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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第162話 敗者に説教をさせるものではない



「う、む…」



「目覚めたかダオ殿」



横たわっていたダオ殿が、上体を起こして首をボキボキと鳴らす。



「ゾノ殿か…。看病してくれていたのか?」



「ああ、俺はまだ未熟だからな。念のため、というやつだ」



以前、トーヤにはこの技でリンカ殿を殺しかけたという話を聞いている。

実際使えるようになって分かったが、『破震』は中々に殺傷力の高い危険な技であった。

一度コツを掴むと、今まで出来なかったことが不思議になるくらいに制御が簡単になるのだが、不安なものは不安なのである。



「ふはは、相変わらず慎重、いや、臆病な男だな! ゾノ殿!」



「…性分なんだ。こればかりは変われそうにもない」



俺の臆病さは、自分への自信の無さの顕れである。

これでも、昔に比べれば大分マシになったのだが、卑屈になるのが癖になってしまっているのだ。

トーヤやライは俺の事をかなり買ってくれているようだが、どうにもそれは過大評価に思えてならない。



「全く、俺を倒しておきながらソレでは、こちらも浮かばれんぞ?」



「すまない…」



相手に対して失礼という気持ちも当然有るのだが、十数年の付き合いであるこの悪癖は、まだまだ治りそうにない。



「ふむ…、ゾノ殿のその自信の無さは何からくるものなのだ?」



「何から、か…」



話すつもりは無かったが、つい目線が会場の方へ向いてしまう。

そしてダオ殿はそれを見逃さなかったようだ。



「成る程…。ライ殿か。確かに、彼の棒術の腕を常に目の当たりにしてきたのであれば、分からなくもないか」



「…」



「しかし、彼の技は確かに凄いが、それがゾノ殿を低く見る理由にはならんぞ? 実際、先程だって例の剛体破りの回転突きを放って見せたではないか? ライ殿とゾノ殿の間に、それ程実力の開きは無いのではないか?」



「いや、あれは放つフリをしただけで、実際に放てたわけではない」



「ぬ…? どういうことだ?」



「全てはトーヤの策だ。それがなければ、俺はダオ殿に勝てなかっただろう」



昨夜、俺はトーヤとスイセン殿と共に、今日の為の作戦を立てた。

しかし実際の所、ほとんどの内容はトーヤの立案なのであった。










トーヤと俺は、互いに武器を持って向かい合う。

先程トーヤが考えついた作戦を、実際の立ち回りで説明する、ということらしい。

トーヤはダオ殿役であり、スイセン殿はフォローに回る。



「まず、間合いを伸ばした棍棒で、徹底してダオを近づけないことに専念」



俺は言われた通り、槍で牽制して常に一定の間合いを保つよう立ち回る。



「そうそう、そんな感じだ。元からダメージなんて期待できないから、距離を近づけないことだけに集中すればいい」



確かに、それだけであれば難易度自体は高くない。



「多分そうすると、ダオは強引に前に出てくるだろ? そこで焦らず後退しながら対処することで、次の行動を誘う」



「次の行動とは?」



「その状況でダオ、というかトロールの攻撃パターンは大体3パターンになる。中でも使用しやすいのが投石なんかの飛び道具だ。ゴウが使った地面を薙いで放つ飛礫(つぶて)もこれに分類されるな」



「飛び道具か…。正直意外だな」



「まあ、真っ向勝負のイメージが強いものな。でも、ガウから直接聞いたけど、攻撃を通す手段としては全然アリだそうだ」



「攻撃を通す手段…、つまり布石ということか」



「そうだ。ちなみに、残りの2つの内、1つは完全に気にしなくていい。残る1つは…、ゾノが壁を背負わないように立ち回れば問題ないはず。ということで、今からその飛び道具に対する対応をしてみようか。スイセン、ゾノが後退したら投石を頼む。ゾノは実戦だと思ってそれに対処してくれ」



「わかった」



「じゃあ、行くぞ!」



そう言って、トーヤは真っ直ぐ突っ込んでくる。

俺はそれに対し、突きで牽制し距離を取る。



「スイセン!」



トーヤの合図に応じ、俺目掛けて拳よりやや小さいくらいの石が飛来する。

俺はそれを、握り手の部分で弾きつつ、躱しきれない箇所は剛体で防いで距離を維持する。



「今のでいいのか?」



「まあ、対処としては正解だ。ただ、問題点もある」



「それは?」



「まず、魔力の問題だ。いくら防げると言っても、剛体は燃費が悪い。防ぐ場所を絞っても、かなりの魔力が消費される」



…確かに。俺にとって剛体による魔力消費は結構馬鹿にならない。

レッサーゴブリンである俺は、純粋なゴブリンでない分、少しは魔力量が多いのだが、獣人やエルフと比べれば遥かに劣るのだ。

先程の投石を防いだだけでも、20分の1程度は持って行かれたように思う。



「魔力が無くなれば勝ち目は無くなるからな。それに、この戦い方ではそもそも逃げることは出来ても勝つことが出来ない。だからここで、一つ罠をはる」



「罠?」



「ああ、ダオにはそのタイミングで、敢えて近づいて貰うんだ」



ダオ殿に近付かせる…

今までそれをさせないために牽制主体の立ち回りをしていたのに、何故…?



