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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第163話 武闘大会三回戦 第二試合



ライとテオの試合が、もうすぐ始まろうとしている。

少し間があったのは、どうやらタイガ用に会場の防壁を強化する為であったらしい。

最初からしておけば良いのじゃ? とも思ったが、それなりの術士が動員されているらしい為、中々に厳しいようだ。



「あ、トーヤ様…」



試合の開始を落ち着き無く待っていると、客席の下の方からトボトボと登ってくるドウドに気づく。

どうやら、かなり前の方で試合を観戦していたらしい。



「ドウドか、どうした? 元気なさそうだが、何か落ち込むことでもあったのか?」



もしかして、ダオのファンだったりしたのだろか?



「いえ、落ち込んでいるって程では…。ただ、ゾノさんがあんなに活躍されたのを見て、少し自分が情けなくなって…」



ダオのファンでは無かったらしい。


そういえば、張り出された対戦表にドウドの名前は無かった。

つまり、あの後の試合でドウドは負けてしまった、ということだろう。

正直、自分のことで頭が一杯だった為、色々と確認を怠っていたな…



「…確かにゾノは頑張っていたと思うが、それと自分を比較する意味は無いんだぞ? 他者の努力と自分の努力は無関係だしな」



「そう思いたいですが、ゾノさんに比べて、自分があまりに不甲斐なくて…」



ドウドの試合を俺は見ていないが、そんなに酷い対戦内容だったのだろうか?



「…確認するけど、ドウドの対戦相手は誰だったんだ?」



尋ねると、ドウドは振り返って会場を指差す。



「あの、向こうでテオさんと戦う、タイガって人です…。俺の攻撃、全く通じなくて…」



タイガか! それは、正直気の毒としか言いようがない。

ドウドは酷く落ち込んでいる様子だが、アレを相手にして悔しがれるだけでも大したものである。

正直、他のトロール達ですら、同じ結果になってもおかしくない相手だしな…



「ドウド、あの方はこの荒神の右大将、つまりこの国で二番目に偉い人だ。しかも、俺とは違って実力も魔王に次ぐと言われているくらいの猛者だよ」



「え…? えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」



目玉が飛び出しそうなくらい、目を見開いて驚くドウド。

俺も大概だが、どうもにもレイフの住民は世間知らずが多いようだ。

外に出る者も少ないし、ドウドの場合は複雑な事情が有るため仕方ないと言えば仕方ないのだが…

これは今後の課題だな…



「ど、どうしましょうトーヤ様! 俺、失礼な事を言ってしまいました!」



失礼なこと…? 何を言ったんだ?

タイガは比較的大らかな人間なので、余程の事がない限り問題にはならないだろうが…



「…何を言ったんだ?」



「あの、俺の攻撃、全く通じなくて、それであの人…、タイガ様が、君は良い戦士だなって…、俺、馬鹿にされたと思って、侮辱するなって食って掛かって…、それで…」



その直後に一撃を貰い、意識を刈り取られたらしい。

俺はその話を聞いて、ひとまず安心した。



「ドウド、それは多分だけどタイガ殿は本心からドウドの事を良い戦士だって思ったんだと思うぞ? だから、別に失礼とか気にしてないんじゃないかな?」



「ほ、本当ですか!? でも俺の攻撃、本当に何も効いていませんでしたよ!?」



「うーん、タイガ殿が良い戦士だと思ったのは、恐らくドウドの実力じゃなく気概とか精神面なんじゃないかな? 攻撃が通じないような圧倒的な強者相手にも、恐れず向かっていく姿勢を評価したって事だと思うよ」



「それは…、俺がタイガ様の事を知らなかったからで…、それに、俺も半分はトロールですから…」



「タイガ殿の事だからそれも気づいていたと思うよ? その上で、ドウドを評価したんだろう。だから、素直に賛辞だと受け取っておけばいいさ」



タイガの事を知らなかった事も、ドウドがトロールの血を引き、闘争心が強いことも、全ては戦闘における一要因でしかない。

未知の強者に対し、それでも勇猛に牙を剥いたドウドに、タイガは素直に感心したのでは無いだろうか…

まあ、あくまで予想でしか無いけどな。今度その辺は直接聞いてみよう。



「まあ、それでも心配だって言うなら、俺が直接話しを通しておくさ。肩書だけなら一応対等だからね」



実質は何も対等じゃないけどな!



