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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第4章 武闘大会編
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第133話 競技大会の説明




――――レイフ城・城下広場





「え~、皆さま、本日はお集まり頂きありがとうございます!」



相変わらずの腑抜けた挨拶に、からかうような声が上がる。

こうして集会を開くのはもう何度目かになるが、だんだんと皆も慣れたらしく、軽い雰囲気が出来上がっている。

威厳も何もありゃしないが、俺はこれで良いと思っているので問題は無い。

俺自身、上に立つ者としてどうかと思う部分も無くは無いのだが、偉そうにするのはどうにも性に合わなかったのだ。



「どうもどうも。さて、本日お集まり頂いたのはですね、実は荒神からこんなお知らせが届きまして…」



俺の声に合わせて、ライが紙を広げる。

ライの首元から下半身全体を隠すほどに大きいこの紙は、荒神から届いた知らせを、俺が書き写したものである。



「皆さま、目の良い方が多いので大丈夫だと思いますが、一応説明します。こちらは、亜人領競技大会のお知らせになります。知ってる方もいるかもしれませんが、なんでも荒神では毎年この時期、己の実力を計る機会として競技大会をやっているそうです。それで、このレイフの森にも参加者を募る案内が来ました。という事で、今日の集会はその参加者を募る事を目的に開きました。強制する事はありませんが、志願したい方は遠慮せず申し出て下さい。さて、そうは言っても競技内容が分からなければピンと来ないと思いますので、内容についてはこちらのスイセンより説明させて頂きます」



あとはお願いします! とアイコンタクトをとってスイセンに引き継ぐ。

こういった場に立つのは慣れていないのか、やや緊張した面持ちで前に出るスイセン。



「え~、おほん、それでは競技大会の内容についてご説明させて頂きます。まず大会についてですが、厳密には2つの大会が行われる事になります。1つは、9種類の能力値を測定し、その値を競い合う技能大会。もう1つが、それらの総合力を競う武闘大会です。スケジュールとしては、初日に技能大会、翌日に武闘大会という風に、二日に分けられて開催される事になります」



技能大会っていうのは多分運動会、というか陸上競技大会のようなものかな?

武闘大会についてはまんまなのだろうけど…



「技能大会における9種類の能力測定は、

体力

持久力

攻撃力

瞬発力

速度

知力

魔力量

魔力操作

耐久力

になります。測定方法については毎年微修正が加わりますが、大きく変化する事は無いでしょう。どれも簡単なものなので特に注意点などはありません。ただ、耐久力テストや魔力操作は、無理をし過ぎると翌日の武闘大会に影響が出る可能性がありますので、武闘大会に参加を予定する方は少し調整が必要かもしれません」



翌日に影響が出る可能性…?

なんかそれ、凄く怖いな。特に耐久力ってどうやって計るか想像つかない分怖すぎる。



「武闘大会は文字通り、闘争にて己の武を競い合う大会となります。武具の使用に制限は無し、勝敗は戦闘不能となるか、投了の宣言により決します。ただ、対戦相手を死亡させる、もしくはその意思を感じ取った場合は没収試合となる為、くれぐれも注意願います。大会はあくまで戦意高揚や強者選出の目的が強い為、そういった選手を害する行為はご法度です。判明した場合は罰せられることもあります。もし因縁が有るなど、どうしても殺し合いをしたいのであれば、魔王様に直接進言し、決闘を認めてもらうようにしてください。他の注意点は…、すいませんパッと思いつきません。ここからは質問形式で受付を行い、それに回答するというかたちを取りたいと思いますが、それで宜しいでしょうか?」



チラリと目線を送ってくるスイセン。

打ち合わせでは他にも色々と説明する予定だったが、どうも緊張して飛んでしまったらしいな…



「え~、という事なので、ここからは各自の質問を受け付けます。疑問のある方は挙手願います」



すると、ポツポツと控えめに数人が早速手を挙げた。

俺はひとまずその内の一人、ゲツを指名する。



「ではゲツ、質問をどうぞ」



「あの、トーヤ様は何故そんな怪我をされてるんですか?」



大会への質問じゃないのかよ!

いや、よく考えればゲツが大会に興味持つとは思えないんだけどさ!



