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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第206話 蛮との戦い④



(厄介、だな…)



数度受けた事で、魔素による攻撃の厄介さは十分に理解していたつもりであった。

しかし、蛮が今纏っている魔素の鎧は攻防一体の技であり、これまでよりもさらに厄介な性質を持っていた。

魔素が血液である以上限界はある筈なのだが、どれ程の時間維持できるかは、正直判断できない…



「シャァァァァァァッッ! ラァァァァァァァァッッッッッ!!!!」



蛮は先程までとは異なり、フェイントの類は使用せずに純粋な真っ向勝負を挑んできている。

戦ってみて理解したが、この男は決してただの馬鹿ではない。

これまでの攻防で、ある程度俺の特徴を理解したのだろう。

ただ闇雲に攻撃をしていたわけではなく、しっかりと学んでいたと言う事だ。



「クッ…、初手にこれを使われていたら、本当に不味かったな…」



これを初手に使われていたとしたら、本当に危険だった。

魔素単体の攻撃であれば躱せただろうが、通常の攻撃を絡められていたら初見で躱すことは出来なかった筈だ。

何故ならば、いくら反応は出来てたとしても俺の体がついて行けないからである。


じわじわとだが、俺の体に傷が増えていく。

蛮は俺が防ぎきれていないと判断したのか、さらに連打を加速させていく。



(…キツイな)



実の所、俺が本気で防御だけを考えれば、今の手数でも完全に攻撃を防ぎきる事はできる。

それをしないのは、防戦一方になるのを嫌ったからだ。


確かに、全力で防御に回れば、蛮の攻撃を全て防ぎきる自信はある。

しかし、こちらが攻めないとわかれば相手は自由に攻撃し放題となる為、攻撃がさらに苛烈なものとなる事は想像に難くない。

そうなってしまうと、防御したとしても徐々にダメージの蓄積は出てくるだろうし、こちらの想定を上回る攻撃を貰う可能性も出てくる。

そうならない為には、ある程度防御に余裕を持たせつつ、こちらからも手を出していく必要があるのだ。

攻撃は最大の防御という言葉を完全に肯定するわけでは無いが、攻撃が防御においても重要な役割であることは間違いない。

故に、俺は戦闘に支障を来す攻撃だけを避ける事だけに専念していた。

そして、



「ハッ!」



俺は多少の攻撃を貰いつつも、隙を見て強引にレンリで突きを放つ。



「っ!? 無理やり反撃してくるとは良い度胸だ! だが、そんな攻撃じゃ魔装鎧は突破できねぇぞッ!!!!」



しかし、残念ながら魔素の鎧を突破する事はできなかった。

まあ、確かに残念ではあるのだが、これくらいは想定通りである。

狙いは一瞬でも手を緩めさせることだったので、とりあえずの目論見は成功したと言っていいだろう。


俺は一瞬出来た『間』を利用して、呼吸と体勢を整える。

こうやって、少しずつ余裕を作る事で、より強固な防御体制形成していく。



(さて、あとはどう切り崩すか…)



蛮の連打は依然として止まる気配が無い。

俺は平静を装いながらも、内心では徐々に焦りを感じていた。

何故ならば、いくら余裕を作ったところで、攻撃が通らねばジリ貧である事に変わりはないからだ。

これならばいっそ、完全に防御に回るという手も…



(いや、駄目だ駄目だ…)



すぐに弱気になるのは、俺の変わらない悪癖である。

まあ、この状況であれば、俺でなくともその選択を取ろうとする者は多いだろうが…


これは防戦を嫌うという俺の考えには反しているが、実の所この戦いにおいて有効ではあるのだ。

というのも、あの魔装鎧という技はどう見ても燃費が悪そうであり、恐らく長時間維持する事は不可能だからである。

故に、このまま戦いを長引かせれば、相手のガス欠で勝ちを拾える可能性は十分にあるのだ。



(…まあ、それでもやはり、俺には向いていない戦法だけどな…)



俺は蛮の攻撃を全て防ぎきる自信があるが、それでもラッキーパンチの可能性が無いとは言えない。

そして、身体能力に難のある俺では、ラッキーパンチ一発で形勢が一気に逆転する可能性がある。

俺はそんな不安要素がある作戦に、身を委ねる事は出来ない。



「ハァーーーッッッ!!!」



俺はレンリを捻り、一気に回転させて突きを放つ。

剛体破りとなる、捻りを利用した大技、『螺旋』である。

しかし、この技ですら、蛮の魔装鎧を貫くことは出来なかった。



(硬い…。剛体よりもさらに燃費が悪そうだが、防御性能は上を行っているかもしれないな…)



剛体は凄まじい防御性能を持つが、密着状態からの攻撃を防げないという弱点を持つ。

それ故に、触れてからの撫で斬りや、『破震』、『螺旋』といった密着状態から高威力を出せる技が有効なのである。

しかし、この魔装鎧という技は、どうやら純粋な鎧として性能を持っているようであり、そういった弱点は無いようだ。

しかも、鎧のように纏ってはいるものの、実際の所は着こんでいるのではなく、厳密には表層に浮いてる状態であるらしい。

…まあ、それに気づいたのは、つい先程『破震』が通じなかったからなんだがな…



(全く…、本当に厄介な技だよ…)



俺の攻撃力ではあの鎧は抜けないし、通常なら鎧を突破可能な『破震』すら通じないとなると…



(…丁度いいし、アレを試すか)



アレとは、師匠相手に放った技の事である。

未完成の技ではあるが、アレはあの師匠が悪くないと言った希少な技でもあった。

相手が鉄壁の防御力をもっているからこそ、試す価値は十分にあると言えた。


俺は蛮の接近に合わせ、思い切って前に飛び込む。



「っ!?」



蛮にとってそれは想定外だったようだが、この程度で怯むような男ではない。

魔素による槍で、しっかりとカウンターを狙ってきた。

しかし、それはこちらも想定の範囲内である。


俺はそれに合わせ、師匠から譲り受けた竜塵布を叩きつける。



「なっ!?」



竜塵布は魔力を通さない。

そして、魔素が魔力で操られている以上、それは例外では無かった。

放たれた魔素の槍は、竜塵布を滑るように逸れていく。


――そしてそこには、この戦いが始まってから最大の隙が生じていた。




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