第160話 武闘大会三回戦 開始
例のごとく、帰ってから少し手直しする予定です…
武闘大会、第三回戦。
勝ち残った人数はおよそ30名程と、参加者全体から見れば大分絞り込まれた状態である。
とはいえ、これでも一日以内で収まるかと言われれば、結構怪しいんじゃと思っていたのだが…
『皆様! おはようございます! 本日も司会は、私ヤマブキが務めさせて頂きます! 解説に関してですが、フソウ様が選手として出場されるため、本日は代わりに魔王様の側近であるソウガ様にお願いさせて頂きました! ソウガ様、本日はよろしくお願いいたします!」
『こちらこそ、よろしくお願いします。母の代役が務まるかは怪しいところですが、可能な限り助力させて頂きましょう』
『是非ともお願いします! 本日は同時に二試合行われるという事もあり、正直私一人じゃ追いつかないと思いますので…』
やや自信なさげなヤマブキさん。
彼女が言うとおり、本日は同じ会場で同時に二試合が行われることになっている。
四回戦以降は大会の進行次第のようであるが、少なくとも三回戦はこの会場を同時に四組の対戦が行われるのだ。
会場であるこの施設は、中々に広大な面積であるため、2つの試合が干渉し合う事はないと思われるが、堺には一応気休め程度の結界が張られているらしい。直接的な打撃には脆いが、述にはそれなりの強度を誇るそうだ。
直接的な打撃など、それこそ意図していない限りされないだろうから、そこはあまり心配しなくても良いだろう。
外精法、いわゆる魔法に関しても、大規模な術の行使にはそれなりの時間が必要だし、大会で使用される事は無いはずだ。
むしろ少し引っかかるのは、順番次第でゾノ達の試合が見れないことである。
昨夜三人で知恵を出し合った作戦、その成果は出来ればしっかりと見ておきたかったんだが…
試合順については、残念ながら未だ発表されていない。
予定ではもう間もなく張り出されるはずだが…
「トーヤ、張り出されたみたいだよ」
「ライか、もしかして、この距離からも見えるのか?」
「ギリギリだけどね…。どうやら、一回戦はゾノやギイ達の試合みたいだ」
俺にはギリギリどころか何も見えないが、ライにはこの距離からでも見えているらしい。
ライの種族はレッサーゴブリンだが、ゴブリン族自体の視力は人族と左程変わりないはず。
であれば、個人の才能か、あるいは混じっている何かの種族によるものかに違いない。
また一つ、劣る点を見つけてしまったな。別に、いいけどさ…
◇
「ダオ殿、お手柔らかに頼む」
「ハッハッハ! お手柔らかになんぞしたら負けてしまうだろう? ゾノ殿は相変わらず自身を過小評価しているようだな?」
「…」
そうは言っても、俺の実力がダオ殿に勝るとは思えない。
手を抜けば負ける? 冗談ではない…。全く、謙遜しているのはどちらだか…
『さあ! 注目の第一、第二試合ですが、なんと両試合とも獣人がいません! これは正直、前代未聞ではないかと思います! この状況を見て、荒神の獣人は何をやっているのか、と思う人も居るでしょう! しかし! 勝ち上がってきた彼らの内、3人はなんとトロールなのです! 一騎当千を誇ると言われるトロール族であれば、その実力に疑う余地はありません!』
実況者の発言で、会場のざわめきが増す。
荒神主催のこの大会で、獣人が絡んでこない試合というのは、やはり珍しいらしい。
しかも、トーヤの話ではトロールの参加は初めてだと言う。その注目度は高いに違いない。
『ヤマブキさん、その言い方ではゾノ選手がまるで実力以外で勝ち上がったように聞こえてしまいますよ? 実力なくして勝ち上がれるほど、この大会は優しくないはずです』
『こ、これは失礼いたしました! 確かに、ソウガ殿の言うとおりでございます! 両試合で唯一の別種族であるゾノ選手、彼はレッサーゴブリンでありながら、この大会を勝ち上がってきた正真正銘の実力者であります! レッサーゴブリンと言えば戦闘力が低いと評価される種族ではありますが、つい先日同じく戦闘力が低いとされるオークの少女、セシアちゃんは、獅子奮迅の活躍を見せてくれました! 同じくレイフの森出身である彼にも大いに期待が持てるでしょう!』
ソウガ殿の一言により、慌てて余計な事を言ってくれる実況者。
過小評価されているくらいが丁度良いのだが、残念ながら敷居をあげられてしまったか…
(でも、所詮はやっぱゴブリンだろ? どう足掻いたってトロールにゃ勝てんだろう)
(だよな? 俺も戦場で何度か戦った事あるけど、アイツら本気で弱ぇぞ?)
(ああ、俺もそう思う。あのゾノってのはよっぽど運が良かったに違ぇねぇ)
(でも、俺は昨日のセシアって子の試合みたけど、凄かったぜ? もしアイツがあれくらい戦えるんだったら…)
(いやいや、それはセシアちゃんが特別なんだろ? それにオークは力があるが、ゴブリンは力もないからなぁ)
(それもそうだな。ってことは、やっぱあそこの試合はどうせ瞬殺だろうな…)
…どうやら、そこまでの事は無かったらしい。
観客たちの話し声を聞く限り、先程の実況の発言は、俺の評価を覆すようなものでは無かったようだ。
問題はない。むしろ、これでやりやすくなったと言えるくらいだ。
「ふむ。何やら外野が煩わしいなぁ? ゾノ殿」
「いや、俺は別に気にな…!?」
「喝ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっつ!!!!!!」
俺の台詞は、直後に放たれた凄まじい音量の気合にかき消された。
いや、かき消されたのは俺の台詞だけでは無い。
会場中の、全ての音声がかき消されていた。
「よし、静かになったな」
ニヤリと笑ってみせるダオ殿。
やはり、ダオ殿も間違いなく、ガウ殿に比類する規格外の戦士だ。
俺の勝ち目は、ほとんど無いだろう。
しかし、今日俺は、この偉大なる戦士に、勝つ。勝ってみせるのだ。
「お手柔らかに、頼む」
俺の言葉とほぼ同時に、静まり返った会場に試合開始を告げる鐘が響く。
『し、失礼しました! ダオ選手の凄まじい気合で、少し停止していました! それでは三回戦第一、第二試合! 開始となります!』