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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
178/282

第165話 イオの要求

ギリギリで投稿…

帰宅後、改めて確認予定です。

→微修正済です。



「相変わらず、見事な突きだな…」



ダオがしみじみと呟く。

ダオは実戦でライの本気の突きを体験している筈だから、中々に実感がこもっている。



「ライさんって、あんなに凄かったんですね!?」



ドウドがやや興奮気味に尋ねてくる。



「ドウドは、ライがちゃんと戦っている所を見るのは初めてか?」



「はい! 模擬戦はたまに見ていたんですが、普段はもっとゆっくりというか…」



確かに、ライは模擬戦では実力を出さない。

手を抜いている、というわけではなく、技の確認や認識力の強化などを重視している為である。



「まあ実戦でもなきゃ、本気のライを見るのは難しいかもなぁ…。良い機会だからちゃんと見ておくといいよ」



「はい!」



ドウドは純粋だなぁ…

仲間になった直後は、もう少しやさぐれていたと思うのだが、随分な変わりようである。

彼の上司であるソクから色々と報告を受けているが、やはり切っ掛けはシシ豚侵入の件だろうか。



「しかし、ゾノ殿には先程あまり卑屈になるなとは言ったが、あれ程の才能を見せつけられては、劣等感の一つも抱いては不思議はないか…」



「ん…、なんだ? ゾノは勝ったのにまたウジウジしていたのか?」



「ウ、ウジウジなどしていないぞ。…ただ、実力で勝ったという実感が無くてだな…」



あれだけしっかりと作戦をこなして見せたのに、まだそんな事を言うのか…

ダオの言うとおり、これは謙虚というよりも卑屈と表現したほうが良いだろうな…

困ったものである。



「全く…。自信をつけて貰うために、この大会に出てもらったのに、勝っても凹むんじゃ全然意味が無いぞ?」



「…面目ない。ただ、ダオ殿の先程の発言は少し訂正させてくれ。俺はライの才能に対し劣等感を抱いているわけではない」



「んん? どういう事だ?」



「ライには確かに才能がある。しかし、それは俺の親父のように異常と言うほどでは無い。ライが本当に凄いところは、才能に溺れるでもなく、ただひたすらに努力を続けられる所だ」



確かに。それは俺も同意見だ。



「しかし、努力という点ならゾノ殿も欠いているわけではあるまい」



ダオの言うとおり、ゾノも努力に関してはかなりのモノだと思う。

しかし、ゾノが引け目を感じる理由も、ライと一緒に暮らしていた俺には理解できた。



「ダオ、ライが先程放った突きだけど、アレはソウガの言う通り、ただの基本的な突きなんだ。ライはアレを含む基本的な突き技を、1日数千回、多いときには1万回以上、毎日欠かさず練習しているんだ」



そう、毎日である。

それが例え、戦の最中であっても、変わらずそれを続けていたのである。

怪我などで武器自体持てないような状態でもない限り、ライは本当に文字通り、毎日練習を続けているのだ。

恐らくは、俺と出会う前からずっと…



「ふむ…。しかし、やはりゾノ殿も同じように俺は思うが…」



「俺は、ライに置いていかれないように、必死で食らいついているだけだ。それだって、アイツほど熱心に取り組めているわけではない。ライとは10年以上同じ集落に住んでいたが、練習を欠かしたところを見たことがないからな…」



そしてそれこそが、あれ程の技の完成度に繋がっているのだろう。

最早達人と言っても良い程の領域に、ライは若くして踏み込みつつあるのだ。



「…まあ、昔は確かに劣等感を抱いていたんだがな。しかし、あれだけの練習馬鹿っぷりを見せつけられると、それはいつの間にか呆れに変わっていた。そして…、今では憧れに変わりつつある」



「…そうか、劣等感や羨望と言うよりも、憧憬に近い感情だったか。それならば俺にも覚えがある。何しろ俺の友も、ライ殿と似たりよったりの努力馬鹿なのでなぁ! ハッハッハッ!」



笑いながらゾノの背中をバシバシと叩くダオ。

本気で痛そうにしているゾノを見て、俺も吹き出してしまった。


笑ったことで、どこか力が抜けていくのを感じる。

どうやら思いの外、緊張していたらしい。


ゾノとダオのお陰(?)で、いい感じにリラックスすることが出来たようだ。


…さあ、次は、おれの番だ。









俺が試合場に入ると、既にイオが待ち構えていた。

愛剣を地面に付きたてたその佇まいは、まるでどこかの騎士団長のようである。

しかし、そのような荘厳さを感じさせる佇まいとは異なり、彼女は目を瞑り、まるで眠っているかのような安らかな面持ちをしていた。


俺が近づくと、イオはそれに応じるように目を開く。



「待ち侘びましたよ、トーヤ」



「…そりゃ、悪かったが、試合開始時間は決まっているんだ。俺が早く来ようが来まいが、試合は始まらないぞ?」



「気持ちの問題ですよ。私はこの試合を、心から楽しみにしていたのです」



イオはそう言いながら、地面に突き立てた剣を腰に収める。



「約束通り、今日は全力で闘ってもらいますよ」



「そんな約束をした覚えはないんだがな…。まあ、最善は尽くすつもりだ」



俺がそう言うと、イオは途端に不満そうな顔をする。



「その答えは私の望むものではありません。貴方の言う最善は、無理のない範囲での全力、という事でしょう?」



俺はその問に無言で返すしか無かった。

図星だからな。


子供たちが見ている前で無様を晒すつもりはないし、全力で戦うという意思ももちろんあるが、危険な戦い方をするつもりもない。

可能な限り負けを認めさせるような戦いをし、どうにも無理そうな相手であった場合は、潔く玉砕するつもりだった。



「それではつまりません。…では、こうしましょうか」



そういってイオは剣を抜き、俺に剣先を向ける。

なんだ? 開始の合図は出ていないが、何をするつもりだ?



「我が名はイオ! 我はこれより、トーヤに対し決闘を申し込む!」



は、はぁ!?

何を言っているんだイオは!?

これは大会だぞ!?



『おっとぉ! これは珍しい! 大会中に決闘の申し込みが行われました!』



め、珍しい!?

それって、前例があるって事か!?



「ふふ…、獣人達にとって決闘は最優先で処理される催しです。身に覚えがあるでしょう?」



見に覚えって、そんなの………、あった!

リンカの時の事だ!

そういえばアレは叙勲の儀の最中だったのにも関わらず、決闘はいきなり行われる事になった。

まさかとは思うが、今回も…?



『許す! イオ! 要求を言え!』



嫌な予感は当たるものである。

さっきまで何故かいなかったキバ様が、いつのまにか解説席に座っていたのだ。



「ちょ、ちょっと待って下さい! いきなり出てきて、そんなあっさりと許可しないで下さいキバ様!」



『問答無用だトーヤ! 決闘は最優先! 荒神の数少ない規則の一つだ! さあイオ、要求を言ってみろ!」



「では、私が勝利したら、トーヤは私のものになって貰います」



はいぃぃぃぃぃ!?

何言ってるのこの娘!!!!!???



『ハッハッハッハッハッ! 面白い! いいじゃねぇか! しっかり勝って、自分のモノにしてみろイオ!』



嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?



とんでもないことになってきたぞ…




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