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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第159話 似た者同士三人の夜



「ふぅ…」



夜空を見上げながら、何度目かのため息をつく。

ここはセシアを発見した出窓なのだが、成る程、確かに一人になるには良い場所だ。

ポツポツと見える街の明かりを見ていると、なんとなく落ち着いてくる気がする。



(…あくまで気だけだけどな)



先程まで、俺は全力でイオに勝つためのプランを考えていた。

しかし、残念ながら良い案は浮かばず、気分転換に城内をブラブラと彷徨(うろつ)いていたのである。

どこをどう歩いたのか、正直自分でも分かっていなかったが、いつの間にかこの場所に辿り着いていた。

もしかしたら、セシアも同じようにここに辿り着いたのかもしれないな…


俺は再び夜空を見上げる。

魔界の空はどんな原理かは不明だが、桃色である。

しかし、夜は俺の知る、なんの変哲もない夜空であった。

月もあるし、星もある。しかし、間違いなくここは地球では無い…

ここは一体どこなのだろうか、という疑問は当然あった筈なのだが、最近はあまり考えなくなっていたように思う。

馴染んできた、という事なのだろうが…、っとイカンイカンこんな事を考えている場合ではなかった。

思考が行き詰まると、どんどん横道にズレていくのは悪い癖だな…


余計な思考を散らすように頭を振る。

こんな事をしても、実際に思考が散るわけではじゃないがな…



「…トーヤ様?」



声をかけられてビクリとする。

すっかり感知を疎かにしていた。迂闊が過ぎるな…


声をかけてきたのはスイセンであった。

彼女の実家は荒神にあるため、滞在中は実家で寝泊まりしているはずだが、こんな所でどうしたのだろうか?



「スイセン、何故城に?」



「あ、いえ、ちょっと落ち着かなくてフラフラと…」



確かに、普段のスイセンと違い、今のスイセンはどことなく落ち着きが無いように見える。

何かあったのだろうか?



「スイセンにしては珍しいな。何かあったのか?」



「あの、あったというか、これからあるというか…」



これからある? こんな夜更けに一体何があるというのだろうか。



「…私の明日の対戦相手、フソウ様なのです」



ああ、そういうことか…

どうやら、スイセンは俺と同じような理由でフラフラとしていたようであった。

フソウ様の実力は未知数だが、あの解説で彼女が只者でないことくらいは理解しているつもりだ。



「フソウ様か…。やはり、あの方は強いのか?」



「…!? まさか、ご存じないのですか?」



単純な疑問だったのだが、逆に疑問で返されてしまった。

なんだろう? 何か重要な情報を聞き逃していたのだろうか?



「…本当にご存じないようですね」



俺の反応を見て、スイセンが少し驚いたような顔をする。

スイセンは何やら俺に変な信頼を寄せているようだが、俺だって別に何でも知っているワケじゃ無いぞ…



「すまん。本当にわからない。もしかして、フソウ様も大将軍の一人だったりするのか?」



「いえ…、フソウ様は第二王妃という立場はありますが、軍属ではありません。趣味で戦場に付いてくることはありますが…」



趣味で…か…

それもまた凄まじい話である。



「まあ、それはごくごく稀な事ですがね。でも…、フソウ様がひとたび戦場に現れれば、それを止められるのはキバ様しかいないと言われるほど、あの方の武は凄まじいのです…」



想定を超えた話であった。

正直、フソウ様の普段の様子からは、そんなの一切感じられないぞ…?



