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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第158話 トーヤ 対 ボタン

更新ペースを戻せそうと思ったら、そんな事はありませんでした…

やはり期末はSEにとって鬼門ですね…



ボタンは風や水といった術を得意とする術士でありながら、近接戦闘もこなす万能の戦士である。

特に術に関しては上級術士の称号を持つほどに優れており、単純な戦闘用の術においてはレイフ内でもトップの実力を持つ強者だ。

リンカ達のような派手な戦い方こそしないが、支援から囮、近接戦闘までこなす彼女はあの隊の影の主役とも言っていい。



「トーヤ様に近付かれるのは面倒なので、このまま術で仕留めさせて頂きましょう」



同時に、ボタンは素早く後退し言葉を紡ぐ。

その言葉は短く、何を言ったかまではわからない。

しかし、彼女の周囲に出来た水球からして水術を行使したのは間違いない。



「撃て」



「っ!?」



水球から、凄まじい勢いで水が放たれる。

高出力で放たれた水は、鈍器で殴るのと同等の威力がある。

生身で受けるのは危険だ。


俺は横っ飛びにそれを躱す。

しかし、彼女の周りに生成された水球は3つ。

それら全てから放たれる水の槍を完全に躱すことは出来ず、剛体やレンリを駆使して防ぐしか無かった。

同時に三人の槍の使い手を相手にするような状態であり、このまま続けばジリ貧になることは間違いない。


ただ、あれが長く続くとも思えない。

子供の部と違い、むき出しとなった地面からは少ないながらも水が供給できているだろう。

しかし、空気中や地中から生成できる水の量にも限度があるはず…、ってああ!? なんだあの樽は!



