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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第195話 義火討滅①



「…ここまで近づくと流石にわかるけど、良く気付いたなコルト」



ロニーが感心したように呟く。



「木の生え方が少し不自然だったからな。でも多分、親父殿やアンナ達ならもっと早く気付けた筈だ。俺なんてまだまだだよ…」



コルトは謙遜するが、決してそんな事は無い。

俺だって長い山ごもりの経験と、アンナとの『縁』がなければ気づけなかった筈だ。

それ程までに、あの場所は巧妙に隠されていた。



「まさか、こんな所に隠されてるとはなぁ…。通りで見つからないワケだぜ…」



距離的にはまだ大分離れているのだが、蛮にも見えているようだ。

どうやら、それなりに夜目が利くらしい。



「それで、あの場所は一体なんなんだ?」



蛮はあの場所について、心当たりはあるが確信は無いと言った。

その為、まずは少し近づいてみることにしたのだが、実際見てみる事で確信に至ったようだ。



「あの見張りに立っている奴のぶら下げている識別票、あれは義火(ぎか)っつう義賊のもんだ」



「義賊…?」



義賊と言えば『正義の盗賊』というイメージが強い。

盗む対象を悪徳商人や汚い権力者に絞っていたり、盗んだ金品は民衆に分け与えるなど、善意の行動が基本となるからである。

盗賊であるから間違いなく犯罪人ではあるのだが、毒を以て毒を制すようなやり方である為、多くの場合民衆の人気も高い。

魔界における義賊がどんなものかは不明だが、俺に義賊という言葉で伝わってきた事からも、認識としては間違っていない筈だ。



「ああ、自称(・・)な…。実際の所はとんだ糞集団だよ。確かに義賊的な行動はしているが、全て自作自演でな。奴隷売買から人体実験、強制労働…。挙げていくとキリが無いほど、奴らは反吐の出るような真似をしている…」



そう言った蛮の瞳には、明らかに怒りの念が宿っていた。

魔族は残忍で狂暴と聞いていたが、このような男もいるのか…

やはり何事も、実際に確認するに限るな…



「…成程、な。じゃあアレは、そいつらのアジトの見張り番ってとこか」



話を聞いて、コルトからやや剣呑な気配が伝わってくる。

恐らく、エステルの事が過ったのだと思う。あの娘も、魔族の略奪による犠牲者だからだ。



「恐らくな…。じゃなきゃ、あんなとこに見張りを立たせる理由がねぇ…」



「…だろうな」



こんな山中に見張りがいる時点で、何かを隠していますと言っているようなものである。



「前々から、奴等のアジトが魔龍荒野のどっかにあるんじゃって噂はあったんだよ。だが、まさかこんな魔獣だらけの山にあるとはな…。正直、完全に想定外だったぜ…」



「蛮は奴らのアジトを探していたって事か?」



「ああ…、個人的な理由でな…。まあ、そりゃいい。それより、お前達はアレをどうするつもりだ? 言っておくが、ここは亜人領から離れすぎてるし、お仲間の奴隷なんて管理されてねぇと思うぜ?」



…確かに、この地が魔族領の最北端に位置するのであれば、亜人領とは離れ過ぎている。

そんな場所まで奴隷を運ぶのは、コスト面でもリスク面でも釣り合っているとは思えない。

しかし、蛮の言い方には引っ掛かりを覚えるな…



「俺達のって事は、他の奴隷は管理されてるって事か?」



「そりゃな。お前達のとこだって、同族の奴隷はいくらでもいるだろうが? 魔族にだって差別はあるし、弱者は搾取される対象なんだぜ? お前達は知らないだろうがよ…」



吐き捨てるように言い放つ蛮の態度には偽りを感じない。

そこにはやはり、俺達が魔族に対して持つ、残忍さや凶暴さのイメージとは違う何かを感じざるを得なかった。



(…これは、少し確かめた方が良いかもしれないな)



俺達の最優先目的はあくまでも亜人領への帰還だが、その過程でなるべく調査を行う必要がありそうだ。

少なくとも、魔族の文化や習性など、俺達に足りない情報は出来るだけ集めておくべきだろう。



「…親父殿、亜人領の奴隷がいないのであれば、ここは無視するのが得策かと思います。規模にもよると思いますが、先程の魔獣達とは違い、取りこぼしは許されません。…速やかに、ここを離れましょう」



