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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第145話 我儘な魔王に少しだけ感謝を



――翌日。



結局あの後、俺は演習場に戻る事が出来なかった。

沢山話を聞かせてくれと言った手前もあるが、それ以上にあの状態のイーナを放っておくことが出来なかったのだ。


イーナは俺の想像以上の甘えん坊だった。

最初のうちは俺から尋ねるように話を聞いていたが、途中からはあのねあのねと色んな事を自分から話してくれるようになっていた。遠慮がちだった態度も消え、終始笑顔で話しかけてくる姿は実年齢より幾分幼く見え、とても無邪気であった。


結局、イーナは明け方付近まで俺にべったりで、ようやく寝付いたと安心した瞬間、俺もそのまま寝てしまっていた。

俺も今日は大会だというのに、あまり良いコンディションでは無い。

…まあなんとかなるだろう。



「っ!?」



顔を洗って軽く体を動かしていると、スヤスヤと幸せそうに寝ていたイーナが飛び起きる。

暫し周囲を見渡し、その視線が俺を捉えると、イーナは安心したような笑顔を浮かべた。



「トーヤ様! おはようございます!」



勢いよく飛びついてきたイーナを受け止める。

スリスリと擦り付けられる頭を撫でてやると、イーナはまるで猫のように喉を鳴らす。

これだけの甘えん坊が、今まで抑圧されてきたと考えると心が痛くて堪らない。手遅れになる前に解放できて本当に良かった…



「おはようイーナ…、っ!?」



イーナの頭を撫でながら挨拶をした直後、背後に鋭い視線を感じ、振り返る。



「おはよう、ございます。トーヤ様…」



そこには膝を抱えるように座っているアンナの姿が在った。



「お、おはよう、アンナ…。いつからそこに?」



「トーヤ様が起きる、ほんの少し前からです」



マジですか…。本気で気付かなかった。相変わらずアンナの隠形は凄まじいな…



「そ、そうか…。声をかけてくれれば良かったのに…」



「…あんなに幸せそうな顔をしていたら…、できません…」



そう言いながら、アンナは俺を恨めしそうな目で見てくる。

所謂ジト目というヤツだ。本人は睨んでいるつもりなのかもしれないが、はっきり言って愛らしくしか見えない。



「…アンナ、お姉さま…」



しかし、俺から見てそうでも、イーナはしっかりと威圧感を感じていたらしい。

俺の腰に抱き付いたまま、背後に隠れるように位置を変える。



「………ふぅ、そんなに怯えないで下さい、イーナ。別に怒ってなどいませんから」



「…本当に?」



「ええ、貴方も私にとっては妹のようなものですから…。良かったですね、イーナ。トーヤ様は優しかったでしょう?」



「っ!? うん! トーヤ様、本当に私の話をずっと聞いてくれたの!」



アンナの台詞に、再び笑顔を輝かせて答えるイーナ。

俺は少し棘を感じたんだが、気のせいだよね、多分。



「そうでしょう? 私の時も、トーヤ様は本当に優しくしてくれました。トーヤ様は本当に誰にでも(・・・・)優しい、素晴らしい方です」



「うん! トーヤ様、大好き!」



気のせいではありませんでした!



「ええ、私も大好きです。イーナともしっかり『繋がり』が出来ているようですし、どうかこれからも宜しくお願いしますね、トーヤ様」



見る者の心が洗われるような、素晴らしい笑顔である。

なのに、何故だろう? このソワソワする気持ちは…



「あ、ああ! もちろんだとも! と、所で、昨日の試合は一体どうなったんだ?」



このままではマズイと感じた俺は、話の転換を試みる。



「…まあ、いいでしょう。まず、エステルの相手が棄権により、エステルが勝利。残りの試合は獣人の子供が勝ったようです。一回戦はそれで終わりました」



え…、一回戦てそれだけ? って事は一回戦は事実上、準々決勝だったってことか。

まあ、棄権者続出だったせいだろうけど、半分近い選手が棄権って、ある意味凄いな。

子供の大会なんだから、無理はさせたくないって親の気持ちも有るんだろうけど…



「それで、二回戦は?」



「二回戦は行われていません」



行われて、いない? どういう事だ?

それだけ人数が減ってるんだから、時間的な問題って事は無い筈だが…



「何故?」



「魔王様から直々にお達しがあったそうで、準決勝、決勝は本日行われる事になりました」



アンナの説明によると、二回戦が始まる前にキバ様より緊急の連絡が入り、大会が一時中断されたらしい。

事情は説明されなかったが、結局二回戦以降は本日午前中から行われる事になったそうだ。

それに伴い、俺達大人の部は午後からの試合開始となり、子供の部と同様、二日にかけて行われる事になったという。

そんなポンポンとスケジュール変更して大丈夫なのか? と思ったが、こういった事は今回が初めてでは無いらしく、以前にも数回程あったらしい。その為に、大会の翌日、翌々日は予備日として設定されているらしかった。


予備日については聞いていた為、調整はしていたが、一体どうしてそんな事になったのだろうか?

何か事件があったのかもしれないが、少なくとも俺の耳には入ってきていないんだよな…

何故だろうと考え込んでいると、部屋の扉をノックする音に意識を戻される。

扉越しに伝わってくる威圧感は相当なモノだが、この波長には覚えがあった。



「失礼するよ」



そう言って扉から現れたのは、荒神の右大将にして、魔王の実の息子、タイガである。



「…おや、お邪魔だったかな?」



「あの、冗談でもそういうのやめて下さい…」



この人は真面目そうに見えて、結構このような冗談を好む。

というか、結構好戦的だし、頭に血が上りやすいし、なんだかんだキバ様譲りの部分が見え隠れする人だ。



「ハハハ、すまんね」



「それで、どうしたのですか? わざわざタイガ殿自ら訪ねてくるなんて」



「ああ、大会の日程の件で謝りたいと思ってな。あのアホ親父のせいで迷惑をかけた。すまん…」



そう言って頭を下げるタイガ。

この人に頭を下げられると、恐縮過ぎてむしろ辛いんだよな…



「あのアホ親父って、キバ様ですか? 何があったんです?」



「ん? ああ、聞いていないのか。実は、先日の大会が今日に持ち越されたのは、親父の我儘のせいなんだ」



「我儘?」



「ああ、親父と俺は、大会参加者の業務調整の為、各地で仕事の助勢をしていたのだが、運悪く昨日の大会の話が親父の耳に入ってしまってな…」



ああ、そこまで聞いただけで何となく事情を察してしまった…

つまりキバ様は、今年は子供の部がやけにレベルが高いらしいという話を聞いて、俺も見たい! などと言いだしたのだろう。



「成程…。そういう事でしたか…」



「親父にはひとまず蹴りを入れておいたので、トーヤ殿もあとで一発ぶん殴ってやってくれ。いや、なんなら気のすむまで殴り続けても構わないぞ」



「いや、それは別にいいですよ…。むしろ、逆に助かったかもしれませんしね」



「…そうか? 遠慮せずに殴っても全然問題無いぞ? 頑丈さだけが取り柄だしな」



酷い扱いだなキバ様…

しかし、まあ今回に関しては本当に有り難い話であった。

セシアやエステルの試合を見れなかった事は、非常に心残りだった為、見る機会をくれたキバ様には素直に感謝しておこう。





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