「フソウ様が闘っている姿を見なければ信じられないと思いますが、紛れもない事実です。なにせフソウ様は、この大会をもう五回以上は優勝されていますから…。しかもその内、去年と一昨年は、タイガ様を破っての優勝です」



「…!? 本当に? あのタイガ殿を破って…?」



にわかには信じられない話である。

少なくとも、俺が戦場で見たタイガの力は、キバ様にも匹敵するんじゃと思うほどのものであった。

そのタイガを破っての優勝…? ダメだ…、全然想像できない…

しかも、一度だけの勝利ならまぐれや手加減した可能性もあるが、二度ともなると決して偶然などでは無いという事だ。


またしても悩みのタネが…

いや、それ以上に、



「そんな実力者を相手に、大丈夫なのか? スイセン…」



「ははは…、大丈夫ではないですね…。だからこうして、フラフラと思い悩んでいるのですよ」



なんだ…、本当にスイセンも俺と同じような理由でここに来たんだな…



「む…、そこに居るのはトーヤと、スイセン殿か…? すまん、邪魔をした…」



そして、そこに新たにゾノまでもが現れる。

最早、これは同じ流れなような気がしてならない…



「待てゾノ、何か勘違いしているようだが、とりあえずこっちに来い」



「…良いのか?」



「良いから、さっさとこっちに来い」



俺は自分の隣の手すりをポンポンと叩き、ゾノを招く。

ゾノは渋々と言った様子でそれに従い、俺の隣までやってくる。

こうして、似た者同士三人が肩を並べる事になった。



「なんとなく察しは付くが、もしかしてゾノも明日の対戦相手について悩んでいたのか?」



「俺も…、と言うことは、トーヤもか…?」



「ああ、俺も、スイセンも、な」



「…トーヤの相手は、確かイオ殿か。確かに、かなりの強敵だな…」



強敵も強敵、俺の中じゃタイガやシュウ並に当たりたくない相手であった。

本気で臨むと決めた覚悟が、早速脅かされているくらいだからな…



「余裕が無くて確認していませんでしたが、トーヤ様の相手はイオさんでしたか…。彼女は確かに、強敵ですね…」



「…ちなみに、ゾノの相手は?」



「…ダオ殿だ。正直、俺は彼に訓練で一度も勝てたことは無いのだ…」



ダオか…

ダオはガウの親友であり、ガウに匹敵するほどの実力者でもある。

俺も何度か手合わせをしているが、正直まともにやりあって敵う相手ではない。


何の事はない、やはり俺達三人は同じような事で悩み、フラフラしてこの場所にたどり着いたのである。



「…ふふふ、なんだか、おかしな話ですね。三人共、同じような悩みで無意識にここに来たってことですよね?」



「…そうだな。でも、こうして三人が顔を揃えたのは、もしかしたら必然だったのかもしれないぞ? なんせ俺達は三人共、純粋な戦闘力では他の者たちに比べて劣っていると言っていい存在だからな」



俺の発言にゾノは何か言いたそうだったが、言葉には出さず首を縦に振る。



「でも、三人共こうして悩んでいるって事は、やっぱりなんとか勝つための算段を立てているってことだよな?」



「それはもちろんです」



すかさず肯定してくるスイセン。




「ゾノは?」



「…俺もだ。半ば強制的に参加させられたとは言え、俺にだって欲はある。勝てるものなら、勝ちたいと思っているさ」



「…だよな」



俺は安心したように笑みを浮かべる。

なんだかんだ、この三人はレイフの中でも立場的に似た者同士であり、妙に気があった。

今回も同じような事で悩んでいる辺りが、少し微笑ましい気分にさせる。


いつの間にか、先程までの沈んだ気持ちは無くなり、前向きになっている自分に気づく。

自分の内から湧き上がるこの気持は、やる気というヤツであった。



「…よし、似た者同士がこうして集まったんだ。作戦会議でもしようじゃないか。どうせなら三人全員で勝ち上がりたいしな!」



「トーヤ…」



「トーヤ様…」



二人は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにその表情が引き締まる。

俺達は似た者同士だ。きっと今の気持ちは一致しているはず。



「さあ、まずは一番難易度が高そうなスイセンの作戦を練ろうか。スイセン、フソウ様の情報について詳しく教えてくれるか?」



「はい。二人共、よろしくお願いします」





こうして、俺達三人は朝方近くまで作戦談義に花を咲かせるのであった。





次の更新は土日になると思います。

期末期初が落ち着くまでは、週1ペースになりそうです。

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