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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第155話 ライカ 対 エステル②



ほぼ同時に、動き出す二人。

その速度は凄まじく、客席から見ている俺の目からも、二人の姿は霞んで見えた。

接触の度に姿がはっきり捉えられるのは、まるで俺の知識にある漫画の闘いのようであった。



『りょ、両選手とも凄まじい速度です! 正直、目で追うのがやっとで、どんな攻防が繰り広げられているかわかりません!』



『速さはエステルちゃんの方が上、でも反応速度はライカ君の方が上…、もしエステルちゃんにセシアちゃんと同じ防御技術があれば結果は明白だったんだけど、エステルちゃんにはまだそれは無いみたい…。結構良い勝負してるわ』



『み、見えてるんですか!? フソウ様!?』



『まあ、ね…。でも、普通の状態じゃ細かい動きなんて見えないわよ? 私もライカ君と同じ事してるから見えてるだけだし』



『ライカ選手と同じ…? ですか?』



『そ。部分獣化。目の周囲だけね』



『ぜ、全然気づきませんでした! なんとライカ選手、前の試合でセシア選手相手に見せた部分獣化を行っているようです!』



『それだけじゃないわ。さっきと違ってちゃんとコントロールされてる。まあ、余力が残されてなかったからこそだとは思うんだけど、それでも大したものよ? 本当にね…』



さらっと言ってのけたが、フソウ様は自身も部分獣化を使っていると言った。

獣化の使い手は荒神にも数える程しかいないらしいが、フソウ様はその一人に数えられるという事である。

ただ者では無いと思ったが、獣化まで扱えるレベルだとは、正直想像していなかった…


しかも、獣化には大きな魔力の動きが伴うはずなのに、俺はそれを感知出来ていない。

それはつまり、感知が出来ない程スムーズに獣化をしたという事であり、フソウ様の熟練度の高さが伺える。



「おいおい、トーヤ! やっぱあの娘もやべぇな! 今でもあんだけ強いってのに、まだまだ伸びしろがありやがる! チクショウ…、あと100年もありゃ良い勝負できそうなのになぁ…! 早く100年経たねぇかなぁ…」



