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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第175話 魔王

魔族侵略編、開始です。



「カァーッ! 久しぶりに上手ぇ酒だぜ!」



大がめから直接酒をあおり、盛大にゲップをする。

これをやるとタイガやソウガに文句を言われるのだが、今日は二人共居ないため、憚れること無く好きに酒を飲める。



「相変わらず良い飲みっぷりね、王様は」



そう言って自分も瓢箪から直接酒をあおるフソウ。



「ソッチも今日は良い飲みっぷりじゃねぇか、フソウ」



「だって、不完全燃焼なんだもの…。仕方ないじゃない…」



瓢箪の蓋を指でいじりながら、不服そうな顔を作るフソウ。

しかし、この表情は半分以上偽りだ。

現に、コイツの尻尾は嬉しそうに揺れているからな。



「くっく…、ありゃお前が悪い。戦場のお前だったら、最後のだって躱して筈だろうが?」



「そうなんだけどね…。でも、あの技は見てたから、しっかり防げると思ったのよ。というか、防いだのを見せつけたかったの! どう? 私にはそれは通用しないわよ! ってね!」



悔しそうに俺に八つ当たりしてくる姿はとても王妃などには見えないが、これはこれで愛い奴だと感じる。

見た目こそ成長したが、こういう所はチンチクリンだった頃と何も変わっていない。

ま、コイツが変わるところなんて想像できねぇけどな…



「はっ! その割には嬉しそうじゃねぇか?」



「嬉しいに決まってるでしょう? なんだかんだウチの国って大人しい娘多いし、私とリンカちゃんが特別! みたいな目で見られていたんだからぁ…。有望な女の子は大歓迎よ!」



そう言って再びグビグビと酒をあおるフソウ。

嬉しいんだか悔しいんだかはっきりしない態度だが、恐らくどっちも同じくらいの度合いなのだろう。



「ま、そうだな。男も女も、強いやつは大歓迎だ。タイガの奴も最近伸び悩んでたみたいだし、良い刺激になったろうよ」



「男はいいのよ! どうせ好き勝手に強くなろうとするんだから! でも、女は放っておくとすぐ保守的に立ち回るから悩んでるのよ! 全く、本当に近頃の娘達ったら…」



まあ、フソウの言うことにも一理ある。

この国に限らず、魔界は基本的に弱肉強食である。

その中で、やはり女はどうしても搾取される側、弱者の立場に収まりがちだ。

俺もそれは危うい事だと思っているが、如何せん女共はほとんどの場合保守的だし、争いを嫌う。

この国の軍人には優秀な女が多いが、それでも上を目指そうとするものはほとんど居ない。

最低限自分の身を守れるだとか、生き抜く為だとかしか考えていない者ばかりだ。

それが悪いとは言い切れないが、今のこの魔界においては決して良い事とは言えない。

その辺の事をしっかり分かってるのは、フソウを含むごく僅かな者だけだろう。



「別に結果的に強くなれないのは仕方ない事だけど、最初から諦めてる娘が多すぎよ…。戦えなくてもいいから、せめて自分で何かしようって思ってくれればいいんだけど…」



この国の女は、良くも悪くも平和に慣れすぎた。

国を一歩出れば、そこには地獄が待っているという事を忘れているのである。

はっきり言って、今の平和は幻想に過ぎない。

魔族や不死族は活動を活発化しているし、蟲族の奴らも何を考えているかわからない。

いつ他の領地から敵が攻めてきても、おかしくない状態なのだ。

そしてそうなった場合、真っ先に食い物にされるのは弱者である女達である。

男がいつでも守れるのであればいい。しかし、実際は全てを守りきるなど到底不可能だ。

何せこの亜人領も含め、魔界のほとんどの種族は、研ぎ澄ませば男も女も戦力的には左程変わらないのである。

だと言うのに、今のウチの女達は守られることに慣れすぎ、研ぎ澄ますことを止めてしまっている。

これでは、男も女も攻めてくるであろう他の領地の連中とやりあうには、絶対的に数が足りるわけがない。

当然、種族的絶対数の差は存在するだろうが、亜人領の総人口が他の領地の人口を上回ることはほぼあり得ないだろう。

つまり、現状攻め入られれば、結果は目に見えているのだ。



「まあ、可能な限りは俺が守ってやるがな! …しかし、そういう意味じゃ、レイフの森の連中は粒ぞろいだよなぁ。特に、あのオークの娘とダークエルフの娘は大したもんだぞ?」



「そうなのよ! セシアちゃんもエステルちゃんも本当に有望! スイセンちゃんや他の娘達も優秀だし…、ああっ! もうなんでウチにはあんな女達が少ないのかしら!」



目を輝かせて喜んだと思ったら、またしても機嫌を損ねるフソウ。

見ていて飽きない奴だ。



「何笑ってるの!? 王様!?」



そう言ってフソウは俺の事を強引に押し倒しにかかる。

フソウの腕力では俺を押し倒すことなど不可能だが、俺は逆らわずに押し倒される。



「ねぇ、キバお兄ちゃん? 私、今日は本当に不完全燃焼なの? 今夜は私に滅茶苦茶にされるの、覚悟したほうがいいよ?」



「はっは! そう言って、いつも滅茶苦茶にされるのはお前の方だろ? ガキンチョ」



「いつまでもガキだと思ったら大まちが…」



!?



今日もいじめてやるかとフソウに手を伸ばしかけた瞬間、強烈な気配が城全体に広がるのを感じる。

俺は伸ばしかけていた手でそのままフソウを弾き飛ばし、即座に部屋を飛び出す。



「キバお兄ちゃん!?」



後ろでフソウに呼びかけられるが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

離れていても確かに感じる存在感、久しく感じるその気配、ソレ(・・)と最後にやりあったのは数百年以上も前の事である。

しかし、それでも決して忘れ得ないこの気配は紛れもなく…



(なんでこの亜人領で、俺以外の魔王の気配がしやがるんだ!?)









気配を感じたのは、間違いなくこの地下であるはずだ。

見張りは重傷だったし、何かが侵入したのは間違いないだろう。

しかし、先程までの気配は既になく、今はただ咽るほどの酒の匂いと砂埃が舞うのみである。


ゆっくりと歩みを進める。

あの激しい魔力量の割に、損壊は大したことがなかった。

恐らくは手加減したのであろう。もし魔王が本気を出したのであれば、今頃この城は崩れていてもおかしくない。



「っ!?」



その時、視界の隅に何かが動くのを捉える。

俺の目は、例え暗闇の中でも対象を正確に捉えることが出来る。

動いた先を見据えると、そこには…



「お、親父…」



「タイガか!?」



目に写ったタイガの状態を確認し、急いで駆け寄る。

命に別状は無いようだが、酷い傷を負っていた。



「一体、何があった!?」



ゴホッと血混じりの咳をし、タイガがそのまま膝をつく。

俺が知る限り、タイガがこんな姿を見せたのは、俺やフソウと戦った時しか無い。



「すまん、親父…。トーヤ殿が…、さらわれ、た…」



タイガはそう告げると、そのまま意識を失った。





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