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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第149話 セシア 対 ライカ①



紅姫様ご一行と共に、なにやらVIP席のような場所に案内される。

そこには、既に酒盛りを始めている魔王キバ様とソウガ、そしてサイカ将軍が待っていた。



「…サイカ将軍?」



「トーヤ殿…、もしや、トーヤ殿も捕まったのですか?」



「ええ、まあ…」



どうやら、サイカ将軍はキバ様に捕まったらしい。

まあ、試合に出るのは彼のお子さんであるライカ少年だからな…

解説役としては最適なのだろうけど…



「おっ!? トーヤじゃねぇか! タイガに呼ばせに行ったが、ちゃんと連れてこれたみたいだな!」



なんだ、最初からタイガはココに連れてくる気だったのか…

部屋で言わなかったのは、俺が理由を付けて逃げるのを阻止する為か?

中々に俺の性格を分かっているな…



「親父殿、こちらが羅刹の首領、紅姫殿です」



タイガに紹介され、紅姫が一歩前に出て頭を下げる。



「此度はお招きいただき、誠に有り難うございます。私が羅刹の首領、紅でございます。以後、お見知りおきください」



「おう、一応この亜人領の魔王をやっているキバだ。この前の件は、その、悪かったなぁ! は、ははは…」



あの件はキバ様も流石に反省したらしく、いつになく控えめである。

恐らくはタイガにこっぴどく叱られたに違いない。



「いえ、あの件に関しましては、元々我が国にもたらされた災いが原因です。非は私共の方が大きい…。深く、お詫びを申し上げます…」



畏まる紅姫とキバ様の間に入るようにし、タイガが割り込む。



「親父殿も紅姫殿も、その件はもう終わった事ですし、本日は大会の観戦を楽しもうではありませんか。話によると、大人顔負けの素晴らしい戦いが見れるという事です。なあ、トーヤ殿?」



しんみりとした雰囲気を払拭するよう、間に入るタイガ。

しかし、いきなり俺に話を振るのは止してもらいたい…



「ま、まあ、自分の教え子ながら、セシアもエステルも優秀な子だとは思っていますよ。いや、正直自分の教え子なんて言うのは甚だしいというくらいだったりしますが…」



いや、だって昨日の戦いを見て、一番驚いていたのは、多分俺だと思うしな…

確かに、彼女達に手ほどきをしたのは間違いなく俺なんだけど、その成長を促したのは俺ではない。

彼女達は自分達で努力し、成長したのである。

俺は種を蒔いただけで、それが勝手にすくすくと育ったというだけであった。



「サイカ将軍の息子さんに関しては、こちらにも細々と情報が入ってきていますねぇ。随分とやんちゃなようですが…」



「き、恐縮です…」



ソウガの発言に、本当に恐縮そうに縮こまるサイカ将軍。

まあ、昨日見たライカ少年は確かに、結構厄介そうな性格をしてそうではあったが…



「私としては、そちらのアンナさんで出てくるのを楽しみにしていたんですがねぇ…。残念です。やはり、物足りなかったからでしょうか?」



そう声をかけられたアンナが、俺の後ろに隠れて威嚇を始めた。

俺が遠征中、アンナはソウガに訓練を受けていたらしいが、見事な嫌いっぷりである。

一体何したんだ? ソウガ…



「クックック…、そっちの嬢ちゃんもそんなに強ぇのか? いや~、楽しみだぜ~。まさか、ガキンチョ共の戦いでこんなにワクワクするなんてなぁ…」



キバ様は実に楽しそうである。

大変結構な事だが、頼むから問題は起こさないで欲しいな…



「お、そろそろ始まるみたいだぜ…?」



演習場の中心に、大会監視者達が集まる。

先程別れたカンナさんもいるようだ。

娘達が戦うのを見るのは、やはり不安を感じざるを得ないのだが、彼女が居れば少しは安心感が増すな。

昨日の試合で、彼女に対する信頼感はかなり増しているのであった。









『さあ! まもなく準決勝第一試合が開始されます! 司会は先日に引き続き、私ヤマブキと! 本日も解説に来て下さったフソウ様がお送りいたします!』



『昨日はあまりの驚きにほとんど解説出来ませんでしたからねぇ…。今日はしっかりとやらせて貰いますよぉ!』



『ええ! 先日の不甲斐い姿をお見せしてしまいましたが、今日は頑張らせて頂きますので、皆さまどうぞよろしくお願いします!』



そういえば、昨日は二人とも、大した実況をしていなかったな…



『さて、早速ですが第一試合の組み合わせが発表されております! 第一試合はセシア選手 対 ライカ選手です! まずは先日、ハイオークの少年相手に見事な戦いを見せてくれたセシア選手の入場から!』