「そんなものまで用意して、ズルいぞ!」



「おや、日頃からそのズルとやらを教えてくれるのは、トーヤ様ではありませんか?」



「そーだけどね!」



水の出処は空気だけではなかった。

彼女の後ろ会場の外れに大量に持ち込まれた水樽。どうやらあれからも水を供給しているらしい。

あれでは水が尽きる前に、俺の魔力と体力が尽きるほうが早そうだな…

ならば…



「風精! 俺を守ってくれ!」



風が集まり、俺の周囲に膜のようなものが形成され始める。

しかし、その速度は絶望的に遅く、水の槍に貫かれて中々形成が上手く行かない。

元々俺の術は、他の者達が使う仮契約とは根本的に性質が異なっている。

それが顕著に現れるのが、この術の発動時間である。この発動の遅さを、俺は未だに克服出来ていなかった。



「チィッ!」



それでも、無いよりはマシだったらしく、僅かにだが水槍の威力が減っていた。

これならばギリギリ躱しきれる。

そして、躱すことさえ出来れば次の手が打てる。



「風精! もう少しだけ頼む!」



風の精霊と交渉し、僅かに得られた助力。それを利用し、俺は前に出る。

水槍が集中的に降り注ぐが、同時に同じ方向に放たれるのであれば防ぐことは容易だ。


水槍を弾きながら突進してくる俺から逃れるよう、迂回するように距離を取るボタン。

しかし、そう動くことは当然読めていた。



「むっ!?」



ボタンの動いた先、そこに突如土の槍が現れる。

俺がレンリ経由で土精に仕掛けてもらった罠だ。

防ぐ手が空いた事で仕掛けられたそれは、普通であればダメージなど与えられるようなモノではない。

しかし、彼女自身が突っ込むのであれば話は別だ。

自ら突っ込む場合、剛体は発動しない。



「なんて驚いたフリをしましたが、読めていますよトーヤ様」



そんな事をつぶやいた刹那、彼女の眼前の土槍が切り刻まれるようにして崩れ去った。

一瞬、何が起きたかわからなかったが、すぐにその仕掛けに気づく。



「ウォーターカッターか!!!」



土槍は、同様に土から飛び出した何かによって斬り刻まれた。

一瞬だったため、何が起きたか目視できたわけではないが、断面に付着した水からして恐らくは間違っていない。

だってこれは、



「これもトーヤ様の悪知恵の賜物です。そして、罠にかかったのはトーヤ様の方ですよ?」



そう、俺が教えた技術なのであった。

硬質な砂混じりの水を高出力で当てることによる斬撃は、近距離であればその効果を十分に発揮することができる。

そして俺の足元には、その発生源であろう小さな穴が、無数に存在していた。



「私は土精の扱いはあまり得意ではありませんが、仮契約については問題なく行うことが出来ます。その辺りの土は全て私が契約済です。もう逃げ場はありませんよ?」



「…やられたな」



精霊との仮契約は原則早い者勝ちである。

仮契約済の精霊は、その契約が履行されるまでは他の命令を受け付けない。

つまりボタンは、俺が今から土精と仮契約をして防ごうとしても無駄だと言っているのだ。

…先程の土槍が思った以上に少なかったのも、恐らくはそのせいかもしれない…


中々簡単に言ってくれたが、これはそんじょそこらの術士には不可能な芸当である。

確かに、一定範囲を管轄としている精霊と仮契約を結べば、別段難しいことではないのだが、普通ならその範囲はごく限られたものになる筈なのだ。

にも関わらず、ボタンは俺の周囲一定範囲を全て契約済の状態にしているらしい。

中々に恐ろしい話だ。なにせこれくらいの範囲だと、仮契約している精霊の数は20を下らないはず…

優れた術者であればある程、同時に結べる仮契約の数は増えるようだが、20以上ともなると異常と言っていいレベルだ。

さすが、上級術士の称号を持つだけのことはあるな…



「上官を切り刻む趣味はありませんので、出来れば降参して頂けると助かりますが…?」



「…中々に魅力的な意見だが、断らせてもらおう」



「…それでは仕方ありません。カンナに手厚く治療してもらうと良いでしょう。刻みなさい、水せ…!?」



ボタンが瞬きする刹那、その僅かなタイミングに合わせ、俺は一気に加速していた。

恐らく、ボタンが俺を見失ったのはほんの一瞬だったに違いない。しかし、それで十分であった。



「さて、出来れば降参してもらえると助かるが?」



先程の言葉をそのまま返すように、俺は告げる。



「…私達にまでそんな奥の手を隠していたとは」



脚に魔力を集中し、破裂させる。

そして大気の精霊の力により、空気抵抗を極限まで減らす事で得られる爆発的な加速力。

こそが、ルーベルト達の扱う高速移動の正体である。


会話の最中、俺は密かに魔力を練り、加速のタイミングを見計らっていた。

この移動方法は非常に燃費が悪いため、俺の魔力では連続使用することは不可能だ。

だからこそ、俺は魔力を読み、瞬きという一瞬のタイミングを逃さず利用したのである。


俺は返答を急かすように、ボタンの腹部に触れた掌に力を込める。



「…参りました。私の負けです」









初戦からいきなり切り札の一つを切らされたのは痛手であったが、二戦目は無難に勝利することができた。

相手は荒神の兵士であり、実戦経験もそれなりにあるようだったが、残念ながらリンカ達には遠く及ばないレベルであった。

どうやらあの程度であれば、力を温存しても勝てるくらいに、俺は成長していたらしい。

俺もゾノ程ではないが、多少の劣等感があったため、この結果はそれなり励みになる。

さて、そのゾノは…



(お、どうやらしっかり勝ち抜いているみたいだな!)



まるで自分の事のように嬉しく思い、ついつい顔に出そうになる。

しかし、同時に視界に入った例の女の姿に一瞬で気持ちが引き締められる。

どうやら、彼女もまた勝ち抜いているようだ。…まあ、負けるとは露程にも思っていなかったが。



『お集まりの皆様方、お待たせしました! 今こちらにいる方々が、明日の三回戦に勝ち上がった強者達となっております! これより、明日の対戦表を発表しますので、しっかりと確認ください!』



既に大会は二回戦行われており、各自の情報などは出回っていると言っていい。

それ故に、今回はむしろ対戦相手を発表した上で、戦略込みで戦いに臨めという趣向らしい。

俺的にとってはその方が勝率を上げることが出来るため助かるが、闇討ちとか発生しないだろうな…?

いや、この大会の性格上それは無いか…。まあ可能性は0ではないが、恐らく低いだろうと思う。

それに、ソウガが関わっている以上、その辺に抜かりがあるとは思えない。



『では、これより対戦表を張り出します! 各位しっかりと確認の上、対策を講じて明日に臨んでください!』



同時に、大きな紙が垂れ幕のようにして広げられる。



(ウチのメンツがやたらと目につくな…、もしかして、半数近いんじゃないだろうか…? さて、俺の名はっと…、げぇ!?)



俺は自分の名の隣に書かれた名前を見て仰天する。

そして、どれと同時に背中をつつかれ、恐る恐る振り返る。

そこには…



「トーヤ、明日はよろしくお願いしますね? もちろん、全力で」



レイフの森において、間違いなく最高クラスの戦力を誇る美しい女戦士、イオが笑顔で立っていた。





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