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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第210話 第七十八番地区 罪人収容所



「しかし、奪うって言っても、一体どうやって?」



正直な所、紫の提案は完全に想定外であった。

紫の統轄していたという第七十八番地区、それを奪い返すために、いくつかの拠点を襲撃する事は予想していたが、いきなりこんなに目立つ場所を襲撃するとは思いもしなかったのだ。



「フフ、そう不安そうな顔をするな。お前の心配はもっともだが、あそこは私の息のかかった場所だ。それ程労力をかけずとも、奪い返すことは容易い」



俺の不安を表情から読み取ったのか、紫が俺に補足してくる。

それを聞いて完全に安心しきる事は出来ないが、少なくとも乱戦になる事は無いのかもしれない。



「さて、時間は有限だ。早速取り掛かる事にしようか」









「…っ!? 誰だ! 止まれ!」



俺達が近づくと、守衛達は警戒して武器を構える。

中々の使い手のようで、その構えには一切隙が無い。

本当に大丈夫なのだろうか…



「ふむ、やはり私は運が良いようだ」



「…? 何を言って…?」



紫は、守衛の制止を無視して前に出る。

そして、姿を隠すために着込んでいた外套を、自ら脱ぎ捨ててしまった。

これには流石に焦らされたが、紫が考えなしにそんな行動を取るとも思えない。

離脱しようとするコルトを宥め、俺は様子見を選択する。


守衛は訝しげな表情を浮かべるが、光源に近づいた事により、その姿をあらわにした紫を見て目を見開く。

そして次の瞬間、守衛達は全員武器を収め、紫の前に跪いた。



「姫様…! 良くぞ、ご無事で…!」



「心配をかけたな、直里(すぐり)



そう言って紫は、守衛の一人の腕を引いて立ち上がらせる。



「皆も面を上げよ。そしてその目でもう一度確かめるが良い。夢でも幻でも無く、私が健在である事をな」



守衛達は、その言葉に迷いながらも面を上げる。

そして、ある者は満面の笑顔を浮かべ、ある者は涙を流して喜びの声を上げた。



「どうやら、本当に苦労をかけたようだな…。お前達にどう伝えられているかはわからないが…、安心しろ、私はこうして健在だ」



その瞬間、上がりかけた歓声を、紫は手で制し抑え込む。



「お前達の気持ちは嬉しいが、騒ぐならもう少し後にして欲しい。私はまず、この収容所を掌握するつもりなのでな。…もちろん、協力してくれるだろう?」



「「「「御意!」」」」









その後は、とても順調に事が進んだ。

元々息がかかっていた場所という事もあり、この施設の主だった幹部は半分以上紫の配下だったらしい。

お陰で俺達は、ほとんど何もすることが無く、勝手にこの場所が掌握されるのを待つような状態になってしまった。



「言っただろう? 労力はかからないと」



「…いや、まさかここまでとは普通思いませんよ」



「フッ…、まあな。正直、私もここまで簡単に事が進むとは思っていなかった」



実際、あそこまで簡単に守衛を突破出来るとは、紫も思っていなかったのだと思う。

でなければ、あんな大雑把な作戦にはならないだろうからな…



「あの守衛達は、紫さんの元配下なのか?」



「ああ、あの者達は私の城の兵士達だ。いずれも私が直接声をかけた者達でな、忠誠心も高いし、全員中々の実力者なのだぞ?」



それは先程のやり取りで、十分に理解出来た。

もし彼らを突破する事になったとしたら、それなりに苦労させられる事になったと思う。

そこばかりは、本当に助かったと言えるだろう。



「まあ、作戦は無駄になったがな…」



元々作戦では、奴隷の男達を運び屋にしたて、俺達は囚人としてこの収容所に侵入する予定だった。

そして、もしそれが失敗した場合は無理やり侵入するという、なんとも大雑把な作戦だったのである…



「無駄になって良かったと思いますが…」



「そう言うな。私も少しは体を動かしたかったんだ。なんなら、お前が付き合ってくれるか? トーヤ」



「…遠慮しておきます」



弟に続いて姉の相手なんて、勘弁願いたい。

しかも、姉の方の実力は弟以上という事だし、死ぬほど疲れる事は間違いないだろう。

絶対にやらないからな…



「フッ…、まあ考えておいてくれ」



そう言って紫は、楽しむようにお茶をすする。

そんな仕草ですら優雅に見えてしまうのは、やはり王族たる所以なのだろうか…



「失礼します」



「所長か、首尾はどうだ?」



「痴れ者共の息がかかった者は全て処理いたしました。あとは囚人達についてですが…、お手数おかけしますが、紫様にご足労いただきたく…」



「わかった。向かおう」



迷うことなく即答。

本当に格好いいな、この人…



「トーヤ、お前達も来い」



俺達が行っても意味が無いと思うのだが…

まあ断っても仕方がないので、俺達は紫を追って席を立つ。

しかし、紫に近付く直前、所長が慌てたように間に入ってきた。



「紫様、この者達は…?」



「私の事を助け出してくれた恩人だ。構わないだろ? 所長」



「なんと…。それは失礼いたしました。どうぞお通り下さい」



うーむ、今警戒するなら、最初からしておけと思うのだが…

なんとなく違和感を感じるも、所長からは悪い気配がしなかった。

アンナも無反応だし、気にし過ぎかもな…




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