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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
156/282

第143話 イーナ①

短めです。

恐らく、帰宅後に加筆修正を加えます。

→若干修正しました。



正直、危なかった。

この大会監視の女性がいなければ、今頃はイーナは砂漠蚯蚓に飲み込まれていたに違いない。

そして、飲まれていたのであれば、恐らくイーナは命を落としていただろう…


以前、サンジが砂漠蚯蚓に飲まれ、生還した事があったが、その時の彼は酷い火傷を負い、治療に長い時を必要とした。

一流の戦士である彼ですら、それ程の重傷を負ったのだ。未成熟なイーナでは、例え生還出来たとしても重度の障害が残ったに違いない…



「な、何をやっているんだラーダ! 早くソイツを…」



「無駄だよ。このラーダ君にはもう攻撃する意思は無い。頭の良い子だ。君よりも、余程この状況を理解している」



「何を言って…!? え…? なんで…? なんで命令が通らない!? こんな、まさか…、お前、何をした!?」



「命令が通っていないわけじゃないよ。ただ、少し交渉をさせてもらった。お互いの為にね」



以前、バラクルの時にも行った魔獣との交渉。久しぶりだったが上手くいって良かった。


本来、契約済の魔獣から使役権を奪う事は出来ないらしい。

しかし、俺の『縁』の力は契約とは違い、依頼に近い効果を持つ為か、契約と競合せずに精霊に意思を伝える事が出来る。

対象に宿る精霊と、利害が一致する必要はあるが、一致さえすれば契約を介さずに協力を得る事ができるのだ。

はっきり言って、こればかりは『縁』を扱える俺だけが出来る行為であり、このキリルという少年が驚くのも無理は無い。



「交渉…? そんな事が、できるわけ…」



「できるさ。現にさっきから、後ろのシシ豚君も動かないだろう?」



シシ豚は頑丈な魔獣だ。

あの程度のダメージでは起き上がるのに支障は無く、すぐにでも突撃しようとしていたので、予め説得しておいたのである。



「彼も君を守る為に必死だった。だから交渉にはすぐ応じてくれたよ」



「そんな…、馬鹿な…? ティーダまで…。お前は、一体、何者なんだ…?」



ふむ、あのシシ豚はティーダ君というのか。

ラーダ君にしても、ティーダ君にしても、主であるこのキリル君の事を非常に大切に思っているらしく、それ故に交渉は実にスムーズに進める事ができた。これだけの信頼を勝ち得ているという事は、本当にキリル君は彼らの事を大切に扱っていたのであろう。

全く、あのバラクルとは大違いじゃないか…



「君の気持ちは理解できるが、ここで彼らを暴れさせるのが愚かな行為だという事くらい、わかっている筈だ。彼らも、それが主の不利益になると分かっているからこそ、俺の説得に応じたんだよ」



キリル君の表情が複雑に歪む。

魔獣使いの契約は、俺の『縁』の力と類似性のある。つまり、ある程度ならお互いに心情を察せられる可能性が高い。

そんな彼らの心情から、俺が言ってる事に偽りがない事を理解したのだろう。



「ラーガ…、ティーダ…、でも、僕は、ファーガを殺したアイツを、絶対に許せないんだ…」



「ファーガ君なら生きているよ。仮死状態で反応が途絶えてはいるがね」



「っ!?」



恐らくだが、彼女が放ったのは水術なのだと思う。

いや、水術である事は間違いないのだが、あまりに高度な制御がされていた為、ただの水術であると断定できなかったのだ。

あの1アクションで、致命傷を避け、患部を治癒し、恐らくは生命を守る為に仮死状態まで移行させている。それも遠隔でだ。

恐ろしい程の技量である。スイセンが信頼する理由が良く分かる。



「注意深く探るとわかるだろ? 微弱だが、精霊の反応がある筈だ。…すいません、大会監視の方々、彼を解放してやってくれますか? 彼の魔獣が暴れない事は、左大将である私が保証します」



ここぞとばかりに肩書を使わせて貰う。

彼らも納得はしていないだろうが、左大将の名で保証などされたら、それはもう強制に近い。

俺にとっては有難みの無い肩書ではあるが、こんな時くらいは役に立って貰おうじゃないか。


監視者達は数瞬迷いはしたが、特に何も反論無くキリル君を解放する。


解放されると同時に、キリル君はファーガ君の元へ駆け寄った。

何人かの監視者も、キリル君と共にファーガ君の傍に寄り治療を開始する。

彼はそれを、期待と不安の入り混じったような表情を浮かべながら見守っている。


本当に、大切な存在なんだろうな…

俺の中の魔獣使いに対するイメージは、バラクルが全てであった為、正直悪印象が強かったのだが、キリル君のお陰でそれが大分薄まった気がする。



「…さて」



俺は振り返り、イーナを見る。

彼女は動揺し、怯えたような目で俺を見ていた。

それだけで俺は非常に悲しい気持ちになったが、それで彼女を叱らないワケにもいかない。

彼女のした行為は、心情的にも許せないものだ。



「イーナ…」



「トーヤ、様…」



ああ、心が痛い。

親が子を思って叱るというのは、こんなにも心が痛くなるものなのだろうか?

本当の親になった事のない俺には、分かる筈もない疑問であった。


一度大きく深呼吸をする。

大袈裟かもしれないが、俺は心を鬼にするくらいの覚悟で、彼女を見据えた。




もう1つの連載である、バカとテンサイ~と交互に更新しているこの作品ですが、

次の更新はこちらを優先予定です。

何事も無ければ土曜~日曜にはアップします。

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