第146話 サンガの出身
――――荒神城・地下演習場
試合会場である地下演習場は、昨日以上の盛り上がりを見せていた。
恐らく、先日の試合の噂を聞いて集まったのだろうが、客層が大分変わっている。
具体的には、より荒々しいというか、ガラが悪くなっていた。
「これは…、随分と様変わりしたな…」
先日までの運動会のような雰囲気とは打って変わり、これぞ正に武闘大会といった雰囲気である。
賭け事も相変わらず行われているようであるが、その規模も金額も文字通り桁が違っているようだ。
「おや、トーヤ様ではありませんか」
「ん…? ああ、サンガか。なんでこんな所に?」
サンガは、かつてバラクルに雇われていた獣人系の小人族だ。
今はガラの部隊に所属している。そのサンガが何故この会場にいるのだろうか?
「それはもう、金の為ですよ! 先日は上手い事やって小金を稼がせて貰いましたが、今日はそれを元手にもっと稼げそうですからね!」
目を輝かせて興奮気味に声を上げるサンガ。
しかし、先日上手い事やってって…
「もしかして、昨日の対戦表が盗まれたってアレ、サンガなのか?」
「っ!? な、なんのことですか!?」
いやいや、その反応じゃバレバレだろう…
「隠さなくてもいいよ。別に責める気は無いし。ただ、あまり悪質なのは許容しないぞ? ウチに迷惑かけるなら、容赦なく追い出すからな?」
「こ、心得ております! すいません、どうも昔盗人だった癖でつい…」
全く、その癖で身を滅ぼしたら元も子もないだろうに…
「トーヤ様」
ふにふに、とほっぺたをつつく感触に目線をイーナに送る。
今日もイーナは俺に抱き抱えられていた。部屋を出る際に抱っこしてとせがまれたのだ。
アンナの視線が若干冷たかったが、アンナはアンナで俺の腰の辺りを掴んでそのまま付いてきている。
「なんだい?」
「あのね、サンガおじさんはね、前に集落でも泥棒をしてたの」
「え…、サンガってあの集落出身だったのか?」
「…はい。以前はあの集落に身を置いていました…。手癖の悪さが原因で追い出されたんですがね…」
初耳である。というかおじさん? サンガっておじさんって年齢なのか? どう見ても少年にしか見えないが…
しかし、そうなるとサンガは、あの集落に恨みを持っていたって事か?
だからバラクルに…
「っ!? ち、誓って言わせて貰いますが、アッシはあの集落に恨みなんかありませんよ!? むしろあの件で脅されていたくらいなんですから!」
サンガの話では、サンガは集落を追い出された所をバラクルに拾われたらしい。
その後は暫く小間使いのような事をさせられていたが、事あるごとにあの集落の情報を聞いてくるので訝しくは思っていたそうだ。
…そしてあの事件が発生した。
その時初めて、サンガは自分が利用された事に気付いたが、サンガにはどうする事も出来なかった。
挙句の果てには、お前もこうなりたくなかったら大人しく従っていろと脅され、逆らう事も出来ずに従っていたらしい。
「トーヤ様、サンガおじさんは嘘ついていないと思う」
「ん、なんでそう思うんだ?」
「おじさんはね、お父さんが小物だって言ってたから。集落を出て行く時もへこへこしてたし」
「グフッ! イーナちゃん、信じてくれるのは嬉しいけど、おじさん少し打たれ弱いから、もう少しやんわり言って欲しいな…」
胸を押さえて俯くサンガ。
見た目は少年なのに、どう見ても小物のおっさんにしか見えない仕草だな…
まあ、俺も正直サンガにそういったイメージが浮かばないのは確かだ。悪意のある色も見えないし、信じてもいいだろう。
「しかしトーヤ様、随分とイーナちゃんに懐かれたようですね…」
「まあ、な…」
それにしても懐き過ぎだと思うのだが、自分の中の全てを吐き出したからなのか、話終わった頃にはイーナはこうなっていた。
アンナが言ったように『繋がり』、『縁』が結ばれたのだが、実はこれも能動的に結んだワケでは無かったりする。
イオの時と同じように、特に意識せず触れた瞬間に結ばれていたのだ。
「トーヤ様、大好き」
そう言って抱き付いてくるイーナはとても可愛い…
…じゃない!!! 俺は一体どうなってしまったのだろうか…
「…イーナちゃんに笑顔を取り戻してくれて、本当にありがとうございますトーヤ様…。ヘンリク君とイーナちゃんは、アッシも以前から面識があったのです。しかし、この子達が傷付いているだろうと知りながら、アッシには二人に会う度胸はありませんでした…。その資格も、無いですしね…」
「資格…ね。サンガ、俺は人を助けるとかにはさ、資格なんて無いし、必要も無いと思うぞ? 」
「そうは言いますがトーヤ様…」
人によっては綺麗事のように聞こえるかもしれないが、俺は本気でそう思っている。
そういった場面に直面すると、なんとなく勝手に体が勝手に動くのだから、本能に近いものなのだろう。
「まあ俺の主観を押し付けるつもりは無いがね。ただ、お前がどう思っていても、三人が同じ集落の生き残りという事実は変わらないだろう? それなのに距離を取るなんてのは、なんか悲しくないか? 俺は嫌だな、そういうの」
「トーヤ様…」
「私はトーヤ様がいれば平気! それに、おじさんの真似はするなってお父さんにも言われてたから、あんまり…」
「グハッ!」
しんみりとしかけた空気を打ち消していくイーナ。
昨日までなら考えられなかった事である。サンガには悪いが、俺は声を出して笑ってしまった。
「あ、あの!」
「ん?」
笑っている俺の後ろから急に声がかかる。
振り返るとそこには、先日イーナと戦ったキリル少年がいた。
更新速度が遅いので、あまり大きな声では言えないんですが…
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