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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第167話 トーヤ 対 イオ①



開始を告げる鐘が鳴った瞬間、イオの姿が掻き消える。

俺はそれとほぼ同時に振り返り、繰り出された斬撃を受け止める事に成功した。



「いきなり、飛ばし過ぎじゃないか?」



「貴方に時間を与えるのは愚策ですからね」



このまま押し切ると言わんばかりに力が込められる。

膂力で劣る俺にとって、この状況はあまり良いものではないが、これはこれで悪くもない。

今の俺であれば、押し切られることはないからだ。



「ふむ、押しきれませんか。腕を上げましたね、トーヤ」



嬉しそうに笑みを浮かべながら言うイオ。



「そっちも、な…」



こちらにはイオ程余裕は無かったが、それでも自然と笑みが浮かんでしまう。

何故ならこの構図は、かつてイオと出会った際、彼女に斬りかかられた時の再現であったからだ。


あの時の俺は本当にギリギリだった。

しかし、今の俺は余裕こそ無いが、完全にイオの斬撃を受け止めることが出来ている。

そしてイオもまた、余裕を持って受けきれると思っていた俺の予測を、僅かながら超えてきていた。


お互い、あの頃とは違うという事だ。



「フッ!」



押しきれないのであれば、次の手に出る。

俺に時間を与える気が無いのであれば、当然の行動だ。

しかし、どんなに速く動こうとも俺にはそれが見えている(・・・・・)



「っ!」



俺は再度振り返り攻撃を防ぐが、今度は連撃である。

一撃で決められないのであれば、連撃を行う。相変わらず切り替えが早い。





『イオ選手! 凄まじい連撃だぁ!』



『ですが、トーヤ様もあれをしっかりと凌いでいます。お二人とも良い練度ですね。それにしても、彼女もあの移動術を使うのですか…。これは是非ともご教授願いたいものですねぇ…』



『そう言えば、あの移動術はエステル選手やトーヤ選手も使っていましたね? あれって一体どんな技なんでしょうか?』



『私にも仕組みはわかりませんが、あれは魔族の使う<(さく)>や、鬼族の<縮地(しゅくち)>に近い技なのだと思います。鬼族の目から見てどうでしょうか? 紅姫様』



『…あれは、<縮地(しゅくち)>とも若干異なる技ですね。速度、魔力消費、反動…、それらを全て効率化したもっと高度な技法のように思えます。あのような技術、一体どこで…?』



やはりか、とソウガは思った。

あの技は、エルフの少女、アンナも使用していた。

ソウガはある程度、<(さく)>や<縮地(しゅくち)>の技術を理解していたが、だからこそアンナが使える理由がわからなかったのだ。


エステルという少女にアンナ。そしてトーヤ様。

三人には共通して、あの技を扱うには絶対的に身体強度が足りないのだ。


恐らくあの技には、その身体能力を補うカラクリが隠されている。

アンナからは結局、技のカラクリについては聞くことが出来なかったが、あの技の発案者がトーヤ様であることは察せられた。

…全く、本当に面白いお方ですね…





「まだまだ行きますよ!」



イオは再び加速し、俺の死角に入り込む。

どんな生物であっても、急激な速度で視界の外に出られた場合、その姿を目で追うことは不可能である。

死角のほぼ無い生物であればほぼ問題ないのだが、複眼も無く、視野も広くない人間に、イオの動きは消えたようにしか見えない。

しかし、魔力の流れを読む闘仙流であれば、動きを捉えること自体は可能だ。



「なんの!」



イオの攻撃を、今度は余裕を持って受け止めることに成功する。

相変わらず重い一撃だが、ハーフトロールであるイオは、通常のトロールに比べて体格も小さく、腕力も劣っている。

受ける準備が整っていれば、勢いを殺すことは自体はなんとか可能だ。

まあ、それでも並の獣人よりも威力は高いし、大変なことに変わりは無いんだがね…


イオの攻撃は更に続く。

しかし、一度正面に向き直りさえすれば捌く事自体は問題な…



「っ!?」



続きざまに繰り出される斬撃の流れを読み、再度レンリで受けようとした俺は、突如襲った違和感から受けるのを止め、瞬時にその場から離脱する。



(剣筋が、変わった…?)



