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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第5章 魔族侵攻
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第177話 暗闇での目覚め

雪でちょっとアップが遅れました…



目を開くと、そこは真っ暗闇だった。

少しの光も無い、完全なる闇。

右を向いても左を向いても輪郭すら見えないため、何の情報も得られない。

唯一わかるとすれば、自分が何か柔らかな感触のモノに寝かされていることと、これまた暖かく柔らかなナニかに抱きつかれているということだ。



「ここは一体どこなんだ…? そして、アンタは…、ファルナ、であっているか?」



俺の問いかけに、抱きついていた女、恐らくファルナがピクリと反応する。



「…驚かないのですね? それに、よく私がファルナだとわかりましたね?」



「驚いてはいるよ。ただ、俺が最後に見たのはアンタだったからな。なんとなくそう思っただけだ」



まあ、以前の俺だったら流石に動揺していたと思うがな…

魔界で目覚めてから、何故か寝起きの度に色々あるせいで、こういったことには慣れてしまったのである。



「それにしても落ち着いていますね…。こうして肌と肌を重ね合わすのも、もう慣れてしまっているのですか…?」



…肌と、肌か。

………肌と肌!?



慌てて立ち上がり距離を取ろうとする。

しかし、完全な闇の中では掴むとこもわからず、そのまま尻もちをついてしまった。



「あら? もしかして、気づいていなかったのですか? 私が裸だということに…、ふふっ」



はっきり言って気づかなかった。

肌で感じたあの手触りや感触は、まるで上質の絹のようであり、とても人の肌だとは思えなかったのだ。



「その反応を見る限り、やはり女性に手は出していないようですね…。博士の読み通りです。しかし、よりどりみどりでしょうに、結構お堅いのですか?」



女、ファルナらしき人物は楽しげに語りかけてくる。

俺は努めて冷静さを保とうとするが、先程手に触れた感触のせいで中々落ちつくことができない。

このままでは良いようにペースを握られ、主導権を握られてしまう。



「博士、ね。結局の所、俺がいたあの状況も、全てアンタ達の仕込み通りだったんじゃないのか?」



頭のなかで断片的な情報をかき集め、とりあえずの反撃を試みる。



「あら、それは違いますよ。我々はあくまで貴方をあの地に解き放っただけです。そこから先のことは全て、あなた自身が選び、行動した結果によるものですから」



情報を引き出すことに成功…、いや、違うな。

ファルナは最初から隠す気が無いように思う。隠す気のある者が、わざわざ「博士」などという単語を出すとも思えない。

俺は一度大きく息を吸い込み、吐き出す。


…よし、決めた。



「…アンタは、いや、アンタ達は、一体俺のなんなんだ?」



隠す気がないのであれば駆け引きは無駄だろう。

俺は単刀直入に尋ねることにした。



「…駆け引きはもう宜しいのですか?」



「ああ。どうせ全部話す気なんだろ? なんとなく気配でわかるよ」



「あら? 魔力は漏れていない筈ですけど…」



「魔力は関係ない。本当になんとなく、ただ雰囲気でそう思っただけだ」



ファルナの言う通り、彼女からは相変わらず魔力を感じられない。

だから、俺が言った台詞は半分以上本当のことである。

残り半分は、まあカマをかけたようなものだ。



「ふふ、いいでしょう。私も存分に堪能しましたし、そろそろ博士の所に案内しましょうか」



堪能…!?

え、待って、俺、何されちゃったの!?

ま、まさか…?



「ふふ…、別に貞操を奪ったわけではありませんよ? ただ、若いお肌を味見させてもらっただけです♪」



いやいや、それでも十分気になるんですが!

味見ってなんだ…? 言葉通りの意味なのか…?



「さて、まずは明かりを付けましょうか」



ファルナが身を離し、スタスタと床を歩いて行く。

どうやら彼女は、この暗闇の中でも問題なく行動することが可能らしい。

どういうカラクリかは不明だが、それならまずやってもらう事がある。



「待ってくれ」



「ん? どうしました?」



「…明かりを付ける前に、服を着てくれ」









ファルナの案内に従い、俺は彼女の後ろから付いていく。

見た目は殺風景な洞窟のようだが、所々に科学的な仕組みが施されていることがわかる。

この洞窟のような見た目は、偽装と思った方が良さそうだな。



「博士のいる研究棟は、ここから少し離れた所にあります。そこに着くまで、何か質問がありましたら答えますよ?」



隠す気が無いどころか、あちらから質問をどうぞと来たもんだ。

まあ、こちらの望む所ではあるので、遠慮せず聞かせてもらおう。



「じゃあ、遠慮なく。…翡翠や、タイガ達はどうなったんだ?」



努めて平静を装って俺は尋ねる。

翡翠の痛ましい姿を思い出すと激情に駆られそうになるが、ここでその怒りをぶつけるのは極めて愚かだ。

そんなことをしても状況は好転しないし、むしろ弱みに付け込まれかねない。



「ふふ…、自分の謎に迫ることが出来るこの状況でも、まずは仲間達のこと、ですか?」



「…元々、自分のことになんか余り興味は無かったんだ。今はここでの生活が俺の全てだからな」



事実、俺はこれまで、あまり自分のことには余り興味を示さなかった。

俺は本当に人族なのか? だとか何故こんな力が? といった疑問はあったが、必死に知ろうとしていたわけでもない。

今の俺にとって最も気がかりなのは翡翠の安否、次いでタイガ達の安否である。



「まあ、トーヤさんの動向はこちらでもチェックしていましたし、そんな気はしていましたけど」



そんなことは良いから早く答えろ、と口から出そうになるのをグッと堪える。

はやる気持ちを悟らせてはならない。



「翡翠さんは無事ですよ。現在は治療も追えて安静にしています。タイガさん達は恐らく大丈夫でしょう。直接触れはしませんでしたし」



無事…か。

面には出さず、心の(うち)でそっと息をつく。

タイガ達も、どうやら命を取られたわけではないようだ。

心配は心配だが、彼らの生命力であれば生きてさえいれば問題はないだろう。



「安心しましたか? 後ほど、翡翠さんとはちゃんと会わせてあげますよ」



この女からそう言われると若干不安な気持ちになるが、今は額面通りに受け取っておこう。



「他には? 私に答えられることであれば、いくらでも答えますよ?」



「いや、今はいい。道順を覚えるので必死なんだ」



俺がそう言うと、ファルナは一瞬キョトンとしたが、面白そうに笑って歩みを再開した。


ファルナは「私に答えられることであれば」と前置きした。

つまりは、答えられないこともある、ということだ。


であれば、あえてここで質問する意味はあまり無いだろう。

確信に迫る内容は、「博士」とやらに聞けば良いのだから。





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