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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第1章 レイフの森
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第16話 変わり者の女剣士 イオ

改稿済です。

話数が狂っていますが、話の流れはそのままです



「…ふむ」



 イオは倒れ伏したトロールを見やり、続いて周りを見渡す。



「ある程度の内容は聞こえてきましたが、貴方たちがこの男…、ギイを不意打ちで襲ったという事で間違いないようですね?」



 そう言ってイオは、正面に立つ俺に向き直り、剣を構えなおす。



「この男の頭の中には戦う事しかありません。故に、ゴウに従っていれば、それだけを考えていられる等と抜かす愚か者でした。…ですが、戦闘そのものに懸ける熱意や純粋さは評価できる男でした。それに対し、このような仕打ちを…………、おかしいですね? 少しも怒りがこみ上げてきません。むしろ、スッキリしたような…。何故でしょうか?」



「何故、と言われても…」



「…まあ、良いです。閉じ込められていた憂さも晴らしたいですし、ついでにギイのかたき討ちをしましょう」



 そっちがついでなの!?

 というか、ギイさんは別に死んでませんけど!?



「ちょ、ちょ、待ってください! 俺達はガウに言われて貴方を助けに来たんですよ!」



「ガウが? ……嘘ですね。ハァッ!」



 イオは一瞬考える仕草をしたが、深く考えるのが面倒くさかったのか、すぐに放棄して斬りかかってくる。

 強烈な殺気が込められた一撃を、俺はなんとか受け止める。

 何の迷いも無い一撃に、流石に少し冷や汗をかいた。



「む? なんですかこの棒は? 私のアントニオで断てないとは、生意気な棒ですね?」



「し、知り合いが是非にと提供してくれてね…。というかアントニオって…、もしかしてその剣の名前なのか?」



「そうですよ? しかし、アントニオも鈍ったものです…。この程度の棒も断てないなんて…、もしかして老いましたか?」



「…できれば、そのアントニオさんを退いてくれませんかね? 色々と説明したいし、出来れば話を聞いて欲しいんですが」



 俺は出来る限り大声にならないよう、絞り出すように声を出す。



「…何やら面倒くさい事情がありそうなので、正直考えたくありません」



「そこは考えましょうよ…。女性なんですし、慎み深くというか…」



「…? 私は戦士です。性別など関係無いと思いますが?」



 そのまま、より強く剣を押し込んでくるイオ。

 より近づいた事ではっきりと見えたその顔は、やはり美しかった。

 こんな美しい女性が、この猛獣のような膂力を出しているとは、とてもでは無いが信じられない。

 というか、信じたくない…

 いや、そもそも、今の話に戦士かどうかは関係ないぞ…?



「慎み深さに…、戦士だとか関係無いでしょうが!」



 俺はありったけの力を振り絞って、イオの剣を押し返す。



「む…、関係無いとは?」



 俺の言った事が理解出来なかったのか、今度は先程と違い問答無用に攻めてはこなかった。



「だって、実際に関係無いだろ? それはただ単に、戦士である事を言い訳にしているだけだよ…」



「…む、確かに。では、言いなおしましょう。まず、私は戦士となる上で、女など捨てています。それから、慎ましくも無ければ、考えるのも得意でないので、聞きたくありません」



 イオは堂々と言い切った。

 ここまで清々しく開き直られると、凄く複雑な気分だ…



「いやいや…、さっき面倒って言ったじゃないか…。得意不得意関係無く、面倒なんでしょう? あと、捨てただなんて勿体ない事言わないで下さい」



「…むむ、勿体無いとは?」



「いや、だって勿体無いでしょう? それだけ美人なのに女を捨てたとか…、他の女性が聞いたら絶対怒りますよ?」



 これだけの美人がそんな事言い出したら、世の一般的な女性からすれば大ヒンシュクものだろう。

 いや、魔界の世情は知らないけどさ…



「…そうなのですか? あまり気にした事はありませんが」



「気にしてください…」



「ふむ…」



 彼女は少し考え込むと、構えていた剣を下ろした。



「なんだか毒気を抜かれてしまいました。良いでしょう、話を聞きます」



「…良かった。じゃあ、まずはこれを見てくれ」



 俺は懐から、ガウに託されていた物を取り出す。



「暗くてよく見えません」



「ほら、渡すから、しっかりと見てくれ」



 イオは素直に従い、俺からそれを受け取る。



「これは…、竜牙? つまり、私が長になれと?」



「え…、それってそういう意味があるの? …いや、待て待て、それならガウが持っているのはおかしいだろ?」



 ガウめ…、何がこれを渡せばわかるだよ。

 そんな意味があるとか、せめて説明しておいて欲しかったぞ…



「それは、ゴウが捨てたからですよ。長の証を捨てるなんてとんでもないと、ガウが拾っていましたが」



「…それって、最早長の証って意味は無いんじゃ?」



「そうですね」



 じゃあ、さっきの反応はなんだったんだよ!?

 俺はツッコミたくなる気持ちをなんとか抑え込む。

 彼女の独特な雰囲気に流されると、話が進まなそうだ…



「…しかし、これがあるという事は、先程言った内容にも信憑性がありますね」



 どうやら、一応は納得してくれたようだ。

 なんだか物凄く疲れたが、とりあえずは良しとしよう…



「それにしても、ガウはやっと動く気になったのですね。全く…、こうなる事などとうの昔に分かっていたというのに…。うじうじと悩んで、本当に面倒くさい男です」



 いや、君も少しくらい悩んだら? と思ったが口にはしなかった。



「それで、どうするのです? 私を助けに来たという事は、ガウを討つつもりなのでしょう?」



「ああ、そのつもりだ。…ただ、俺達だけではガウを討つのは困難だ。出来れば、イオさんの力を貸して欲しい」



「…良いでしょう。ギイも含め、お馬鹿な同胞達には、少し仕置きが必要だと思っていましたので」



「助かるよ。今、もう一組の部隊がオーク達を解放しに行っている。それと合流してから、ゴウを討ちに向かう予定だ」



 捕まっているオークは女子供が中心らしいが、オークは女性も男性に劣らない力を持っているそうだ。

 矢面に立たせるつもりは無いが、戦闘には協力して貰おうと思っている。



「それは良いですが、勝てる算段は有るのですか? 正直、オークがいくら居たところで、ゴウにとってはなんの障害にもならないでしょう。私でも、まともにやりあえば勝利は困難です」



 まともにやりあえばと言う事は、裏を返せば、まともにやらなければ勝てる見込みがあるという事だ。

 頼もしい話である。



「そこは上手いこと作戦でなんとかするつもりだ。でも、その為にはまず、ゴウの傍にいる人質を解放しないといけない」



 ソク達の話では、何人かの女子供はゴウに連れ去られてしまったそうだ。

 悪いようにはしない、と言っていたそうだが、要は人質扱いなのだろう。



「…人質ですか。そんな事までするとは…、本当に堕ちたものですね…」



 …あれ、イオは人質の事を知らなかったのか?

 …気になる所ではあるが、今はそれを追及している時間は無い。



「…ともかく、まずは東へ向かおう。日が昇りきってしまえば、手遅れになるからね」





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