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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第188話 家族との再会



「矢だ! 盾を上にかまえ…」



見張りの男が仲間に声をかけようとするが、間に合うはずも無く矢の雨は降り注ぐ。

反応の良い何人かは、状況を瞬時に察知し矢を防ぐことが出来たようだが、半数以上の者は無防備に矢の雨を受けてしまう。



「クソッ…、一体、どこから…!?」



時間にすればほんの一瞬の事だが、その一瞬で百近い矢が降り注いだ。

それだけでも驚異的な事だが、彼らに安堵する暇はない。



「止んだ…、ガァァッ!?」



上に構えた盾をずらし上空を見た男は、次の瞬間に体をくの字に折り畳み、倒れ伏す。

あれだけの無防備を晒したのだから、当然の結果ではある。

しかしあの状況では、矢と同時に降り立った三つの影に気づかないのも無理は無いだろう。

油断し、隙を晒した相手を責めるより、その隙を作り出したあいつらを褒めるべきか。



(とう)! 何が起きて……っ!?」



見張りの男は、混乱しきった様子で辺りを見回している。

足を止めてくるくる回っている様子は何とも間抜けであったが、それに対しては嘲笑よりむしろ同情の念がこみ上げてくる。



(あの男は本当にただの兵士なんだろうな…。先程の蛮という男なら、もう少しまともに立ち回っただろうに)



そんな事を考えていると、回っている男と、ふと目が合ってしまった。



「う、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!?」



次々に倒れていく仲間を見て、男は錯乱したのかもしれない。

まるで玉砕覚悟とでも言うような表情で、俺に突撃を仕掛けてきた。

しかし、それは本当に愚策である。

そして、愚策以前の問題で、相手が悪かった。



「トーヤ様に攻撃を仕掛けようなどと、万死に値します」



「殺すな! アンナ!」



降り立ったその時から、風のように駆け回っていた黒装束は、その時初めて足を止め、こちらに振り返る。

一見に無謀に見えるその行動を、もう一つの黒装束が初めからわかっていたかのようにフォローする。

黒装束は突撃してくる男の武器を受け止め、足を払ってそのまま腕を拘束してしまう。



「グッ…、貴様らは、一体…」



「喋るな。次に口を開けば腕をへし折る」



黒装束を纏った少年の鋭い警告に、見張りの男は怯えるように口をつぐんだ。

少年の言葉がはったりでない事を理解したのだろう。

それにしても、どこでそんな脅し方を覚えたのだろうか…

まさか、俺がいない間に…? いや、それとも俺と出会う前か…?



「トーヤ、様…」



息子の成長の仕方に少し不安を覚えていると、もう一人の娘がこちらを見ながら大号泣をしていた。



「ア、アンナ…? なんでそんな、泣いて…?」



「トーヤ様の、馬鹿ぁぁぁぁっ!!!」



次の瞬間、俺は槍のような鋭いタックルを食らい、吹っ飛んでいた。









その後、俺達は周囲を警戒しながら移動し、人気のない場所を探した。

幸いここは山岳地帯らしく、人気のない山くらいはすぐに見つかり、今はそこを拠点に状況の確認を行っている。



「トーヤ様…、トーヤ様…、トーヤ様…!」



のだが、アンナはそれに参加しようとせず、俺の腹にしがみついてずっと顔をこすりつけていた。



「…アンナ、本当に悪かったと思っているし、何度も謝ったじゃないか。そろそろ離れて欲しいんだが…」



「…嫌です。離れたら、また私を置いていくのでしょう?」



「いや、行かないよ…」



「信じられません」



信じられないと言われてもなぁ…

まあ信用が無い事は重々承知しているけど、アンナには俺が嘘をついていない事くらいわかっている筈。

それなのに、もうかれこれ数刻以上はこんな状態なのであった。



「トーヤ様、すいませんが、姉さんの好きにさせてあげてください…。遠征に出られた時も大変でしたが、今回のはもう本当に酷くて…。私たちが引き剥がそうにも、噛みついてくるんですよ…」



…アンナは食事中の犬か何かなのだろうか?



