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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第193話 お前ら一体、何者なんだ



「ふぅ…、トーヤ様、粗方片付きました」



「あぁ、うん、そうだね」



やらせた俺が言うのもなんだが、彼女たちは宣言通り一刻程で魔獣の群れを殲滅してしまった。

もちろん全ての魔獣を処理したわけでは無く、彼女たちに恐れをなし、逃げ出した魔獣も三割程度はいたと思う。

しかし、それにしたって二百やそこらはいたワケで…



「…? どうしたんですか? トーヤ様」



無邪気そうに疑問をぶつけてくるアンネ。

俺はその反応に増々複雑な気分になるが、とりあえず「何でもない」と返しておいた。



「親父殿、戻りました」



「コルト、戻ったか。大丈夫だったか?」



コルトはアンナ達の殲滅作業に紛れ、先遣の任務を買って出てくれた。

危ないのではと思ったのだが、アンナ達の攻撃が始まってから、「ね、平気でしょう?」と言われ俺は思わず黙ってしまった。

結果としては問題無かったかもしれないが、今思うと俺もついて行くべきだったと思う。猛省だな…



「はい。アンナが道を切り開いてくれたので、全く問題ありませんでした」



「…そうか。それで、麓の様子はどうだった?」



「はい。ざっと見た所、特に何も無さそうでしたが…」



「が…?」



コルトが珍しく難しそうな顔をする。

何か気になる事があったのだろうか?



「…いえ、すみません。少し自信が無くて」



「…構わないから、試しに言ってみてくれ。一体何を見つけたんだ?」



コルトは少し悩んでから、控えめに口を開いた。









なんなんだ?

俺は何を見せられている?




――数刻前




俺はあの男に一撃で意識を刈り取られた後、気付けば木に縛り付けられていた。

手足の親指を弦のようなもので結ばれ、固定までされていた。

ここまでされると魔力なしの脱出は難しい。

しかし、その魔力もどういうわけか、上手く操作することが出来なかった。

内精法が駄目なら外精法はと思ったが、ご丁寧に周囲の精霊はしっかり契約済にされているようだ。


俺は早々に脱出を諦め、思考を切り替える。

俺が捕まっているという事は、恐らくこれはあの男の手による所業と言う事だ。

これだけの対策をやってのけると言う事は、やはり只者ではなかったと言う事なのだろう。



(…一体、アイツは何者なんだ?)



まず間違いなく、魔族ではない。

獣人にも見えないし、エルフや他の亜人でも無い気がする。

強いて言うならハーフエルフか?

血の濃さにもよるが、エルフ特有の耳の形が残らないケースもあった筈…

しかし、仮にハーフエルフだとして、やはりあんな場所にいた理由は想像できない。



(…っだぁぁぁぁーっ! わからん!)



自分で言うのもなんだが、俺は馬鹿ではない。

単純思考の兄達とは違い、落ち着いて物事を見極めることも出来る、と思っている。

実際、そんな所を親父には評価されていたのだが、兄達からのウケは悪かった。

しかし、そうは言っても俺は文官でも学者でも無いし、特別頭が良いわけでも無い。

冷静になることは出来ても、答えを導き出すことは出来ないのである。


ぐだぐだと色々考えを巡らせていると、あの男が洞窟から出てきた。

男は一人では無く、もう一人小柄な従者のような者を連れていた。

その者は黒い装束に身を包んでおり、残念ながら顔や種族までは確認できなかった。

華奢な体つきからして子供…、それも女か?

この男と行動を共にしていると言う事は、まず間違いなく仲間なのだろうが…


それにしても、一体どこに仲間が潜んでいたのだろうか?

この男は確かに、一人であの山を下りてきたはずだが…



「…目は覚めているようだな」



俺はその問いに、睨みつける事で応える。

男はそのまま俺の猿ぐつわを外そうとするが、もう一人がそれを制してくる。



「この者はそれなりに危険なようです。手を下す場合は私が行いますので、トーヤ様は何もしないで下さい」



この声…、やはり女か。

しかし、トーヤ様、ね。聞いたこと無い名前だ。

一体、どこのお偉いさんだ?



