第192話 アンナ達姉妹の成長
更新再会ですが、病み上がりの為短めです…
食事を終え、少しの休憩を挟んでから俺達は行軍を開始した。
夜間に山の中を移動するのはかなり無謀にも思えるが、森に慣れた俺達であれば特に苦も無く進むことが出来る。
魔獣や猛獣の類に襲われる心配もあったが、アンナや俺の感知網がある限り対処することは造作もないことであった。
そう、造作もないことの筈だったんだが…
「ふぅ…、これで10匹目っと。それにしても、見た事の無い魔獣もいますが、やっぱシシ豚や魔犬ってどこにでもいるんですね…」
ロニーがシシ豚の頭を軽々と割りながら言う。
俺が知っているロニーはこんな芸当出来なかった筈だが、凄まじい身体能力の向上っぷりだな…
「その技は、獣神流の?」
「あ、はい。シュウさんから教えてもらいました」
ロニーは獣人とのハーフと言う事もあり、子供たちの中では最も身体能力が優れている。
猿系統の獣人が親だったらしいが、その割には俊敏さや反射神経の良さは犬系統や猫系統にも匹敵するレベルだ。
恐らくは親も純粋な猿系統ではなかったのではないだろうか?
まあ、ロニーは略奪の被害者である為、確認する術は無いのだが…
「あの、すいません…。本当は闘仙流だけって思ってたんですけど、俺あんまり才能無かったから…」
「いや、気にしないでいいさ。元々闘仙流は護身用の武術だと思っているし、学ぶことを強制したわけでもないしね。ロニーは身体能力が優れているんだから、それを活かすのが最善だと思う」
獣神流は優れた身体能力があって初めて活きる流派だ。
それ故に、身体能力が無いものが扱っても大した戦闘力向上は望めないのである。
しかし、逆に言えば身体能力さえ伴っていれば、戦闘力は一気に膨れ上がる事になる。
はっきり言って、ロニーに関していえば闘仙流よりも獣神流の方が向いている可能性が高いのだ。
「ただ、俺は別にロニーに才能が無いなんて思わないぞ? …まあ、確かにかあの姉妹と一緒に学んでいると劣等感を感じるかもしれないが…」
「…はい。それにコルト達も結構凄いんですよね。セシアちゃんも間違いなく俺より才能あるし…」
成程な…
多感な時期に圧倒的な才能を見てしまうと、自分が矮小な存在に思えてしまう事は良くあることだ。
俺だって、既に諦めはついているが、アンナ達の才能を実感したときは相当に凹んだものである。
「ロニー、余り気にはするな。ロニーには他の皆には無い才能があるんだし、自分を卑下する必要は一切無いんだぞ?」
「ありがとうございます…、親父殿…。でも、あれを見ちゃうと、やっぱ焦りますよ…」
ロニーが見る先、そこには凄まじい勢いで魔獣の群れを屠るアンナ達姉妹の姿があった。
姉は流れるような動きで魔獣に一切触れさせず、一撃のもとに魔獣の命を刈り取っていく。
妹は樹上から弓で次々と魔獣を仕留めていた。
「…気持ちはわかる。でも、あれが異常な事くらい、ロニーも理解しているんだろ?」
「それはまあ…。他の大人たちも引いてましたからね…」
だろうな。俺もドン引きしているし。
なんであんな事になっているんだよ本当…
こんなことになった発端は、俺とアンナが魔獣の群れを感知した事であった。
当然、俺はそれを迂回ずることを提案したのだが、問題はその群れが結構な規模だったことだ。
魔獣たちに気取られずそれを避けるには、大きく迂回する必要があり、大幅なタイムロスになってしまう。
しかし、百を超える魔獣の群れを相手にするのは、それ以上に骨が折れる事である。
俺は仕方なく、皆に迂回ルートを通るよう指示を出そうとした。
その時、アンナ達姉妹がとんでもないことを提案してきたのである。
つっきりましょう、と。
「トーヤ様、粗方片付きました。あとは進みながら排除していけば問題ないでしょう」
「あ、うん。そうだね」
とんでもない事を提案してきた姉妹は、そのとんでもない事を何でもない事のように達成してしまった。
彼女たちが嘘を言うとは思えなかったが、実際に目にするとドン引きするなと言う方が無理であった。
「…アンネ、本当に凄くなったな」
「あ、ありがとうございます! これもトーヤ様の教えのお陰です!」
いや、俺こんなこと教えてないし…
確かに、アンネに弓の使用を勧めたのは俺だ。
特に深い理由はなく、強いて言うなら空気の流れを読むのに長けたアンネなら、弓が向いているんじゃないか?
くらいの提案だったのである。あと、やっぱりエルフだし。
しかしそれが、こんな大量殲滅兵器になろうとは、誰が予想できるだろうか?
姉は姉で想定通りスケールアップしているし…
本当、この姉妹…、この見た目でなんでこんな戦闘センスを持って生まれてきてしまったのだろうか…