「このタイミングで攻撃してもらうのには理由がある。これもトロールの多くが持つ特徴なんだが…」



「ああ、斬り払いを誘うのですね?」



トーヤの説明に何か気づいたのか、スイセン殿が反応する。



「その通り。スイセンは知っていたか」



「ええ、軍ではトロール対策も習いますからね」



…少しよくわからないな。何故それで斬り払いを誘えるのだろうか?

スイセン殿は理由を知っているようだが…



「ゾノ、トロールが布石を放った後や、獲物を追う際に高確率で使用する技があるんだ」



「それが、斬り払いなのか? しかし何故?」



「殆どが本能によるものだと思うけど、彼らは逃げる獲物に対し広範囲を攻撃出来る選択肢を取る。恐らくは、カスリさえすれば十分な効果があるからって事なんだろうけどね」



それで斬り払いか…

確かに、片腕による斬り払いは踏み込みによる攻撃距離が長く、横の攻撃で有るため範囲が広く、左右に躱しづらい。

そして、トロールの膂力であれば、掠めただけでも致命傷になる可能性は十分にある。



「この斬り払いを躱せば、上半身に隙が出来るはず。そこを狙って『破震』を仕掛けるんだ」



「要は、わざと足止めを喰らえ、という事だな。それも、躱すのが前提になっているが…」



「出来るだろ? 来る攻撃がある程度絞り込めていれば、闘仙流を少しでも学んだゾノなら、十分可能なはずだぞ?」



それは過大評価だ、とは流石に言えない。

確かに、俺の年齢では正直ギリギリではあったが、闘仙流の基礎についてはある程度身につけることが出来ている。

魔力の流れについても、術士として学んだ経験からそれなりには読むことが出来るようになっていた。



「…わかった。最善は尽くそう。しかし、もし防がれたら…?」



「うん、まあこれで決まれば何も問題は無いんだが、恐らくは防がれるだろうね」



…俺も薄々だがそんな気はしていた。

トロールは優れた戦士だ。戦闘勘のようなものも卓越しており、反応も鋭い。

防がれる可能性は十分にあった。



「だからこれは、あくまで布石だと思ってくれて良い。本命は別にある。ここからは、少し覚悟してくれよ?」



「…お手柔らかに、頼む」










「…その本命とやらが、最後に使った棍棒越しの『破震』というわけか」



「ああ」



正直、あの棍棒越しの『破震』が放てたのも、トーヤの恩恵による所が大きい。

トーヤを通じて、レイフから貰ったこの武器で無ければ、恐らく放つことは出来なかっただろう。



「つまり、ライが魔王に使った回転突きは、実際の所ゾノ殿には使えなかったと。あくまで、俺にああやって防がせるための布石だった、ということだな?」



「その通りだ。トーヤは、ダオ殿であれば、棍棒が剛体に引っかからなかった時点で防がれる可能性が有ると予想していた。そして、『螺旋』知っているダオ殿なら、まず回転を止めに来るだろうともな」



「成る程。成る程。クックック…、いやぁ、大したもんだ。トーヤ殿も、それをしっかり実行したゾノ殿もな」



「いや、俺は与えられた作戦をただ実行したに過ぎんよ。実際、最後の最後まで、最初の『破震』のように腕で庇われたら? などとビクついていたからな…」



「だからそう卑屈になるな…。俺は今の話を聞いても、ゾノ殿の評価が変わったりしないぞ? むしろ、さらに評価が上がったくらいだ」



「何故…?」



今の話を聞いて、ダオ殿は俺の何を評価するというのだろうか?

実際に『螺旋』は使えないし、おんぶに抱っこだったこのオレを…



「何故? そんなの決まっているだろう? この作戦とやらは多くがゾノ殿に対する信頼の上で成り立っている。恐らく、同じ作戦を実行出来るのは、発案者であるトーヤ殿くらいなのではないか?」



「!?」



言われてみれば、確かにそうかもしれない…

確かに、今回の作戦を実践し得るのは、レイフの中でも俺とトーヤだけであろう。

いやしかし、他の者達であればもっと別の選択肢があったはず…



「この作戦はゾノ殿の為に用意されたものであり、ゾノ殿だから実行できると判断されたからこそ、託されたのだろう? ならば、それを託され、成功させたゾノ殿は、トーヤ殿の期待通りの実力を示したという事だ。もっと誇るべきだと思うぞ?」



「…そうか。そうかも、しれんな…」



俺の中では、作戦頼みである今回の勝利は、未だ自分の実力だと消化しきれない部分が残っている。

しかし、ダオ殿が言うとおり、託された作戦をしっかり実行できたことは、もう少し自分で評価してやっても良いのかもしれない。



「ありがとう、ダオ殿。俺ももう少し、前向きに考えようと思う」



「それでいい! 全く、敗者に説教をさせるものではないぞ!?」



全くだ…。本当にすまない…

しかし、本当にありがとうダオ殿…






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