「では、私がやりますのでトーヤ様は動かないで下さい」



「え、あ、うん…」



なんだ? 主導権は女の方にあるのか? よくわからねぇな…

女はそのまま、俺の猿ぐつわを強引に外す。

いい度胸だと一瞬激昂しかけるが、一瞬覗いた赤い瞳に思わず言葉を飲み込む。



(赤い瞳…。一部の魔族には居やがるが…、まさか魔族ってことはねぇよな?)



増々状況がわからなくなってくる。

このトーヤと呼ばれた男は、間違いなく魔族ではない。しかし、その仲間は魔族?

って事は、こいつを手引きした奴が魔族にいるって事か?

魔族は確かに一枚岩では無いが、亜人領と繋がっている奴がいるとは思えない。

しかし、仮にそうだとしたら中々に面倒な事である。



(…いや、落ち着け。まだコイツが魔族だと決まったワケじゃねぇ…)



俺はもう一度冷静になり、疑問を投げかける。

しかし、俺の望んだ答えは返ってこず、いいようにはぐらかされてしまう。

結局俺は、この男に良いように翻弄され、要らないことまで喋らされてしまった。

こんな事であれば、舌戦などという似合わない真似をせず、無言で通すべきだったかもしれない。



(…いや、無理か。恐らくこの男は、他にもいくつか引き出しを持っているだろう)



この状況に陥った時点で、俺は詰んでいたのだ。

コイツと俺とでは話術のモノが違う。恐らくだが、コイツは本来文官なのかもしれない…

いや、でも待て。それじゃあ、俺は文官相手に負けたっていうのか…?


結局俺は、最後までこの文官もどきに翻弄され、何の情報も得ることが出来なかった。

覇気も無く、自分の部下? に頭が上がらないような奴に、俺は完全敗北したのである。

そして…









俺は結局、もう少し利用価値があるかもしれないと言う事で生かされることになった。

流石に解放するというのは冗談だろうが、一体どうする気なのか。

結局何も答えは出ず、俺はただ荷物のように持ち運ばれていた。

そして俺は、そこでとんでもない光景を見せられることになったのだ。



(馬鹿な…、なんだよアレは…。あのガキ共は…、一体なんなんだ?)



あの男は間違いなく実力者だった。

しかし、今はそれがかすむ程の光景を見せられている。


凄まじい速度で、一撃のもとに魔獣を葬ってく黒装束の少女。

そして、この闇の中で大量の矢を次々に当てていく、もう一人の黒装束。

この二人の殲滅速度は明らかに異常であった。

他の者達も戦ってはいたが、偶にこちらに向かってくる魔獣を処理するだけで、ほとんどはあの二人が処理してしまっている。



(あんな真似、将軍クラスでも出来るかわからねぇぞ…)



いや、それどころか俺にだって…


結局、あの二人の黒装束は、一刻程の時間で魔獣たちを殲滅してしまった。

魔龍荒野に点在する山々には、多くの魔獣が存在しており、軍隊でも殲滅が難しいと言われているというのに…


俺はその事実にただ茫然となり、会話の内容については全く耳に入ってこなかった。

そして、気付いた時には、再び移動が再開されたようであった。



「…親父殿、あれです」



「…確かに、少し違和感があるな。アンナ、わかるか?」



「いえ…、少し遠いですね。もう少し近づけばわかると思いますが」



「ふむ…、どうするかな…」



男たちは何やら発見したようであり、それが何かわからないでいるらしい。

俺も視界を塞がれているワケでは無いので、同じ方向を見てみると…



(あれは…、まさか…)



「ん? もしかして蛮は何か知っているのか?」



すると、トーヤと呼ばれた男が目ざとく俺の反応に気づいたらしい。

再び猿ぐつわが外される。



「知ってても、言うと思ってんのか?」



ていうか、いきない名前で呼ぶとかどういう神経してやがるんだ…

俺は味方でもなんでもねぇんだぞ?



「…なにやら、余り良い場所では無いようですね」



「っ!?」



なんだ!?

俺は何も言ってないぞ!?

一体何を!?



「…確かにそのようだな。しかも敵意のようなものも感じる。もしかして、蛮の敵対組織か何かか?」



…マジでこいつら、何者なんだよ!




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