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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第174話 真夜中の邂逅、そして…



コンコン



皆が引き上げ、夜も更けた頃、部屋をノックする音で目が覚める。

同時に感知を行った所、どうやら獣人の男が部屋を尋ねてきたらしい。



「何用でしょうか?」



俺が反応すると、男は部屋の外でビシっと手足を整える。



「夜分遅くに失礼します! タイガ様より言伝を預かってまいりました!」



誰も見ていないというのに、わざわざ格好を正すとは律儀な者である。

悪意も感じられないし、言伝というのも本当のことだろう。



「ありがとうございます。それで、タイガ殿はなんと?」



「ハッ! 内容は、今から地下の酒造に来て欲しい、との事です!」



…酒造? なんでまた?



「…わかりました。他には?」



「いえ、それ以外は何も!」



「そうですか…。ありがとうございました」



「勿体なきお言葉! それでは、私はこれにて失礼いたします!」



そう言って兵士の男は速やかに去っていく。

なにか、もの凄く恐縮されていたけど…

いや、国のナンバー2相手であれば、それが普通なのか?

ともかく、俺はその言伝に従い、酒造へ向かうことにした。





――――荒神城、地下酒造





「これは…」



地下酒造があることは聞いていたが、実際に入るのはこれが初めてである。

まず、第一印象だが…、いや、第一印象もクソもない。ここはただの酒場であった。



「おお! トーヤ殿! 来られたか!」



そう言ってタイガが肩を抱くようにして俺を席に招く。

出来上がっている、という程では無いが既に随分と酒が入っているらしい。



「良く来てくれた! 全く、月光もソウガも、無口でつまらんのだ!」



招かれた先には、ソウガと月光、それにシュウがいた。

シュウについては既に酔いつぶれたのか、イビキを立てて完全に寝入ってしまっている。



「ソウガ殿、ここは一体?」



「酒造ですよ。ただ、我々の酒場も兼ねていますが」



…いいのだろうか?

まあ、この国のトップ2が許容しているのだから、悪いなんて事はないだろうが…



「ここは親父にも秘密の場所なんだ。親父に知られると、一日で飲み干されないからな」



キバ様にも秘密なのか…

まあ、確かにあの方ならすぐに飲み干してしまいそうだが。



「成る程。…ああ、そうだタイガ殿、私は意識を失っていたので見届けておりませんが、優勝なされたようで、おめでとうございます」


「おう! ありがとうな! 色々と不備や不満はあったが、やはり優勝できたことは素直に嬉しいぞ! それもこれも、トーヤ殿のお陰だがな!」



そう言ってバシバシと背中を叩くタイガ。

本気で痛いので勘弁して欲しい。

しかし、こういった所はキバ様そっくりだな…



「ははは…、いや自分は何も…、ん? 本当に何もしてませんよ?」



謙虚に否定しようと思ったのだが、よくよく考えると本当に何もしていなかった。

なんで俺のお陰なんだ?



「何もしてない!? フソウ様を退かせ、月光殿に手傷を追わせておきながら何もしてないは無いだろう!」



「え…? いや、だってフソウ様に勝ったのはスイセンだし、それに…、手傷?」



何の事かと、思わず月光を見てしまう。

月光はあちこち傷を作っていたが、そのどれもが俺の与えたものではなかった。

もしかして、ゾノが…?



「ふ…、やはりトーヤ殿も気付いていなかったか」



そう言って月光は、和服のような上着をずらし、肩から脇腹をさらけ出す。

一体何をと思ったが、さらけ出された脇腹に黒々とした大きな痣が出来ていることに気づく。



「トーヤ殿が最後に放ったあの技、あれはしっかりと私に致命傷を与えていたのですよ」



っ!?