コルトが冷静に状況を分析し、この場を離れる事を打診してくる。

しかし…



「…コルト、ロニー、そういえば、お前達にはまだ渡していないものがあったな」



「…親父殿? こんな時に、何を言って…?」



俺の言葉に、コルトもロニーも疑問符を浮かべている。



「いいから、二人とも、俺の手を握ってくれ」



俺はその疑問に答えず、代わりに二人に手を差し伸べる。

二人は俺の行動に疑問を持ちながらも、黙って俺の言葉に従う。

素直で良い子達だ。



「二人とも、俺は二人の事を家族と思ってるし、かけがえのないものだと思っている。何があっても、二人を守る意思は変わらないと誓おう。信じてくれるか?」



「親父殿…、それはこちらの台詞です! 俺は親父殿の子として、仲間として、親父殿の助けになりたいし、家族を守る力になりたいと思っています!」



「俺もです! 俺はアンネ達やコルトみたいな才能は無いけど、それでもみんなの事が大事だし、力になりたいと思ってる!」



二人は俺の手を握りしめながら、強い意志をぶつけてくる。

そして、精霊もそれに呼応し、繋がりを求めてくる。

ここに『縁』は成った。



「「っ!? これは!?」」



「これは『縁』というものらしい。かつて人と龍が交わる際に生み出された秘術だそうだ。俺やアンナ達が、お互いの意思の疎通や経験を共有することが出来るのは、この『縁』のおかげなんだよ」



二人はまだ『縁』の感覚に意識が追い付いていないらしく、複雑な感情が俺に流れ込んでくる。

本当はこの感情の流出についても制御すべきだが、俺もあえて自分の感情を制御せず、あるがままの思いを二人にぶつける。



「…二人とも、俺の感情が伝わったかな? 『縁』はこんな感じで、お互いの心情や大まかな意思を相手に伝えることが可能だ。もちろん、これについては制御できるので、隠し事があってもダダ洩れなんて事にはならないから安心して欲しい」



俺は簡単な精神制御法と『縁』の活用方法を伝えてから、ヒナゲシを呼び寄せる。

この娘とは『縁』を繋いでいない為、俺の意思が伝わっていないからだ。



「二人にはもう伝わったと思うが、これから、あの『義火』という組織を潰したいと思う。どうか、力を貸して欲しい」



俺がそう伝えると、蛮を除く全員がそれぞれ肯定の意思を示してきた。



「私は、トーヤ様の(めい)であれば喜んでお力になりましょう」



「「私達は、最初からその気でしたので、もちろん協力します」」



ヒナゲシはその表情に笑顔を絶やさず、俺の言葉に応じてくる。

アンナ達姉妹は、一字一句違わず返答をしてきた。



「俺も! 役に立てることがあれば何でも言ってください!」



ロニーも、恐らくは最初からやる気だったのだろう。

やはり最初は慣れないのか、感情が少しずつ俺に流れ込んできていた。

そして…



「コルト、わざわざ提案してくれたのに済まないが…」



「親父殿、いいんです…。実の所、俺も親父殿ならそう言うと思っていましたので…。俺で良ければ、存分に使ってください」



狡いようだが、コルトの回答は初めからわかっていた。

俺にここを離れる事を提案しながら、コルトからは何かを期待する思いを感じ取っていたからだ。



「みんな、流石にトーヤの事わかってるねぇ~。僕ももちろん、最初から協力するつもりだよ?」



「翡翠…、魔力の方は大丈夫なのか?」



「当然! 大量消費したとはいえ、それでも君達全員分の魔力くらいは余裕で残ってるさ! 僕一人でも十分なくらいだよ?」



「それは頼もしいな…」



同時に、恐ろしくもある。

魔力が枯渇しているにも関わらず、俺や子供達全員の魔力量を超えるというのだから、最大値を想像すると眩暈がしそうだ。

やはり龍種というのはとんでもない存在だ…



「という事で蛮よ、悪いが戦う件はもう少し待って欲しい」



「ハッ! 本当にお前ら、馬鹿だな。いいぜ…、ただし条件がある」



蛮は獰猛ともいえる顔つきで笑みを浮かべる。



「俺も奴らを潰す作戦に参加させろ。奴らにはカリがあるんだよ。お前達にだけやらせちゃあ、俺の気が済まねぇ…。それに、お前に死なれても困るしなぁ…」



まあ、こう言い出すことも織り込み済だ。

不安は残るが、何かを企んでいる気配も無いし信用してもいいだろう。

俺は一応、アンナに目で確認を促すが、アンナの意見も問題無しのようだ。



「…それじゃあ、よろしく頼むよ。人手は多いに越したことがないからな。…さて、それじゃあ、これから作戦について簡単に説明するぞ」




――そして、俺達は闇の中、義火討滅作戦を開始するのであった。





寝落ちを繰り返したせいでズレこみました…

次の更新は土曜日になると思います。

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