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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第166話 武闘大会三回戦 第三試合開始



「どうです? これでトーヤも少しはやる気が出たでしょう?」



「やる気とか以前に! そんな要求受けるわけ無いだろ!?」



全く、冗談ではない…

そんな一方的な要求を受けられるわけが…



「おや、ではこの決闘を拒むのですか?」



「いや、決闘じゃなくて…、あ…」



いかん、これは嵌められた臭いぞ…


荒神において決闘は、最優先事項として扱われる案件なのだが、当然拒否すること自体は可能である。

荒神の法律はあってないようなものだが、そういった強者が一方的に得するような内容は一応制限が存在しているのだ。

しかし、俺の場合立場が立場である為、拒否するには相当のリスクが存在する。

左大将が逃げただのなんだの、無慈悲な誹謗中傷が飛ぶだけならまだいいのだが、俺が見下されるという事は、レイフの住人も見下されるという事になりかねないのだ。

この場合、決闘を素直に受け入れ全力でぶつかって負けるのであれば、まだ印象も悪くないのだろうが、それは同時にイオの要求を受け入れる事にもなってしまう。

要求を跳ね除けること自体は出来るかもしれないが、キバ様が許可を出しているものを拒否するのはリスクが高い。

それに…



「いいぞぉ! やれやれ!」



「そんな美女に求められるなんて、左大将も隅に置けませんね!」



「ズルいぞ左大将! あ、まさかワザと負けたりするつもりじゃ!?」



観客は好き放題盛り上がってしまっているのである。

ここで拒めば、俺の立場はさらに悪いものとなる可能性がある。

ぐぬぬ…、やはりこの立場は俺にとってリスクしか無いんじゃないか…?



「あれ? でもあのトロールの女剣士って、左大将の近衛なんだろ? それって既に左大将の女みたいなもんじゃ?」



「そうかもだけど、やっぱ夜くらい主導権握りたいんじゃないか? トロールの女は情熱的だって言うしな」



おいこら! 好き勝手言うんじゃない!

ていうか、なんで俺が夜好き放題やってるみたいになってるんだよ!


話題の内容がカオス過ぎる…

ていうか、俺の味方はいないのか!?



「そんな事、絶対許せません!」



唯一、こんな状況下で俺の味方になってくれそうな声が上がる。

それはアンナであった。

しかし、アンナの怒りはこの理不尽な状況にではなく、イオの要求に対して向いているようだ。

つまり、俺を思いやるとか、そういった類の怒りでは無かった…

他に味方してくれそうなスイセンなのだが、顔を真赤にして周囲に弁解をしているようであった。

恐らく、近衛は左大将の女とかいう部分を否定するのに必死なのだろう。


その時、隣の試合場鋭い視線を感じ取り、振り向く。

その視線の主はリンカであった。



(そうか、隣はリンカの試合だったか…)



リンカは一応、俺の所有物という扱いになっていたはずだ。

その俺がイオの所有物になるというのは、彼女にとって許せないことなのだろう。

…視線の鋭さで死んでしまいそうである。

気持ちはわかるが、どうか自分の試合に集中して欲しい…



「…中々ズルい手を使うじゃないか、イオ」



「フフ…、トーヤから学んだことですよ?」



楽しそうに言うイオ。

俺はこんなやり方、教えたつもりは無いんだがな…


ハーフとは言え、イオはトロールだ。

小賢しいと取れる俺の考え方、やり方は、あまり受け入れられないものであり、それに難色を示すことも多々あったのだ。

しかし最近はどうも、『縁』を通じて、俺の考え方に同調を示すようになり始めている。

イオもまた、少しずつだが、変わり始めているのかもしれない…



「…はぁ、わかったよ。やればいいんだろ?」



俺は堪忍したという意思を表すように、お手上げのポーズを取る。



『おっとぉ! 左大将が決闘の申し出をを受け入れたようです! 個人的なことで恐縮ですが、私は以前リンカ様と左大将の決闘を見られませんでしたので、これは嬉しい限りです!』



嬉しいって…、俺の試合はさっきも見たじゃないか…

それとも、決闘である事に意味があるのか?



『あの、このような事、宜しいのでしょうか?』



やや興奮気味のヤマブキさん。

その後ろから控えめな声が発せられる。



『こ、これは羅刹の…紅姫様!? 何故こちらへ!?』



『俺が連れてきた!』



どうやらキバ様が紅姫様を連れてきたらしい。

会話の音声が全て拡張されている事から、どうもあの区画だけそうなるように術が行使されているらしい。



『紅姫様も来られたと言う事は、本当にお勤めの方が終わったようですね』



『仕方ないからやったよクソ! なんで俺があんな面倒な事を…』



ブツブツ言う文句まで拾ってしまっているのは、どうなんだろうか…?



『それが王の務めというものです。さて、紅姫様もこちらへお座り下さい。ちなみに先程の疑問に対する回答ですが、今回くらいの内容であれば宜しいかと』



宜しくないから!


…それにしても、紅姫様とキバ様が一緒に来たと言う事は、羅刹絡みの議題やら調整だったのだろうか?

ソウガもタイガも抜きでだったようだし、あまり込み入った内容では無いと思うが…



「トーヤ、こちらに集中してください。もう始まりますよ?」



おっといかんいかん、他の事を考えている余裕など、俺にはなかった。

イオの言う通り、開始の合図となる鐘の前には、既に獣人が待機していた。


俺は無言で愛杖、レンリを構える。



「フフ…、良い表情です。やっと本気のトーヤとやれるのですね…」



心底嬉しそうに笑みを浮かべるイオ。

俺にはそんな感情も余裕も無いし、楽しむつもりもない。

悪いが、あらゆる手を尽くし、勝ちに行くつもりだ。



「…それで良いのです。それこそが、私の望みなのですから…!」



『縁』による心情の伝播は止めている。

だというのに、イオは俺の意思を正確に読み取っているらしい。

恐ろしいほどの観察力。全くもってやり辛い相手だ…



『それでは! 色々とありましたが、これより第三試合の開始となります! …始め!』



同時に鳴り響く鐘の音。

そして、俺達の戦いは始まった。




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