これには正直驚いた。

俺の攻撃は月光に全て防がれ、届くことは無かった。

しかし、最後の最後、一か八かの捨て身の一撃…

未完成の奥義は、どうやら月光に対しダメージを与えることに成功していたらしい。



「…不思議な技です。外傷が無いのにも関わらず、内蔵を壊す。こんな技は初めて受けました」



「私もこの傷を見た時驚きました。これは<破震>や、スイセンの使った技とは別物、ですよね?」



「…まあ、そうですね」



ソウガが興味津々といった様子で伺ってくる。

確かに、あの技は魔力を操作すること自体は共通しているが、完全に別物の技術を使用している。

防御不能、という点も共通しているが、他の技とは違い始動を誤魔化すことが出来る点で長けた技だ。

それ故に色々と仕込みが必要であり、他の技以上に仕組みを知られると弱みが出やすい。

ソウガには悪いが、あの技については解説してやるつもりはなかった。

そもそも、まだ未完成の技だしな…



「まあまあソウガ殿、興味深いのは確かですが、他流派の奥義について詮索するのは止めたほうが宜しいかと」



「…失礼。悪い癖がでました」



「はは、懐かしいですね。ソウガ殿は以前も練兵中の家臣に根掘り葉掘り尋ねて煙たがれていましたっけ」



「お恥ずかしい限りです。あの頃の私は今以上に余裕がありませんでしたからね…」



恥ずかしさを誤魔化すように酒を煽るソウガ。

中々に珍しいものを見た気がする。

今でこそ大分落ち着いて見えるソウガだが、月光の言うように余裕がない頃もあったのだろうか。

少し見てみたい気がする。



「おっと、トーヤ殿はソウガ殿の昔話に興味があるようですね?」



相変わらずこちらの考えを先読みしてくる月光。

いや、今のは俺がわかり易すぎたか。



「トーヤ殿、過去の詮索も止めたほうが宜しいですよ? 皆、隠したい過去はあるものですから。私も含めて、ね」



「ハッハッ! 月光なんて今でこそこんな落ち着いているが、数十年前はただの悪ガキだったからな! 俺と同じで!」



「…全く、言った先から貴方という人は」



そんな他愛無い話をしていると、いつしか緊張も和らぎ、自然に笑みが溢れていた。

仲間内での飲み会のようで、こういうのも悪くないな…



「それよりトーヤ殿、あの技についてはこれ以上詮索しませんが、トーヤ殿には正式に闘仙流について教示して頂こうと思っているのですよ」



と、ソウガが急に話題を切り替える。



「お、他流派への乗り換えか? ソウガ」



「まあ、完全にそうなるかは不明ですが、恐らくはそうなるかと。獣神流は私にはあまり合いませんでしたしね」



「お前は基本我流だったしなぁ。いいんじゃねぇか?」



酔っているのか、普段以上に饒舌なタイガ。畏まっていない分かなりラフなイメージがある。

恐らくはこれが本来のタイガなのだろうが、見れば見るほどキバ様に似ている気がする。

分別できる分、キバ様より大分大人だがな…



「ソウガ殿は闘仙流に興味が?」



「ええ、アンナさんを指導していた頃から既に、少し興味を持っていたのですがね…。今日のトーヤ殿の戦いを見て確信しました。この流派は私向けだと」



ああ、そう言えばソウガは、俺が戦場に出ている間にアンナを指導してくれていたと言っていたな。

確かに、ここ最近のアンナは、隠形により磨きがかかり、技の切れ味も増していた。

戦場で少なからず成長した俺以上に、アンナは成長していたのである。



「その節はどうもありがとうございます。アンナの面倒も見てくれていたようで…」



「いえ、彼女の指導をしたのは、あくまで私の興味からです。それ程に彼女の才能は凄まじかった」



「ほぅ…、ソウガ殿がそこまで入れ込むほどの才能、ですか」



月光が興味深そうに、タイガも目を輝かせながらソウガの話に耳を傾ける。

俺としてはアンナの存在は出来る限り隠しておきたかったが、アンナが褒められる事自体は中々に嬉しいことだ。

娘を褒められる親の心境、というやつだろうか?



「彼女には私の隠形の技術をほとんど盗まれてしまいました。あれでまだ12というのだから末恐ろしい」



「そんな隠し玉を…、なぁトーヤ殿…? 本当に国家転覆とか、狙っていないよな?」



ブッと思わず口に含んでいた酒を吹き出してしまう。



「そ、そんなワケないでじゃないですか!?」



全く、勘弁して欲しい。

そんな事で目をつけられたら、堪ったものではない。



「私もそう思いたいのですがねぇ…。ただ先程、衛生部隊のカンナから転属願いを受けまして、移籍先はレイフだそうで」



カンナさん!?