「…これには深い事情があるのです。あと、大会以外の質問は控えて下さい」



俺は傷を擦りながら、暫し先程の出来事を回想する。





~~~~~~





俺はアンナに追いかけられ、人気のない外部演習場の外れに逃げ込んでいた。



「こんな人気のない所に私を誘導して、どうしようと言うのですか?」



いやいや、何ですかその誤解を招きそうな質問は!?

分かってるくせに…



「…冗談は止してくれないかアンナ。あんな大勢いる場で俺がアンナのような年端もいかぬ少女にボコボコにされたら、流石にマズイだろう?」



「トーヤ様こそご冗談を。トーヤ様が本気になれば、未だ私では及ばない事くらい理解しています。先日の件だってそうです。何故…、本気になってくれないのですか?」



少し悲し気に呟くアンナ。

どうやら本気でそう思っているらしい。

とんだ買い被りだが、それだけ俺の事を信頼しているとも取れる為、なんだか複雑な気分である。



「アンナ…。俺はこの前だって本気で立ち合ったぞ? その上での結果がアレなんだ。間違いなくアンナは強くなった。それは俺が保証する」



「そんな事はありません! トーヤ様が本気を出せば私な…ど…」



俺の雰囲気が変わった事を察したのか、言葉を詰まらせるアンナ。



「本気、というのはなりふり構わず、あらゆる技術を駆使して、アンナを殺しに来い…ってことかな?」



「それ…、は…」



「だとしたら、やはり冗談は止めてくれと言わせて貰うよ。そんな事、家族相手に出来るわけがないだろ?」



「トーヤ様…」



嘘偽りない気持ちだ。

だからこそアンナにはきちんと伝わっている筈。



「…すいません。私が、間違っていました…」



本当に反省したのか、アンナの感情が沈み込むように落ち込む。

その瞬間、普段鉄壁を誇るアンナの心の防壁に、僅かながら綻びが生じた。

俺はそれを感じ取り、アンナの気持ちを悟る。



「…構ってやれなくて済まなかった。さっきも言った通りアンナは強くなっているよ。よく頑張ったな」



アンナの柔らかな銀色の髪の毛を梳かすように、頭を優しく撫でる。

力を入れ過ぎれば容易く壊れてしまいそうな、そんな儚さを感じる感触に自分の至らなさを痛感させられる。

これ程の実力を持っていようと、アンナはまだ子供なのだ。

子供が親に構って貰おうとするのも、褒めて貰おうとするのも当たり前の事。

自ら親役を買って出た癖に、それを失念するなんて…、俺は大馬鹿者だな…



「っ!? 見ましたね!?」



「…すまん。意識して見たわけじゃ無いんだ。許してくれ」



アンナは頭を撫でられながら、嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな複雑な表情を作る。

撫でる手を止めない事から、やや前者が勝ってはいるようだが。



「…バレてしまったようなので開き直らせて貰いますが、トーヤ様は私を蔑ろにし過ぎです! アンネや他の子供達には進んで構いに行くのに!」



いやぁ、そういう意味では、本当にアンナを信頼していたからなんだけどね?

年長組のアンナとコルトは、特に大人びた雰囲気を持っている為、ある程度は子供達のまとめ役として頼らせて貰っている。

アンネに関しては少し不安定な部分もある為、それとなくフォローしていたのだけど、それが構っていると捉えられてしまったか…



「それに、お目付け役をお願いした筈の翡翠さんとは、何故か前よりも親密になっているし、挙句に他所で婚約者まで作ってきて…!」



む…、あれ? 不味いな。雰囲気が変わったぞ?

これは雲行きが怪しくなってきた…



「ま、まあ、結果的にそうなったが、別に何かあるわけじゃ…」



「私がどれだけ心配したか…。なのに…」



目が座っている。これはいかんね。



「アンナ、俺は急用を思い出した。また後で…」



そう告げて速やかに撤退しようとした俺の手を、アンナの細腕ががっしりと捕らえる。



「…組手をする約束だった筈です」



「…はい」



こうして俺は、またしても少女のストレス発散に付き合う事になったのだった。





~~~~~~





「事情って、痴情のもつれですか?」



「断じて違う! さあ、次の質問は!」



「ハイ!」



元気よく手を挙げたのはシアの娘、セシアである。

オークであるセシアの成長速度はとても早く、まだ生まれて半年足らずだと言うのに、6歳のエステルと同じ程度まで育っていた。



「その大会は子供でも出れますか!」



どうなんだ? とスイセンに視線を送る。



「残念ながら子供は参加できません。ですが、武闘大会については子供の部を用意しています。年齢は14歳未満までです。ただ、成長速度は種族によって異なりますので、低年齢での参加はあまり勧められません」



成程…。確かにオークの13歳となれば、体だけは完全に大人と言って良い状態だろう。

種族的に劣る部分を加味すれば、多少は誤魔化しが効くかもしれないが、体格差がつくのは如何ともし難い。

かといってそれを考慮すれば大会は煩雑となる為、参加する子供はなるべく高年齢を推奨している、という事だろう。



「やったぁ! パパ! セシアも出るね!」



質問をしたくらいだから、本人は出る気満々だったのだろう。

しかし、セシアは年齢的にちょっとな…

いや、でも闘仙流の門下生であり、俺を父と慕う少女の成長を見てみたい気持ちも無くは…。うーむ…



「ハイ! 殺す意思を感じ取るっていうのはどうやって判断をするのでしょうか?」



「それは敵意に敏感な種族が監視を………」




その後もハイ! ハイ! と次々に挙手が続き、集会は予想以上の盛り上がりを見せるのであった。




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