「そ、そんな! 俺なんかの為に、トーヤ様のお手を煩わす事は…」



「別に煩わしいなんて思わないよ。ドウドもレイフの仲間なんだ。その為に体を張る事に苦なんて感じないさ」



若干良い人ぶった感があるが、本心ではある。

ただ、この件に関して、体を張るってのは流石に大げさかもしれないがな。



「あ、ありがとうございます! あの、俺、馬鹿で、色々迷惑かけて本当に申し訳なく思っています! でも、これからもっと色々と勉強もしますんで、どうか、どうか…」



どうやら本当に大げさ過ぎたようだ。

ドウドは涙を浮かべ、跪くようにして俺を拝み倒している。



「ちょ!? ドウド!? 大げさすぎだ! 頼むから立ってくれ!」



あまりに異様な光景のせいか、試合場に集中していた観客もこちらに振り向いて、何事かと確認している。

非常に気まずい。



「トーヤ…、これは何事だ?」



俺があたふたとしていると、ゾノとダオが揃って後ろに立っていた。

ゾノの目に、やや冷ややかなものを感じるのは気のせいだろうか?



「こ、これはだな…」



かくかくしかじかと、俺はゾノ達に状況を説明する。

動揺して要領の悪い説明になってしまったが、一応は理解して貰えたようだ。

ダオの助けも有り、ドウドもなんとか落ち着きを取り戻してくれた。

助かった…



「さて、そろそろ試合が始まるようだぞ」



ゾノが言うとおり、既に試合場にはライと対戦相手の獣人が向かい合って待機している。

向こう側でも同様に、タイガとテオが待機している状態だ。



『ええ~、皆様、大変お待たせしました! 防壁の強化が完了しましたので、間もなく試合が開始されるようです! 注目はやはり優勝候補であるタイガ様と、トロールのテオ選手の対戦になるでしょうか!』



『そうですね。ただ、隣で行われるライ選手とセキサン選手の試合も気になる所です。特にライ選手は、先程のゾノ選手と同じく、レッサーゴブリンで本戦に進出を果たした、極めて希少な存在です。さらに、左大将であるトーヤ様の近衛兵長を務めている事から、実力者であることは間違いないでしょう。私が注目している選手の一人ですね』



ソウガも中々に煽ってくれるなぁ…

タイガ様と俺達の闘いを監視していたソウガならば、ライの実力は十分に承知しているだろうに。



『なんと! ソウガ様が注目しているという事であれば、こちらも目が離せません! というか、こんな試合を同時に組んだ運営には少し文句を言いたい所ですね!』



ヤマブキさんの発言に、会場からも不満の声が上がる。

実際の所、ソウガが言うまでもなく、軍関係の者はライの試合を注目していたらしい。

ライも、肩書だけ見ればこの国のナンバー2である俺、その近衛兵長なのである。


近衛兵長は指揮権こそ無いが、大将軍と同列に扱われる存在であり、地位としてはかなり上位の存在だ。

事情を知るものも知らないものも、その実力を目にするのはこれが初めてという者が多い。

単純に興味がある者もいれば、種族の関係で粗を探そうとしている者もいるに違いない。。



(これだけ注目されるのは少し意外だったな…)



ライと俺は『縁』が通じている為、意識して遮断しない限り、ある程度のお互いの精神状態を把握することが出来る。

感じる限りではライの精神状態は安定しているようだが、無意識の緊張までは感じ取れない為、実際のコンディションまではわからない。影響は無いと思いたいが…


そんな俺の不安を感じ取ったのか、試合場のライがこちらに振り向いて笑顔を見せる。

心配はいらない、という事らしい。





『それでは、注目の三回戦、第二試合! 開始です!』





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