なんでこのタイミングで!?



「引き抜き、なんて事はないですよねぇ?」



「断じて違います! というかソウガ殿、わかってて聞いているでしょう!?」



「ふ…、まあ、そうですね。トーヤ殿はお人好しなようですし、あまりそのような心配はしていませんよ。それに今回の話は、まともな衛生部隊のいないレイフには丁度良いかもしれない、と思っていました。優秀な彼女を手放すのは少々痛いですがね」



確かに、彼女の優秀さはこの目で見て知っているし、信頼もできるとは思う。

妾発言は流石に冗談だと思いたいが、ウチに転属を希望しての発言だったのなら、まあ納得できる気もする。



「…こちらとしては有り難い話だけど、良いのか?」



「ええ、構いません。先程正式に受理しましたので、彼女は本日付でレイフの所属という事になります」



「そう、ですか…」



カンナさんが来るのか…

カンナさんはスイセンとも仲が良いみたいだし、身の回りの整理などはスイセンにお願いしようかな。



「所で話は戻りますが、闘仙流への入門の件宜しいでしょうか? まだまだ発展途上の流派だと思いますし、門下を受け入れているかはわかりませんが…」



すこし考える。

いや考えるフリをする。

正直な所、ソウガの入門には大賛成である。

ソウガ程の高名な者が入門したとなれば、闘仙流の知名度は一気に広がるだろう。

しかもソウガは、既に一流の戦士でもある。彼ほどの戦士が闘仙流を扱うとなれば、これほど効果的な看板は無いと言える。

大手を振るって歓迎したい所だが、出来れば渋る事でももう少し条件を引き出したい。



「俺としては歓迎したい所だけど、何分作りたての流派な上、まだ指導出来るものも少ないからな…。しかも、ソウガ殿を指導するのはスイセン達じゃ立場的に厳しいように思えるし…」



本音も交え、躊躇いを演出する。

しかし、俺の腹芸は残念ながら全てお見通しだったらしい。



「トーヤ殿の言わんとすることは理解できます。私も忙しい身ですので、表立って指導をお願いすることは控えるつもりです。それに、私だけ一方的に得をするような事にもしないつもりです。私の技術や技、それも惜しむこと無く開示するつもりです」



ソウガは俺がこれから少しずつ引き出そうと思っていた条件を、俺の想定を上回る形で提示してきた。

どうやら、既に俺の考えは予測されていたようだ。



「…非常に魅力的な提案だけど、少し譲歩しすぎじゃないか?」



「私にとっても重要な事ですので。…トーヤ殿がイオさんに使ったあの技、隠形の技術を取り入れれば完成度が増す、そう思いませんか?」



それは俺も考えていたことだ。

あの技は、隠形を駆使することで更に磨きがかかる。

実のところ、こっそりアンナに教えを請うてでも完成させたいと思っていたくらいだ。

こっそり、というのがポイントで、実はここに後ろめたさがあったのだが…



「もっとも、隠形の技術に関してはアンナさんにほとんど盗まれてしまいましたからね。ここに関してはこちらから技術提供する意味も余り無いかもしれませんが…」



それも折込済であったらしい。

こう言われては、一方的にこちらが得をしているような状態になってしまう。

技術については既に提供済である為、こちらからは差し出すものが少なく申し訳ない。

言葉をそのまま受け取ればそういう事だが、こちらに後ろめたさを感じさせる上手い言い回しだ。

俺とは場数が違うのだろう。俺は既にマウントを取られていたらしい。



「…お手上げだ。俺に断る理由なんか無いよ。その代わり、技術指導に関してはしっかりお願いするぞ? あと、こっちの指導は基本的にスイセンになると思うけど、立場とか関係なく受け入れてくれよ?」



「それはもちろん。しかし、あっさりと開き直りましたね?」



ソウガが楽しげに言う。



「当たり前だろ? 俺みたいな若造じゃ、ソウガ殿と腹芸でやりあっても敵う筈がないじゃないか」



冷静に考えてみれば解ることなのに、自分から腹芸をしかけるのは正直無謀であった。

俺も酔いが回っているのかもしれないな…



「そうでもありませんよ。少なくとも、あの状況で利益を得ようと考える者は中々いません。トーヤ殿は商才もお有りのうようだ」



「多才だなぁ、トーヤ殿…。羨ましいぞ!」



だから背中が痛いって!

