第157話 武闘大会本戦 開始
更新再開です。今週、来週は通常運行で行けそう。
問題は再来週以降ですが…
昼を過ぎた頃くらいに、武闘大会の予選は開始された。
参加人数も多いため、予選は数カ所で同時に行われている。
それは地下演習場だけではなく、本戦に用いられる場外演習場でも行われるらしく、全ての試合を観戦するのは難しかった。
しかも、誰がどの場所で、誰が試合しているのか把握出来ていないため、狙った試合を見れるかどうかは若干運に左右される。
『縁』が結ばれているスイセン、リンカ、イオ、ライの場所はわかるのだが、この四人に関してはあまり観戦する気がなかった。
四人の実力を信頼している、というのもあるが、今回はそれ以上に見ておきたい試合があったためである。
特に、あのファルナと名乗った女…
あの謎の女の実力だけは確かめたかったのだが、残念ながら彼女の試合を観戦することは最後までできなかった。
しかし、収穫が無かったわけではない。
俺の知らない荒神の戦士たちの戦闘スタイルも確認出来たし、もう一つに見ておきたかった試合も見ることが出来た。
「お疲れ、ゾノ」
「トーヤか…、見ていたのか?」
やや汗ばんだゾノに対し、俺はあらかじめ用意しておいた清潔な手ぬぐいを渡す。
ゾノは助かる、と軽く礼を言って手ぬぐいで顔を拭った。
「危なげない勝利だったな」
「ああ…、練度はウチの獣人連中よりも低かったからな」
少しは手応えを感じたのか、その表情からはやや険が取れたように思える。
「だから言ったろ? ゾノは自分の実力を卑下してるって。実際、ゾノの実力は俺も大したものだと思っているぞ?」
「…そう言ってくれると有り難いが、あまりに周りが化け物じみているからな。自信などもてよう筈もないだろう…」
「それはなぁ…。俺だってその気持はわかるよ。ただ、そのことに関しては別に悪いことではないんだし、心強いと思って開き直っているけどな」
なんだかんだ、ウチの連中は優秀な戦士が多い。
この前戦場を体験し、一般的な兵士の実力というものを体感したからこそ、自分の仲間達の実力がはっきりと理解できた気がする。
部隊長を含むウチの幹部クラスの者は、ほとんどが一騎当千という言葉が過言ではない程の実力者だ。
そんな中でゾノは、実力こそ優秀な部類ではあるが、派手な戦績を出すタイプじゃないのは確かだ。
恐らく、そんな気負いから肩身の狭い思いをしているのだろう。
…俺も似たようなものだし、同じような気持ちをいつでも抱えている。
しかし、そんな環境だからこそ、ゾノは自分に対する評価が必要以上に厳し目になっていると思う。
実際、ゾノの実力はウチの中でも上から数えたほうが早い程には成長しているのだ。
俺はこの大会で、その実感を得て貰いたいがため、ゾノに大会参加を強制したのだ。
「俺から見れば、トーヤも十分化物だがな」
「…俺は化物なんかじゃないさ。少しズルはしているけどな。…正直、それが無きゃ俺は間違いなくレイフ最弱の男だよ」
「笑えない冗談だ…。トーヤが最弱なら俺など…」
「だから、もしそう感じるのだったら、それは俺のズルみたいに、何かの要因があるのさ。それは努力だったり、工夫だったり、それこそ卑怯な手でもいい。何かしらの手札を蓄えれば、あるいは魔王にすら勝てるかもしれないぞ?」
まあ、魔王に勝つのは正直、本当に無理だと思うけどね!