キバ様がやる気満々である。

マジでやめて欲しい…

100年も経ったら俺は生きていないだろうし、止めようが無いからな…

まあ正直、最近寿命に関しては自信が無くなってきているけどね。

なんか俺、人族にしてはやたら頑丈な気がするしなぁ…


しかし、あっさり100年後も生きてる宣言をしているのは兎も角、伸びしろがあると看破している辺りは流石と言える。

先程フソウ様が、エステルちゃんにはまだ(・・)それは無い、と言ったように、エステルには伸びる余地が多分に残されている。

闘仙流というくくりの中で、防御技術に関しては師範代クラスに達しているセシアに対し、エステルの技術は未熟と言える。

が、それはセシアが類稀なほど早熟なだけであり、エステルもいずれはその領域に達するだろう。

残酷なようだが、時間が経てば経つほど、セシアとの実力差は開いていくと言っていい…


ましてや、エルフは長寿である。時間があるという事は、それだけ色々な事を学べるという事だ。

そう言った意味で、エステルが真に成熟した時、彼女は誰よりも強い戦士になっているかもしれない。

それこそ、キバ様が言うように、100年経てば魔王と対等に渡り合える力すら得られるかもしれなかった。



「…パパ、やっぱりエステルちゃんは、凄いね」



「…ああ。でも、セシアだって負けていないぞ? なんて言ったってセシアはまだ0歳だからね。きっとセシアが7歳になったら、今のエステルより間違いなく強くなれるよ」



嘘偽りなく、俺はそう思っている。

セシアの早熟さも、また才能である。

成長スピードだけで言えば、セシアもまた異常と言っていいレベルであり、もしこのまま成長を続ければ、数年以内にエステルを超える事は十分に可能と言える。



「…うん。頑張る! だってセシアも、パパと一緒に戦いたいもん!」



「私も!」



「もちろん、私もです!」



同時に抱き付いてくるイーナとアンナ。

それに対し、タイガと月光が生暖かい視線を送ってくる…

おい、コッチ見てないで試合を見てろ! と叫びたかったが。小心者の俺には出来なかった。



「それにしても、セシアが強くなりたい理由って、まさかそれなの?」



「そうだよ? セシアだけじゃなくて、多分みんなそうだと思うけど?」



そうなのか…。何と言うか、ここまで慕われるとなんともむず痒いな…

それ程良くしてやれているとは思っていないので、妙な居心地の悪さを感じる。

そんな俺を察してか、アンナが優しく背中を撫でてきた。



「トーヤ様は自己評価が低すぎです。もう少し、堂々としていても良いと思いますよ?」



「そうは言ってもなぁ…」



これはほとんど性分のようなものである。

身体能力の劣る、人族故の劣等感みたいなものあるしね…



「それよりトーヤ様、この闘い、どう見ますか?」



俺の言い分を聞くつもりが無いのか、話を切り替えてくるアンナ。

俺もこのやり取りを続けるつもりは無いので、それに乗る事にする。



「現状はほぼ互角、しかし、ライカ君が徐々にエステルの動きに慣れつつある。現に少しずつだが、エステルを捉え始めている」



エステルの方が速度は上、とは言ってもその差は僅かでしかない。

どんなに凄まじい速度で動いているとしても、同程度の速度で並走した場合、その姿を視界に収める事は容易となる。

そうなると、方向転換するなどして、相手の視界を切る必要があるが、ライカ君の反応速度がそれを許さない。


並走し、打ち合うこと数合、ついにライカ君の斬撃がエステルに届く。





「クッ…!」



うめき声が漏れ、エステルが吹き飛ぶ。

斬撃自体は剛体で防いでいるが、体重の軽いエステルでは衝撃を支えきれなかったのだ。


エステルは追撃に備え、瞬時に体勢を立て直すが、予想に反してライカ君の追撃は無かった。



「…ふぅ。…次は、当てる」



唇を読んだだけだが、ライカ君の覚悟がこもった声が聞こえたような気がした。

ライカ君は、追撃が出来なかったのではない。しなかったのだ。

先程の一撃で、完全にエステルを捉えたのだろう。だからこそ、呼吸を整えた。

次の攻撃で、決めるつもりなのだろう。



「…本当に、強いですね。ライカさん」



「君もな。さあ、僕は次で決めるつもりだ。全てを出さないと、君は負けるぞ?」



ライカ君の言葉に、エステルは驚いた表情を見せる。



「気づいて、いたんですか?」



「見くびらないで貰おうか。君が攻撃をする瞬間、何度か迷いが見えた…。全力出してくれと、言った筈なんだがな」



エステルは気まずそうに目線を逸らし、そのまま会場を見渡すように確認を行う。



「…全力、でしたよ? でも、出せていない技はありました。その、禁止されていたので…」



済まなそうに呟くエステルを見て、ライカ君は面白そうに笑う。



「クックッ…、それは僕も一緒さ。獣化は禁止されていたからね。でも、君たちに勝つには、その禁を破るしか無かった。だから、君も手があるのであれば使うといいさ。そして後で一緒に怒られよう。何、悪い事をして怒られるのも子供の仕事さ…」



「そう、かもしれませんね…。凄く怖いですが、やります…!」



「受けて立とう! 来たまえ!」



ライカ少年が構える。

格好いい少年だなぁ…。思わず見惚れる程様になる姿だ。

しかし、エステルの不穏な発言も気になり、複雑な心境である。

あの怖がり方は、間違いなくルーベルトに対してだろう。一体、何をする気なんだ…



エステルが構える。

闘仙流の構えでは無い。

いや、そもそも、戦闘の構えでは無い気がする。

あれは、そう、走る為だけの構えのように思える。


エステルが駆けだす。

同時にライカ君も駆け出し、やがて並走が開始される。

ライカ君の狙い通りの動きだ。


しかし次の瞬間、エステルは凄まじい破裂音と共に一気にライカ君を置き去りにする。



『ひぁ!?』



その凄まじい音に、ヤマブキさんが可愛い声が上げる。

近くで見ていた監視者達は、その音に度肝を抜かれたように腰を抜かしていた。


そしてその最も近くに居たライカ君は、三半規管をやられたのか、フラフラとしていた。

やがてどの揺れが前に傾き、緩やかに倒れ込む。

その直前、エステルがライカ君の事を抱きとめる。

一見、ここまで戦った戦士を称えるような行為に見えるが、実の所それは違った。


彼女の手のひらは、ライカ君の胸に当てられていた。



「み、見事…」



辛うじてそれを知覚したライカ君の口から、そんな台詞が漏れた。

同時に流し込まれた魔力により、ライカ君の意識はそのまま沈んでいった。






子供の部はこれで終わりです。

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