俺は正直、タイガの強さやカリスマ性の方が羨ましいよ!


そんな重要だったり下らない事だったりを酒の肴にしながら、さらに夜は更けていく。

ふと、そんな風に四人で盛り上がっている中、一人寝こけていたシュウが急に立ち上がる。



「お? 起きたか、シュウ」



「…便所、行ってきます」



立ち上がったシュウは、そのままフラフラと部屋から出ていく。



「あれ、大丈夫なのか?」



「シュウは元々あまり酒が強くありませんからね…。泥酔するとあんなものですよ」



いつもの事だ、とソウガとタイガは何も心配していない様子である。

しかし、急性アルコール中毒などを知る俺にとっては、あまり安心できる状態ではない。



「…少し見てきま…」



「なんだ貴様は…!? なんでこんな所、ぐおっ!?」



俺がシュウを追おうとする寸前、部屋の向こうで、シュウが大声を張り上げる。

そして、その声が途切れると共に、盛大な音を立てて何かが部屋に吹き飛んでくる。

酒樽の山に突っ込んだ何かを確認すると、それは白目を剥いたシュウであった。



「シュウ! 一体何が…!?」



その状況にソウガとタイガ、そして月光が表情を引き締める。

三人共、そこそこに酔っていたはずだが、凄まじい切り替えの速さである。



「…夜分遅くに失礼いたします」



暗闇から響き聞こえる女の声。

足音が段々と近づき、徐々にその姿が現れる。

その姿は、先日試合上の外で出会った、エルフに似た美しい女性であった。



「あんたは、確かファルナ、だったか?」



「覚えて頂けたようで光栄です。トーヤさん、突然お邪魔して申し訳ありませんね?」



目の前の女性、ファルナは少しも申し訳なさを感じさせない笑顔でそう言った。



「おい…、なんだ貴様は。地下へは許可無しで入ることは出来ないはずだが?」



「ええ。そのようですね。ですので少し強引に入らせて頂きました」



そう言って見つめるように持ち上げられた腕は、赤く染まっていた。



「…貴様」



タイガの殺気が膨れ上がる。

味方である筈の俺すらも慄くほどの殺気。しかし、ファルナの笑顔は全く崩れない。


やはり、このファルナという女は何かおかしい。

初めて会った時も、まるで魔力を感じなかったし、今の今まで俺の感知に全く引っかからなかった。

目の前にいるというのに一切の魔力を感じさせないのは、はっきり言って異常だ。

少なくとも、この魔界で出会った中では初めての存在であった。



「本当は翡翠さんに案内してもらおうと思ったのですけど、言うことを聞かないので少しお仕置きをしてしまいました」



ファルナが暗闇で見えなかった、もう片方の腕を持ち上げる。

掲げるように持ち上げられたその手には…



「翡翠!?」



無残なほどに痛めつけられた、翡翠の姿があった。

その姿を見て、俺の血が一気に頭に上る。

それと同時に、ファルナの背後に現れたソウガが、その細首に短刀を押し当てていた。



「この所業から見て、貴方が敵であることは間違いないようですが…、目的はなんです?」



「あら、敵だなんて、そんなつもりはありませんよ? ちゃんと、誰も殺していませんしね?」



ファルナの発言が本当かどうかは分からない。

しかし、少なくとも翡翠に関しては息があるようである。



「…まずはその子龍から手を離しなさい」



「良いですけど、本当に殺すつもりは無いんですよ?」



ソウガはどうやら俺の焦燥を感じ取ったらしい。

目的を聞き出す前に、まずは翡翠の解放を命じた。

ファルナはそれに逆らうこと無く、そのまま翡翠を手放す。

鈍い音を立て、翡翠が床に落ちた。



「翡翠!!!!」



呆けたように立っていた俺は、慌てて翡翠に駆け寄る。

即座に翡翠の状態について確認をするが、本当に命に別状は無いようである。



「…何故、こんな事を」



「あら、先程も言った通り、聞き分けがなかったからですよ? 昔はもう少し大人しかったのですがねぇ…。まあ、無気力とも言えましたので、今の方が良い傾向かとは思いますが」



まるで罪悪感の無いその発言に、俺は凄まじい怒りを覚えた。

しかし、同時に聞き捨てならない台詞を拾ったため、爆発一歩手前で踏みとどまることが出来た。



(昔は、だと…?)