「………」
「まあ、そんなワケだから、ゾノも頑張れよ? 俺もこの大会は本気で挑むつもりだ。身内の誰と当たっても、本気で勝ちに行くから覚悟しておけよ?」
「…お手柔らかに頼む」
◇
まだ日暮れ前だが、どうやら予選の方はスムーズに終わったらしい。
本戦もすぐに開始されるらしく、各選手はすでにそれぞれの控室で待機している。
まだまだ人数も多いため、複数ある控室もほぼ満員状態であり、収まりきらなかった選手は外に溢れ出しているようであった。
まあ、正直これに関しては仕方ないと言わざるを得ない。
何故ならば、元々数百名に及ぶ人数の参加者がいたワケで、いくら予選を二戦やったとしても、まだ百名以上の選手が残されているからである。
それ故に、本戦の一、二回戦も予選と変わらず、複数箇所で行われることとなったのだが、地下演習場の控室は数多く作られているわけではない為、こんな状態になってしまったのだ。これであれば、予選同様控室など使わなければ良いのに…
あらかじめ控室で待機できた俺は、外にあぶれることなく部屋で待てるが、これならむしろ外の方が助かったかもしれない。
――地下演習場 控室
かなり手狭とはいえ、同じ控室にはレイフの森のメンツもそれなりに居るため、変な緊張もせずリラックスできている。
竜人とトロールというガチムチなものだらけだったので、やや暑苦しいが…
生傷がチラホラと見られる彼らを見ると、少し気の毒な気分になる。
予選参加者は、基本的に連戦になるため、満足な休憩が取れない可能性もあるためだ。
…まあしかし、同情はするが遠慮するつもりはさらさら無い。
シード扱いのようなものだし、俺はありがたくその有利を利用させてもらおう。
ちなみに、他の仲間たちについても多くの者が勝ち進むことが出来ているようである。
残念ながら何名かは予選落ちしてしまったが、ほとんどが身内同士での潰し合いだったらしい。
目の前で緊張した面持ちでソワソワしているドウドも、先程相方のライドを下して本戦に勝ち残ったそうだ。
「緊張しているみたいだな、ドウド」
「は、その、はい! まさか自分が勝ち残れるだなんて思っていなかったので!」
「そんな事無いさ。ドウドは朝の練習にも毎日参加しているし、しっかり努力しているのも知っているよ。同じように努力していたライドについては運が無かったと思うがね…」
「い、いえ!? そんな事は! 俺なんて、セシアお嬢ちゃんに比べたらまだまだで!」
「…ん? もしかして、セシアの試合を見てたのか?」
「はい! 俺ら若手には良い刺激だろうと、ソク隊長に勧められまして! でも、本当に見られて良かったです…。だから俺もライドもやってやるぞって…」
ソクも中々良い判断をするな…
あの試合はドウド達若手でなくとも、良い刺激となる試合であった。
俺だってセシアのひたむきさや、純粋さに当てられた口だしな…
「でも、ライドのヤツ、ズルいんですよ。「俺とお前じゃ、お前の方が強いんだし俺は棄権するよ」とか言って戦いを避けたんです! アイツが言うほど、俺達に差なんて無いっていうのに…」
「…あれ? もしかして今緊張してるのって、その事を気負っているとかか?」
「そ、それもあります…。一戦目は実力で勝ちましたが、二戦目はタダで勝ちを拾ったようなものですし…。アイツが戦ってくれてたら、こんな思いもせず、堂々と挑むことができたっているのに…」
ふーむ。なんというか、真面目だなドウドは。
俺なんかは同じ立場だったら、やったぜ程度にしか思わないだろうに。
まあ、譲ってくれる友に引け目を感じるのはわかるが、友であれば逆にその気持を察せられる気もする。
「俺はライドの気持ちもわかるけどな~」
「そ、そうですか?」
「だって、君たちの実力は伯仲なんだろ? それはどちらが勝ってもおかしくない戦いになるって事だ。そうしてどちらかが勝ったとして、果たして次も勝てるかな?」
「それは…」
「だから、ライドはドウドに勝ちを譲ったんだよ。実力伯仲の君が勝ち抜けば、自分の実力の証明にもなるからね」
「っ!?」
「つまり言い換えれば、ライドはドウドに自分の勝利を託したんだよ」
「そんな事を、アイツが…」
まあ正直なところ、これは俺の予測でしか無いし、実際は面倒だっただけかもしれない。
ただ、先程のセシアの試合を見てやる気を出したというのが本当なら、その可能性は低いように思える。
そして、本当に自分よりドウドのことが上だと思ったからこそ、彼に勝ちを譲ったのだろう。
それはきっと…、戦うよりも覚悟のある行為だ。
「トーヤ様! 会場へお入りください!」
その時、係りの者から声がかかる。
「どうやら俺が先みたいだね」
腰を上げ、係りの者のもとへ向かう。
「あ、あの! トーヤ様!」
そのまま係りの者に続いて会場に向かう俺を、ドウドが呼び止める。
「ん?」
「その…、ありがとうございます。俺、アイツの分も頑張ってみようと思います! だから、トーヤ様もご武運を!」
「ありがとう。行ってくるよ」
俺はそう返事をして、再び会場へ向かい歩きだす。
相手が誰だかは対面するまでわからない。願わくば、いきなりタイガだったりするのだけは避けてほしい…
「おや、トーヤ様が相手ですか…」
「ボタンか…」
会場に入り、目の前に立っていたのは、リンカ隊の術士ボタンであった。
どうやらいきなり身内を引いてしまったらしい。
彼女は優秀な術士であり、同時に高レベルな格闘戦もこなす紛うことなき強敵である。
「いつも大変お世話になっておりますが、本日は本気でやらせて頂きましょう」
「ああ、望むところだよ…」
俺だって本気でやるんだ。全力でかかってきてもらうのが筋である。
しかし…
できればお手柔らかに頼みたいものである。