「…まあ、俺が悪かったのは事実だからな。ちょっと緊迫感が無いが、このまま続けようか」



「「「はい」」」





今この場に居るのは、俺を除くと五人と一匹。

俺の息子達であるアンナ、アンネ、コルト、ロニーとヒナゲシ、そして翡翠である。

彼らは、俺が山を出たのとほぼ同時に、こちらに向かって飛んできたらしい。

確かに『縁』によりお互いのいる方向くらいなら把握できるのだが、それにしても無茶な話である。



「まず、状況の確認からだ。お前達は、何故ここに来た」



「それは、親父殿を助けるためです」



「助けるって…、俺の状況を知っていたのか?」



「それはアンナが…」



何でも、アンナは度々俺の状況を感じ取っていたらしい。

この二年間で何度も、俺を助けに行くと暴れることがあったそうだ。

トーヤ様が危険です、助けに行きます、などと叫びながら、まるで癇癪でも起こしたかのうように暴れるのだとか…



「丁度昨日も一暴れありまして、またいつもの発作かと思っていたんですが、その後冷静になってから、真剣に相談されまして…」



昨日、というと俺が師匠に半殺しにされた件だろうな…

となると、この二年間で何度もというのは、要するに俺が師匠に半殺しにされた回数に等しいのかもしれない。

アンナは元々感受性の強い子だったが、まさかそこまで察せられているとは…。少し恥ずかしいな…



「…事情はわかった。俺が山を出たのも、アンナ経由で伝わったわけだ。…しかし何故、子供達だけで?」



疑問があったのはそこだ。

助けられたのに、素直に喜べない自分がいるのも、そこに原因があるだろう。

何故、よりにもよって子供達だけで?

ライやスイセン、他の『縁』を結んだ何人かも、アンナ程では無いにしても多少は状況を把握している筈。

彼らが子供達だけで行かせることを許可するとは、到底思えない。

それどころか、イオ辺りは自分も行くと言い出しそうな気がする…



「トーヤ様、それは違います。子供達は、ちゃんと置いてきました」



「アンネ…?」



「エステルも、ハロルドもマリクも、ヘンリク、イーナ、セシア、それに他の子供達も、みんな、トーヤ様を助けに行きたいという思いは一緒でした。ですが、トーヤ様が子供を大事にしている事は、みんな良く知っています。だからトーヤ様を困らせないようにと、説得しました。ちょっと卑怯な言い方でしたが…」



アンネの気づかいは嬉しいし、ありがたいと思う。

しかし、それなら自分達だって…



「親父殿、親父殿が森を離れて、もう二年の時が過ぎたんですよ」



「それは済まないと…、ん? 二年…?」



そういえば、その数字は確か…



「はい。俺達は14になりました。獣人もエルフも、14を過ぎれば大人として扱われます。俺達は…、もう大人なんですよ」



…そうか。

確かに、当時アンナ達姉妹とコルトは12だったハズだ。

ロニーは11だったか気がするが、正確な誕生月を知っているワケでは無いので、誤差の範囲だろう。

みんな、俺がいない間に大人になったってことか…



「…約束です。トーヤ様、私を、お嫁さんにしてください」



潤んだ瞳で俺を見上げてくるアンナ。

ああ、そういえばそんな事を言われていた気がする…

とりあえず先送りにしただけだったので、完全に忘れていたが…



(うっ…、これは…)



アンナの目を見つめ返すと、思わずドキリとしてしまった。

確かに、この二年で少し大人びた雰囲気を帯びた気がする。

元々美しかった容姿は、より美しくなったように思うし、顔だちも少し幼さが取れたように思える。

そして、そこはかとなく色気も…

ただ…、しかし…



「…駄目だ。今のアンナを見ても、駄々っ子というか…、子供にしか見えない」



「っ!?」



次の瞬間、俺は再びタックルで床に押し倒される。

ああ、今日は良く転がされるなぁ…



「…大人な所を、見せてあげます」



いきなり服を脱ごうとするアンナを、アンネ達が慌てて止めに入る。

随分と久しぶりに感じるこの雰囲気に、俺は自然と笑いをこぼしていた。





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