この女は、昔の翡翠を知っている? まさか、翡翠はこの女と面識があるのか?



「…目的を答えなさい」



「ああ、それでしたら、トーヤさんを迎えに来たのですよ。トーヤさん、貴方を、我々の元に招待いたします」



そう言って、ファルナはにこやかに手を差し伸べてくる。

俺はそれを、迷わず振り払った。



「冗談じゃない…! 翡翠をこんな目に合わせる輩に、ほいほい付いていくわけがないだろう!」



ファルナは一瞬キョトンとするも、すぐにまた笑顔を作る。



「そうですよね。不躾だったとは思います。ですが、こちらにも事情があるので…。では、仕方ありませんので、拉致させて頂きますね?」



一瞬、軽い目眩を覚える。

ファルナは何もしていない、変わらずに、笑顔を浮かべている。

だというのに、一瞬でその存在感が増した気がした。


同時に、ソウガの短刀がファルナの首を切り裂く。

否、引かれた刃は、ファルナの首を裂く事は無かった。それどころか傷一つ付いていない。



「馬鹿な!?」



それに一番驚いているのはソウガ自身であった。

間違いなく必殺の意思を込められた一刀。

躱されたり防がれたのならともかく、まともに食らってなお無傷であるのだから、驚くのも無理は無いだろう。

瞬時に離脱を試みるが、一瞬の隙が命取りとなった。



「がはっ…」



「いきなり攻撃してくるなんて、随分と酷いですね」



ファルナはソウガに尽き入れた手刀を引き抜きながら、心外そうにそう呟いた。

同時に、二つの殺気が膨れ上がる。

タイガと月光である。



「貴様ぁぁぁぁ!」



凄まじい程の魔力と風圧。

俺は翡翠を庇うように抱えるが、あまりの風圧に吹き飛ばされてしまう。



「あら…、流石は獣王の息子さんですね。防壁をここまで破るとは、大変見事な一撃です」



咽るような土埃が部屋中に巻き起こる。

俺はそんな中、風精に干渉してなんとか状況を確認する。

そして、土埃の向こうにある、信じられない光景を見てしまった。



「ば、馬鹿な…」



「くっ…」



タイガの一撃は、ファルナに触れること無くギリギリの所で止まっていた。

月光の一刀もまた、ファルナの背に突き立てられた状態で止まっている。



「月光さんでしたか? 貴方の剣も見事です。まさか触れられるとは思いませんでした」



その言葉は素直に感心したような感情を帯びていた。

魔力も感情も感じないファルナから感じる、初めての感情らしい感情だった。

しかし、感心すると言った言葉とは相反するように、ファルナは構えも取らず、その場から一歩たりとも動いてはいなかった。

無傷…。数本の髪が地面に落ちているが、ただそれだけである。


それは本当に異常な光景であった。

恐らく亜人の中でも最強クラスの二人。

その二人の全力の一撃を受けて無傷など、誰が信じるだろうか。

この目で見ている俺ですらも、それは理解できない光景であった。



「貴方がたもまた、この魔界を変えることの出来る歯車の一つなのでしょうね…。ですが、それではまだ魔王には遠く及びません。少し、力の使い方をお見せしましょう」



空間が歪んだ。そう感じるほどの魔力が部屋に充満する。



「馬鹿な…、これは…」



「ふふ、では、皆様お休みなさいませ。ああ、トーヤさんは回収させて頂きますけどね?」



瞬間、俺達は白い光に包まれる。

そして、俺の意識はそこで途切れた。





これにて武闘大会編は終りとなります。

次はそうですね…、魔族編って所でしょうか。

ひとまず、人物紹介を挟みつつ、開始予定です。

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