第200話 奴隷達の扱いについて①
猛暑でダウンしていましたが、更新再開です。
義火の者達は全て、意識を刈り取った上で倉庫らしき場所に放り込んである。
そう簡単に目覚める事は無い筈だが、仮に目覚めたとしても結界を張ってあるので問題は無いだろう。
蛮とヒナゲシが交戦、というか殲滅していた兵士達については、誰一人として生き残ってはいなかった為、今は死体の始末中だ。
「にしても、予想以上の規模だったな…」
幹部がどれ程いたかは不明だが、義火の構成員と思われる者は五百人以上いたように思える。
これで複数あるアジトの一つに過ぎないというのだから、義火というのは本当に大きな組織らしい。
「それだけ重要拠点だったってこった。俺もここまでの規模のアジトは初めて見たぜ」
蛮はいくつか義火のアジトを潰した事があるようだが、これだけの規模のアジトは初めて見たらしい。
そもそも義火は、遊牧民のように各地を巡っている為、長く住み付くようなアジトを持たないのだとか。
「戦闘力の高い奴もあまり居なかったし、ここは商品管理倉庫のような役目を果たしていたんだろうな…」
この地はあくまで、各地で仕入れた奴隷や金品を管理する場所だったのだろう。
モノを隠すにはもってこいの立地だし、広さも十分な事から倉庫としてうってつけの場所だと言える。
「んで、奴隷達についてはどうするつもりだよ?」
「勿論、解放するつもりだが?」
「ハッ! んなこったろうと思ったぜ。でもなぁ、事はそう単純にはいかねぇと思うぞ?」
「………」
実際の所、俺も蛮の言う通り簡単にはいかないと思っている。
この地で管理されている奴隷達がどの様な経緯で捕らえられたかはわからないが、まず間違いなく碌な経緯では無いからである。
住んでいる場所が襲撃された者、或いは仲間や身内に売られた者、ここに捕らえられているのは恐らくそんな者達ばかりの筈…
つまりほとんどの者は、解放されたとしても帰る場所が無いと言う事だ。
これは以前、コルト達が捕まっていたドグマという商人から、奴隷達を解放した時にも体験した事であった。
「ケッ、まあいい。まずはさっさとこの死体の山を処分しねぇとな…。手前ぇとの勝負で水差されても面倒だしよぉ」
この期に及んでまだ戦う気なのか…
散々暴れた事だし、もう十分ストレスは発散されたと思うんだがな…
まあそれはともかく、確かに死体の処分については少し急いだほうが良いかもしれない。
不死族化などされてしまえば、水を差すどころの話では無くなるからだ。
不死族化はそう簡単に起こる現象では無いが、死体が大量に発生する場所では比較的発生しやすいと言われている。
また、地域ごとに発生率も変わってくるようだが、いずれにしても警戒するに越したことは無いだろう。
…それにしても、蛮はこの手の処理にも慣れているようであり、淡々と死体処理を行っている。
こういった事は俺に限らず、戦場に出た事の無い者は結構苦にするものなのだが、やはり戦場慣れしているのだろうか?
「…ロニー達も、無理はしないでいいからな? あっちで翡翠と一緒に休んで来てもいいんだぞ?」
ロニーとコルトには死体処理を手伝ってもらっている。
特に指示を出したわけでは無いが、彼らが志願してきたのである。
本来であれば翡翠と同様に休憩してもらうつもりだったのだが、手が足りないのは確かなので甘えさせて貰っていた。
「いえ、流石にこの規模は初めてですが、死体処理は以前にもしたことがありますので、大丈夫です。それに、親父殿の兵士になるからには、このくらいの事は慣れておきたいですからね」
死体処理の経験がある…、か。
まあ、予想通りではあるのだが、複雑な気分である。
それと、俺の兵士になったらこの手の仕事が増えると思われているのも少し心外だ…
別に俺だって慣れているわけじゃないし、気が滅入る作業である事は変わらないしな…
うっ…、なんだか胃がキリキリしてきた…
さっさと終わらせてしまおう…
◇
死体処理を終えた俺達は、別件を任せていたアンナ達と合流し、空洞を利用した大部屋へと向かう。
大部屋に入ると、百名近い奴隷達が大人しく俺達の事を待っていた。
「コルト、これで全員揃っているか?」
「動ける者については、ですが…」
コルトによると、実際にはもっと人数がいるらしい。
どうやら、まともに動ける状態では無い者も多かったらしく、その者達は別室にて安静にして貰っているようだ。
他にも、気の振れてしまった者や、精神を病んでしまっている者もが居たが、そういった者は仕方なく隔離をしているらしい。
確かに、こんな場所で奴隷として扱われていたのだから、心身ともに病まない方が不思議と言えるかもしれない。
ここに集まっている者達も、その眼には既に気力が失われているように思える。
「どいつもこいつも、折角助かったってのにシケた顔しやがって…」
蛮にとっては、同じ魔族が情けない姿を晒しているのが気に入らないらしい。
しかし、彼らにとって俺達は、敵対国家の兵士のようなものなのである。
この先の処遇を考えれば、絶望するのも無理は無いと言えるだろう。
「ちっとはまともな奴が残っていると思ったんだが…、ん? ありゃ、もしかして…」
蛮が何かに気づいたのか、一人の奴隷に歩み寄る。
その奴隷は、服装こそ他の者達と同様にみすぼらしいものだったが、妙に小綺麗であり、怪我の類も見当たらなかった。
それだけでも他の奴隷達とは異なり、丁重に扱われていたことが伺えるが…
「…アンナ、何故つねる?」
「トーヤ様があの女に見惚れていたからです」
「誓って言うが、決して見惚れてなどいないぞ?」
「なら、良いのですが」
確証もなしにつねったのかよ…
いや、この顔はまだ信用していないな…
というか、なんだ? 俺は美人に目が無い好色とでも思われているのだろうか?
「ククッ…、ハァーッハッハ!」
蛮が突然笑い出した為、俺達も何事かとそちらへ向かう。
「姉貴…、まさか生きていたとはなぁ…」
「…ん? お前は、まさか、蛮…、なのか?」
「そうだぜ姉貴…。まさか、こんな所で死んだはずの姉貴と会えるとは思わなかったぜ」
驚いたことに、彼女は蛮の姉らしい。
確かに、顔だちには若干面影があるが…
「貴様こそ、一体こんな所で何を…? しかも、何故敵兵と一緒にいるのだ? まさか、貴様…」
「おいおい、勘違いするんじゃねぇぞ? 別に俺はこいつらの仲間ってワケじゃねぇよ。利害が一致したから手を貸したってだけだ」
手を貸した…、ねぇ…
どちらかと言うと、俺達の方が手を貸したと言える気がするが…
まあ、蛮がいようといまいと、俺の行動に変わりは無かった筈なので、あえて突っ込まないけどな。
「…お前達は何者だ? 我々をどうするつもりだ?」
「別に、どうもするつもりは無いんだがね…。ただ、このままじゃまともに話も出来ないだろうからなぁ…」
俺達が近づいて来ても、ほとんどの奴隷は顔を上げる事さえしなかった。
これでは本当に、文字通りお話にならない。
「というわけで、まずは食事にしようと思う」
「「…………はぁ?」」
姉弟は仲良く、俺を変な目で見てくるのであった。