瞬間、会場の東側で盛大なセシアコールが巻き起こる。

一体なんだと見てみると、その一帯にはオークの一団が出来ており、何やら応援団のような雰囲気を醸し出していた。

どうやら、昨日の一件を聞きつけた荒神周辺のオーク達が、こぞって応援に駆け付けたらしい。

セシアと彼らには接点などまるで無い筈なのだが、それでもあれだけの人数が集まるというのは凄い事のように思える。



『す、凄い応援ですね、セシア選手…。荒神近辺に、あんなにオークって居ましたっけ?』



『居たのかもしれませんねぇ…。彼らは隠れ住んでいる者も多いと聞きますし。それがセシアちゃんの応援の為にだけに出て来たって事ですから、余程皆さん、セシアちゃんに期待しているんでしょうねぇ…』



『期待、と言いますと?』



『だって、セシアちゃんはオークでしょう? オークと言えば、今まで亜人種の中じゃ弱いとされていた部族なのに、セシアちゃんはあの年齢でハイオークを倒すほどの実力を見せた。種族における未来の英雄、そんな期待が彼女には込められているのじゃないかしら…?』



フソウさんの言っている事は、ほぼ間違っていないように思える。

応援する彼らからは、期待、希望といった感情が色濃く見える。

セシア自身、その応援に気負っている様子は無いようだが、後々の事が心配になる。

…しかし、セシアは『レイフの森』の住人であり、娘のような存在だ。

もし、彼らが変な期待をセシアに押し付けようとするのであれば、それを払いのけるのは俺の仕事である。



『成程…。オークの皆様方にとっては、種族全体のイメージを払拭出来るかもしれない期待があるワケですね! あんな小さな子に大きな期待がかかるのは少しどうかなとも思いますが、セシア選手には頑張ってもらいたい所ですね!』



ふむ、司会の彼女はそれなりにまともな考え方をしているようである。

変な事を言い出さないか心配ではあったが、どうやら杞憂だったようだ。



『続いてライカ選手の入場です! ライカ選手は、荒神が誇る最速の部隊を統率する、サイカ将軍の息子さんだという事です! 先日も見事な一撃にて、対戦相手を一瞬にして倒してしまいました! こちらも注目の選手です!』



『そうですね、サイカ将軍と言えば文武兼備の素晴らしい将軍です。その実力はこの荒神でも上位に入る事は間違いありません。その息子さんだというのですから、ウチのおじ様方からの注目はかなりのものだと思いますね~』



ハードルを上げていくなぁ、フソウさん…

それだけ彼女も注目しているという事だろうか?




―――




「君の試合は先日見させてもらったよ。中々見事なものだったが、今日も上手くいくとは思わない方がいい」



「? 誰かは知らないけど、セシアは誰が相手でも全力だよ?」



「辺境の出じゃ僕を知らないのも無理は無いさ。ただ、同じ世代に越えられない壁があるという事は覚えておいた方がいいな…」



「…よくわからないけど、セシアが勝つんだから!」



「話の通じない蛮族はこれだから…。まあいい、身の程を思い知らせてやるさ…」



―――




ここからでは二人が何を話しているのか分からないが、アンナのお陰である程度の感情模様は理解できる。

どうやらライカ君が何か挑発のような事を言い、それをセシアが理解しなかった故に、ライカ少年が怒っているといった感じのようだ。



『さあ、選手同士で何やらやり取りがあったようですが、宣誓や交渉の類ではなさそうですね! では、第一試合を始めたいと思います! 両者構えて………、始めぇ!!!!』



合図と同時に、開始を告げる鐘が鳴る。

そして、皆の視線が集中する中、ライカ少年の姿が―――掻き消えた。


その動きを追えた者が、果たして会場に何人居ただろうか?

それ程の速度で、ライカ少年はセシアの背後に回り、剣を振り下ろしていた。


剣はセシアの背を切り裂き、そのまま石畳を割って砂煙を上げる。

あまりの速度、そして破壊力に観客の誰もが言葉を失っていた。





「…サイカ将軍、アンタ、自分の子供に何を仕込んでるんですか?」



「…その、何と言うか、息子が私の教えを面白いように吸収していくので、嬉しい反面、少しムキになって色々と教え込んでしまい…。も、申し訳、ありません…」



冗談では無い。あんなものウチの大人衆でもまともに防げるかどうか怪しいレベルである…



「全く…、ウチの子じゃ無ければ死んでいてもおかしくありませんよ?」



―――




砂煙が吹き散らされ、二人の姿が現れる。



「驚きだ…。まさか、今のを躱されるとはね…」



「セシアも驚いたよ…。対策を練っていなかったら、今ので負けちゃってた…」



「ほぅ? この速度に対策を練らなければならない相手でも居たのかい?」



「うん、私がこの大会で優勝する為に、絶対勝たなきゃいけない子がいるの。でもその対策は、君相手でも使わなきゃいけないみたいだね…」



「クック…、退屈な大会だと思っていたら、とんだ逸材がいたものだ…。面白い、君には僕の技の実験材料になる価値があるようだね!!」



セシアは拳に力を入れ、眼前の敵に集中する。

バーグ君と対峙した時も、本気だったことに変わりは無いだろう。

しかし、今回はあの時程の余裕が表情に感じられない。少なくとも、バーグ君よりも強敵であることは間違いないようだ。



(頼むから、無茶だけはしないでくれよ…)




爪が食い込むほど強く拳を握り込み、俺はセシアの勝利よりも、無事を祈るのであった。




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