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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第194話 情報に対する対価

月末月初を乗り切ったので、元の更新ペースに戻ります…



「…それで、あれは一体何なのか、蛮の口から聞きたい所だけど」



「…教えると思ってんのか?」



蛮からは抵抗の意思を僅かながら感じる。

しかし、あくまでも僅かながら、である。

これは蛮自身にどうしても言いたくない事情があるわけではなく、単に俺に対する悪感情から来る抵抗という事だ。

であれば、特に問題は無いだろう。



「まあ、タダで教えてもらえるとは思っていないさ。でも、蛮はアレに対して少なからず思う所があるんだろ? だったら、条件次第では教えてくれるかな、と思ってね」



個人の悪感情というものは厄介なものだが、余程の事が無い限りはほぼ間違いなく理を取るものである。

例えば、仕事内容は気に入らないが給料が良いから続けるとか、嫌いな教師だが内申の為に好感を持たれるようにするなど…

事例を挙げればキリがないが、要するに個人的感情はいくらでも押し殺されるケースが多いという事である。



「…条件、ねぇ? じゃあ、トーヤ様(・・・・)は俺が話したら何をしてくれるって言うんだよ?」



蛮は皮肉たっぷりにそう返してきたが、どうやら駆け引きには乗ってくれるらしい。



「そうだな…、例えばアレが何かはわからないが、場合によっては潰してもいいし、蛮がこの場で解放しろと言うのであれば、解放してもいいぞ?」



まあ、解放する場合、多少意識を操作させてもらうが…



「ハッ! 解放ね? 最初から解放するつもりだった癖に、それを条件に出してくるってのは少し弱いんじゃねぇか?」



それは確かにそうなのだが、状況次第で条件が変わるなんて事はいくらでもある。

その辺は商売などと一緒だ。

とはいえ、あくまで個人間の取引だからな…。ある程度の譲歩は必要だろう。



「…それじゃあ、何か望みはあるか? 呑むか呑まないかは内容次第だが、出来る限り譲歩しよう」



「親父殿、わざわざそんな事をせずとも…」



「体に聞くのは無しだ。その手の対応は、蛮のようなタイプには逆効果だぞ?」



コルトが過激な事を言う前に、先んじて注意をしておく。

亜人領に戻る前に、この考え方を出来るだけ矯正しなくては…



「そう、ですか…。すみません、差し出がましい事を…」



「いや、意見を出すことは良い事だ。ただ、俺としてはもう少し広い視野を持って欲しいな」



「…精進します」



俯くコルトの頭を軽く撫でてやりながら、再び蛮へと向き直る。



「それで、どうする? 言うだけならタダだし、何でも言っていいぞ?」



「誰も話すなんて言ってねぇだろうが…」



蛮は苛立ちを隠さずに悪態をつく。

しかし、それが演技である事くらい当然お見通しだ。



「…まあ、別に隠す事でもねぇ、乗ってやろうじゃねぇか。条件は、そうだな…、俺と、そのガキと戦わせろよ」



蛮の視線はアンナへと向いていた。



(成程、そう来たか…)



先程の戦いを見て、何か思う所があったのだろう。

レイフにも好戦的な者は多いので、それは何となく理解できる。

しかし、流石にその条件を呑むわけにはいかない。



「それは駄目…」



「私は構いませんよ」



「…アンナ」



全く、この娘はこの娘で変に自信をつけてしまっているな…

確かに実力は伴っているが、実に危うい。



「問題ありません。この男程度であれば、私が負けることはありません」



「言ってくれるじゃねぇか、ガキィ…」



早速視線でバチバチとやりだす二人。

やれやれだな…



「アンナ、やめなさい」



「でも…」



「アンナ」



「…はい」



俺が強めに意思をぶつけると、アンナは渋々といった感じで後ろに下がる。

無理やり言う事をきかせるようで実に嫌な気分だが、ここで説得していては再び話の腰を折る事になる。



「蛮、お前の望みはわかったが、それは少し順番が違うんじゃないか?」



「あ? 順番?」



「そうだ。お前は俺に一度負けている。指名するなら、俺が先なんじゃないか? それとも、俺を負かす自信が無いのか?」



「…不意打ちで勝っておいて、言うじゃねぇか。じゃあ聞くが、お前はそのガキより強ぇのかよ?」



「いいや。恐らく実力で言えば、アンナはとっくに俺を超えているだろうな。でもだからこそ、先に俺を倒すべきなんじゃないのか? お前も負けたままより、その方がすっきりするだろう?」



俺も別にあの不意打ちで勝った気分になどなっていないが、あえて負けという言葉を強調する。

安い挑発だが、戦闘力に自信があるものほど、この手の言葉を流しにくくなるものだ。



「いい度胸だ…。だったらお望み通り、お前から先に殺ってやるよ…。その代わり、お前を殺ったら、俺は好きにやらせてもらうぞ?」



「ああ、俺を倒せたら、アンナと戦うなり逃げるなり好きにするといいさ。ただし、まずは話を聞いてからだ。今ここで戦えば目立つからな」



「おい待て! 先に俺が話したら、お前が条件を守る理由が無くなるだろうが!」



まあ、流石に気づくか。

しかし、だからと言って先に戦う選択は無いしな…



「…その通りだな。なので、こちらも譲歩をしよう」



そう言って、俺は構築していた結界や、レンリによる拘束を全て解除した。



「「「「「「なっ!?」」」」」」



この行動に、俺とヒナゲシを除いた全ての者が驚愕の声を上げる。

拘束をしていたレンリからも、抗議の意思が伝わってきた。



「さあ、こちらは誠意を見せたぞ? 蛮、これからの行動はお前次第だ」



一応音が漏れぬよう、アンネに構築してもらった気流の結界は健在だ。

多少大声を出された位であれば、誰かに気づかれることも無いだろう。



「…お前、正気かよ?」



蛮のセリフに、子供たちまでウンウンと首を縦に振っている。



「もちろん正気だ。蛮の望みは、俺やアンナと戦う事なんだろう? だったら、拘束を解いても逃げる筈がないよな?」



「そんな事、わかんねぇだろうが? お前がさっきそうしたように、こっちだって意見が変わるかもしれねぇぞ?」



「そうだろうな。だから、これはあくまでも誠意だよ。蛮の事を信じるというね。ただし、もし本当に逃げるなら全員で阻止するし、襲ってきても当然返り討ちにさせてもらうけどな?」



俺の言葉に、蛮は呆れを通り越して、まるで阿呆でも見るような目で俺を見ている。

中々に失礼な奴だな…



「お前…、仮にも敵を信じるはねぇだろ…。馬鹿なのか?」



さっき話術で翻弄されていた相手に対し馬鹿とか、そっちこそいい度胸じゃないか…



「しかし…、いや…、クックック…、そういうのも悪くねぇか…。乗ってやるよ! お前の馬鹿さ加減に免じてな!」





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