「今のも躱しますか。やはりトーヤは面白い…。では、これはどうでしょう?」



今度は先程までとは異なり、真正面から突っ込んでくるイオ。

振り下ろされる一撃も、先程までと比べれば緩やかであり、これならば受ける必要すら無い。

俺は下がることで間合いを外し、その隙に攻撃を…



「なっ!?」



間合いを外し、踏み込もうとした俺は、それに見事に失敗する。

何故ならば、間合いを外したはずの斬り下ろしが、俺の肩口を捉えていたからである。



「クッ…」



傷は浅い。この程度であれば精霊による止血で事は足りるだろう。

しかし、当たる筈のない一撃を貰ったことは、俺に十分な動揺を与えた。



「驚きましたか? これは亜神流剣術<偽刃(ぎじん)>と言うそうです。私もコレには一度騙されました」



…仕掛けはなんとなく理解した。

あれは恐らく、回避を誘う、言わば『釣り』の技なのだろう。

程よく加減された斬り下ろしは、相手にとっては隙を突く格好の餌だ。

そして見切った筈の間合いを、なんらかの方法で殺し、釣り上げる。



「柄のギリギリまで手を滑らして、間合いを伸ばしたのか…」



イオの握り手を見ると、普段よりも大分下方を掴んでいるのがわかる。

あれが間合いを伸ばしたカラクリの正体だ。


しかし、あれでは満足にダメージを与えることは不可能だろう。

それは小細工と言ってもいい。

何故、そんな真似を…?



「フフ…、そうです。これは所詮小細工に過ぎません、ですが…」



彼女はそう言って、愛剣であるアントニオを真横に構える。

すると、その刀身が、僅かながら伸び始めた。



「トーヤとレンリ程ではありませんが、私もアントニオを操る術を身につけました。貴方ならば私が何を言いたいか、理解できるでしょう?」



「…ああ」



イオは、その気になればあのような小細工をしなくとも、間合いを伸ばすことができた。

仮に出来なかったとしても、毒を塗るなりされていれば、俺はあの一撃で終わっていたと言うことだ。



「気を引き締めなさいトーヤ。これより先は、油断など許しませんよ?」



油断していたつもりも、気を緩めたつもりもない。

加減もしていない、全力でイオの攻撃を凌いでみせた。


…しかし、それだけでは足りないのだ。


俺は、全力でぶつかれば負けるのも仕方ないと考えていた。

だが、これが戦場であれば俺は死んでいたかもしれないのである。


何が勝ちに行くだ。負けても仕方ないなんて思ってる奴が、よくもまあ…



「…すまなかった。俺はそもそも、出し惜しみなんか出来る立場ではなかった」



「ええ、その通りです。まあトーヤはどこか浮世離れしていますので、こうなるとは予想していましたが」



先程の一撃は、俺に活を入れる為の指導の一撃である。

イオは、俺以上に、俺の事を理解していたのだ。



「一応言っておきますが、先程の攻撃はトーヤの為でなく、私の為に行ったのですよ? 折角やる気を見せたのに、油断してあっさり負けられてもつまりませんからね」



きっとこれは本心からの言葉だろう。

しかし、それだけでもない事くらい、『縁』無しでも理解できる。


俺に足りなかったのは敗北に対する覚悟、そして勝とうとする強い意志。

負けに理由をつけるのは、全てが終わってからでいい。



「全力で戦うだけじゃ足りません…。全力で、勝ちに来なさい! トーヤ!」



ああ、わかっている。

もう後先なんて考えない。

これが最後のつもりで、全てを出し切ってやる!







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