開始前の談話



現在、収容所の所長室には、所狭しと多くの人材が集められている。

既に元奴隷達の受け入れも完了しており、その内の何人かもこの部屋に呼ばれているようであった。



「あの…、我々は何故ここに呼ばれたのでしょうか…」



元奴隷達は、ここに集まる物々しい面子を見てかなり怯えている様子である。

子供達のさらに後ろで縮こまる姿は流石に情けなく見えるが、気持ちはわからなくもない。

何せここに集まっている(ゆかり)の陣営は、所長も含めて強面揃いである。

俺だって立場が違えば、間違いなく避けて通るような手合いばかりだ…



「無論、協力してもらう為だが、安心するといい。お前達の安全は、私が保証するからな」



その言葉に、奴隷達はホッと息を吐く。

しかし、紫のこれまでの言動から察するに、本当に安全かどうか…

敢えて口には出さないが、奴隷達には少し同情してしまう。



「…そ、それなら良いのですが、我々は一体何をすれば良いのでしょうか?」



「…ふむ、その前に、其方らの名前を聞かせてもらえるか?」



「は、はい、私は…」



集まられた奴隷達は全部で五人。

それぞれ、コトウ、ヨウヒ、(はざま)、テイラ、カララというそうだ。

少し意外だったのは命名の法則だ。

てっきり魔族は紫や(ばん)(えん)と同じように、漢字一文字の名前が主流なのだと思っていたのだが…



(はざま)か…。家名はなんだ?」



「ご、ご存じないかと思いますが、私の家名は、アキタニアと言いまして…」



「アキタニアか…。確か商業家系だったな?」



「っ!? は、はい! まさか、紫様がご存知だとは…」



「私は、一度聞いた名は忘れぬからな。しかし、家名持ちが何故奴隷に?」



「それが…、行商の最中に、盗賊に襲撃を受けまして…」



「…成程。それがあの義火だったと。災難だったな」



ふむふむ…、家名持ちとそれ以外とで、命名の法則が違うって事かな?

紫が、紫・スルベニア・ゾットと名乗っていたので、間は間・アキタニア・何ちゃらってとこか。

ゾットというのは魔王の名前だし、下の方は称号か何かかもしれないが…



「はい…。ですが、私はこうして救って頂けたので、まだ運が良かった方かと…」



「そうだな。私達は運が良かった。トーヤ殿達には感謝してもしきれんよ」



クック…、と愉快そうに笑みを向けてくる紫。

一同の視線が一気に俺に集まり、非常に居心地が悪い。

恐らく、俺達の立場を周囲に認識させる一環だと思うが、紫の場合どこまで計算しての行動か、イマイチ判断し辛い。



「しかし、商業家系の者であれば、尚更丁度いいな」



「ちょ、丁度いいとは?」



「私がお前達に頼みたかったのは、他の奴隷達の管理と、避難させる街の住人の受け入れについてでな。間にはその人数と、名前を管理してもらいたい。専門分野だろう?」



「…つまり、名簿を作れば宜しいのでしょうか? 確かに、そういった事であれば職業柄得意ですが」



「そうだ。…他の者達も、細かい事は追って伝える故、今はそれで納得してくれるか?」



「「「「「は、はい!!」」」」」



「では、よろしく頼むぞ」



紫の妖艶な微笑みに、奴隷達は骨抜きされたような顔で返事をする。

こんな簡単にやる気を出す辺り、男は単純だなとも思うが、これが自分に向けられたものであれば、正直ちゃんと断れるか怪しい所だ。

美人というのはもちろんあるが、それ以上に、人を惹き付ける不思議な魅力が紫には備わっていた。


しかし、名簿か…

ここまで人数が増えてくると、名簿とは言わずとも何かメモくらいは取っておかないと、すぐに忘れそうである。

とりあえず、今の五名だけでもメモしておきたいが…



「あ、あの、宜しければこちらを、お使いください」



俺がなんとかメモ出来ないか手甲をガリガリしていると、紫の侍女がわざわざ紙と書くものを用意してくれた。



「ありがとう、助かるよ」



「いえ…、お困りの用でしたので…」



侍女は恐縮そうに身を縮め、顔を赤らめている。

正直、そんな反応をされると俺も困ってしまうのだが…



「クック…、私の侍女を誑し込むとは、中々やり手だな? トーヤ殿?」



「なっ!?」



「紫様!? け、決してそのような事は!」



な、なんて人聞きの悪い事を…

俺は絶対に誑し込むような事はしてないぞ!?



「良い、良い。トーヤ殿と繋がりを持つことは、私としても望ましい事だ。存分に育むといい」



何をだよ!

というか、侍女さんも満更でもなさそうな態度を取らないでくれ!



「ガルルルルルルル!」



ほら、さっきまで我慢してたのに、ついにアンナが威嚇を始めちゃったじゃないか…

アンネもやたら冷たい視線を送ってくるし…



「クック…、まあ、今は暫しお預けだがな。(すずめ)もトーヤ殿も、此度の作戦は存分に働いてもらうぞ?」



そう言うと、紫の雰囲気が温度が下がるように切り替わる。

どうやら、ようやく本題に入るようだ。


やれやれ…、その前にどっと疲れたぞ…




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